フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

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第三章 新婚(調教)編

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「まぁ、キララが怖い思いをしないで済んだのは良かったけど……」
俺は気が気じゃなくて怖かった、と良ちゃんの言葉の続きを聞いた気がした。良ちゃんの瞳には、明らかに怒りよりも心配や悲しみの感情が色濃く浮かんでいる。
「心配掛けて、ごめんなさい……」
私が謝ると、良ちゃんは苦笑した。
「キララの魅力は、俺が一番よくわかっていたのに……何で、閉じ込めておかなかったんだろう……」
私の頬を優しく掌で擦りながら、そう呟く良ちゃんの瞳は暗く淀んでいる。
「良ちゃん?何もなかったんだから……」
大丈夫、と言いたかったけれど。
「今回はたまたま、無事だっただけかもしれないよ?俺が駆け付けるのがもう少し遅かったら、どうなってたと思うの?」
そう言われてグッと黙る。
私を責めるように言いながらも、良ちゃんはむしろ、自分を責めているように見えた。だから、それ以上何も言えなかった。
でも、人妻であると知っていて尚、手を出すなんて人がいるとは本当に思わなかったのだ。
「良ちゃん、ごめんね」
辛そうな表情のまま、良ちゃんはグラスに入った水を口に含み、動けない私に口移しでそれを飲ませた。新居で初めて朝を迎えた日も、こうして口移しで水を飲ませて貰ったことを思い出して、そんな場合じゃないのに私の下半身がじゅんと潤ってしまう。
「キララが無事で、本当に良かった……」
そんな私の事情を知るよしもない良ちゃんは私の上に覆い被さり、ぎゅうっと抱き締めてきた。私も抱き締めたいのに、手錠がガチャガチャと鳴るだけでそれは叶わない。良ちゃんに反省しなさい、と言われているかのようだ。
「キララ、頭は大丈夫?即効性はあるけど依存性がない薬でまだマシだったとは言え、薬が切れた時に頭痛がするらしいんだけど」
く、薬!?私は急に怖くなった。自分の麦茶しか飲んでいなかったのに、何で!?
「少し痛いけど、痛み止めの必要はない位の痛みだよ」
そんな物を使うような人とお付き合いしてて、茂木さんは大丈夫なのだろうか?
「あれ?でも茂木さんは……?」
私が勝手に寝たと思っていたけれども、薬で寝かされたのだとしたら茂木さんは?私が疑問に思って良ちゃんに聞くと、良ちゃんは酷く冷たい顔をしていて
「キララ、あの女は男達とグルだから。グルっていうより、あの女がキララを売ったって言った方がいい」
「……え?」
良ちゃんから言われた意味がわからず、困惑する。何で私?
「あの男達はホスト。茂木が随分と入れ込んで金を注ぎ込んだらしいんだけど、相手にされなかったところに、あいつらから誰か可愛い子を紹介したら一晩遊んであげるって言われたらしい」
「えっ?そうなの?」
あのリョーヘイと呼ばれていた人は、茂木さんの彼氏じゃなかったのか。
「誰と付き合ってようが、人妻だろうが関係ないからって言われてたらしいよ。むしろ、人妻なら犯した後に脅迫してお金も身体も継続して搾り取れるからいいんだって」
「……」
あまりの酷い話に、私はぶるりと震えた。
目が覚めてから私一人能天気でいたけれども、今なら良ちゃんの焦りがよくわかる。もしその時、良ちゃんが駆け付けてくれなければ、私はこれから笑って良ちゃんの傍にいられたのだろうか?
「キララ、あの男二人と茂木の処分どうする?」
「え?」
良ちゃんは薄暗く笑いながら言った。
「俺に任せてくれる?」
「うん」
私は頷く。裁判とかよくわからないし、実際自分が何かされた訳じゃないから事情説明を求められても困ってしまう。
ただ、良ちゃんから色々言われて、気を付けていたつもりだったのにこんなことに巻き込まれる自分が情けなかった。良ちゃんが心配性だと思っていたけれども、私が無頓着なだけなのが露呈された形になってしまって恥ずかしい。
「でも、茂木さんは……」
「まだあの女のこと気にしてるの?」
私は首を横に振る。
「そうじゃなくて、多分本人も、どこかで引き返したかったと思うんだ」
やっぱり男は顔で選んじゃいけなかったのかなぁ、と言った時の茂木さんの寂しそうな顔を思い出した。やってはいけないこととわかっていても彼に振り向いて欲しい気持ちと、彼女の中の常識が葛藤を生んで……だから久しぶりに会った時、やつれて疲れた印象だったんだろう。
「まぁ、ホストに貢ぐのに給料じゃ到底足りなくて、結果的に会社の金横領したのがバレて首にもなったらしいしな」
「そっか……」
私の胸に、苦い気持ちが染みのように広がっていく。恋心とは、恐ろしいものだ。私が好きになったのが良ちゃんでなければ、万が一何かが間違っていれば、茂木さんの立場にいたのは彼女じゃなくて自分だったのかもしれない。
「私、良ちゃんを好きになって良かった」
私がそう言うと、良ちゃんは「何、どうしたの急に」と驚きながらも照れた様子だ。
「私は茂木さんにもう会いたくないから、もし良ちゃんが会うなら……伝えておいて」
「うん」
「茂木さんは、鑑定士が向いていると思うって」
「うん……ん?」
良ちゃんは、私と付き合って一番の困惑した表情を浮かべた。私はそれを見て、思わず笑った。笑える今日を迎えることが出来て、良かったと思った。
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