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「可能でしたら、モンスターと戦う時は、私を置いて、戦って下さいませんか?」
「えっ?……俺が戦ってる時、チェルシーが他のモンスターに襲われる可能性もあるぞ?一緒にいるのが一番安全だと思うんだが」
「……そうなのですか?」
今度は私が驚いた。
まさか、他のモンスターからも守る為に私を抱き抱えたまま戦っていたというのか。

そもそも、森に足を踏み入れることは基本的にないので、そんなに危険な場所だなんて知らなかった。
そんな会話を繰り広げながら、私とジュノは手を繋いで歩く。

「では……もう少し、ゆっくり歩いて下さいますか?」
「うん?チェルシーにはこれでも速いのか」
人の足に付いて行けず、額に汗をかきながら歩くなんて初めてだ。
「やはり、抱いていこうか?チェルシーは何だか良い匂いがして、気分がよくなるんだ」
ストレートにそう言われ、少し恥ずかしくて俯きながら、私は答える。
「いいえ、私も自分の足で、この国を歩いてみたいのです」

けれども、そうした初めてのことが全て楽しい。
ジュノは私が何をしても、何を言っても、本当に怒ることがなかった。



***



ジュノに連れられて来た場所は、壁を掘ったり崖を掘ったりして出来たような場所だった。
魔族の国の人々は、洞窟や洞穴を住居にしているらしく、ジュノのような人間型の人から、一見して魔族とわかるような人まで、色んな人達が行き交っていた。


「──ジュノ様!!」
「おー、ただいま」
洞窟住居を見学しながら先に進むと、神殿のような場所から人がこちらへ駆け寄ってくる。

「一体どちらへ行かれていたのですか!?王がお探しですよ!!──おや、そちらは……隣国の人間ですかな?ジュノ様が捕らえた人質ですか?」
「いや、彼女は俺の……そうだな、嫁だ」
「……は?」
「え?」
ジュノの言葉に、声を掛けてきた魔族の人と私は目を丸くした。

「どうせまた、妃選びの話だろう?なら、俺は彼女を……チェルシーを伴侶にする。父にはそう伝えとけ」
「ジュノ様!そんな弱い人間を妃になど、本気ですか!?王が何と言うか……ジュノ様!ジュノ様!!」
焦ったような、悲鳴に近い声を後ろに聞きながら、私はジュノに手を引かれてその神殿のようなところの中へ入っていく。

「あの、ジュノ?」
「ん?」
「そ、その、今……」
父が王とはどういうことか、とか。
私を嫁や伴侶と言ったのは本気か、とか。
今話し掛けてきた人を素通りしていいのか、とか。
ここは何処なのか、とか。

聞きたいことが沢山頭の中でぐるぐるしているのに、私は言葉を続けることが出来なかった。

どうしよう。
出会ったばかりなのに、明確に文化の違いがあり過ぎるとわかりきっているのに、心浮き立つこの感じは、間違いなく喜び、だった。
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