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第三章 新婚(調教)編
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「ん……」
ある日私が起きると、ガチャ、という音がした。
「……え?」
「キララ、気付いたの?……良かった」
「良ちゃん……?」
良ちゃんはいつも通りニコニコと笑っているのに、背筋がゾクッとする。現状を把握しようとして起き上がろうとしたけれども、再び金属音が響くだけで私は起き上がることが出来ない。見れば、両手が万歳の形でベッドに繋がれていた。
「良ちゃん、これ……」
私は戸惑いながら良ちゃんに聞く。今は何時だろう?
「ん?手錠だよ。簡単にお持ち帰りされちゃうような奥さんには必要だよね」
「え?……っ、あ……」
良ちゃんの言っている意味がわらかず首をひねった時に頭痛がして、漸く自分がこうなる前の直前の記憶が蘇った。
退勤して駅の改札口を入る前に私は後ろから「戸枝さん!」と声を掛けられた。
私の名前はもう山田だけど、自分のことかと思って思わず振り向く。そこには大学時代にゼミで一緒だった女性が立っていた。
相変わらず可愛い感じだけど、少しやつれて疲れた様子の……名前はええと……そうだ、茂木さん。
「久しぶりだね、茂木さん」
「戸枝さん!会えて嬉しい~~!ねぇ、これから時間あったら、少し飲まない?」
「え?」
随分と急なお誘いだったけれども、私は定時上がりが出来ている上、良ちゃんは帰宅が遅いと聞いている。ただ、二人で飲むほど茂木さんとは親しくはない訳で……間がもたないかもしれない、と思った。
「あの、残念だけど……」
「ちょっと相談にのって貰いたくて……。お願い、戸枝さんにここで会えたのは何かの縁だと思うんだよね」
「うーん……」
相談事と言われて、私は悩む。あまり親しくもない私に相談する位なら、かなり切羽詰まっているのかもしれない。ここで断って茂木さんが大変なことになったら、あの時どうして相談すら聞いてあげなかったのだろうと後悔するかもしれない……。
良ちゃんが早く帰って来るならまだしも、今の自分には余裕がある。だから、少し悩んで良ちゃんにメッセージアプリで連絡だけして、結局彼女と二人で居酒屋に行くことにした。後からお店に入ると、茂木さんは四人席のボックスに座っていて、私は彼女の向かいに「お待たせ」と言いながら座る。
「生お願いしまーす!戸枝さんは?」
「私は麦茶でいいや」
「……ふーん。戸枝さんって本当にお酒駄目だったんだ」
「?うん、飲むと身体が痒くなるの。多分体質に合わないんだと思う」
「へー」
本当に駄目、とはどういう意味だろう?と思いながらも、二人でお通しを摘まみながら雑談した。
「そう言えば、山田君とまだ上手くいってるの?」
「……結婚したよ。今は私も、山田なんだ」
「ええ!?戸枝さんが山田君と!?……信じられない……」
凄く幸せだよ、と言おうとしてやめた。茂木さんは何か悩んでいる最中で、そんな時にこんな惚気を聞いても楽しくないかもしれないから。私が曖昧に笑えば、彼女は私の薬指に嵌った結婚指輪を見て「ほんとに結婚したんだね」と言いながらビールを煽った。
「うわ!でも凄く高そうな結婚指輪! 」
茂木さんは「もっとよく見せて」と言いながら私の手を取り薬指に嵌った指輪をじっくり眺める。何だか恥ずかしくて、こそばゆい。
「……戸枝さんってブランドに興味がなかった記憶があるんだけど……今着てるもの、皆高級品だよね」
茂木さんにそう言われて驚く。
確かに、今着ている服は結婚してから良ちゃんのお義母さんがおススメしてくれたブティックで購入したものだ。値札がついていなくてオロオロする私に良ちゃんが「値段がわかると本当に買いたい服をキララが遠慮しちゃうでしょう?俺が払うから、何着でも選んでいいよ」と言うので、通勤用にいくつか選んだもののひとつ。有名ブランド品みたいにゴテゴテブランドのマークがついていないから、少なくとも私にはこの服が高級かどうかなんてわからないのだけれども、見る人が見れば直ぐにわかってしまうものらしい。
そう言えば、茂木さんはブランド品に詳しかったから、大学時代に初めて良ちゃんから貰ったムーンストーンのネックレスだって、「それ十万以上するよね?」と彼女だけが言っていた。その時は良ちゃんがお金持ちだなんて知らなかったから、「そんな訳ないよ」と否定したけど、実際後で知ったところによるとムーンストーンよりもダイヤの比率の方が高くて彼女の方が正しかったのだし。
「いいなぁ、山田君は稼ぎがいいんだね」
そう言われて、私はなんとなく居心地が悪くなる。お金持ちだから、稼ぎがいいから、良ちゃんを選んだ訳じゃないのだけど……。気後れしない相手を選んだつもりだったのに、蓋を開けたら何故かこうなってしまっただけで。
私は麦茶を飲みながら、さっきから私の話ばかりで肝心の茂木さんの話が聞けていないことに気付いた。そうだ、そろそろ本題に入ろう。そう思った私の横で、「あーあ、やっぱり男は顔で選んじゃいけなかったのかなぁ」と、茂木さんがポツリと呟く。
「何かあったの?」
私はこれ幸いと話にのった。
ある日私が起きると、ガチャ、という音がした。
「……え?」
「キララ、気付いたの?……良かった」
「良ちゃん……?」
良ちゃんはいつも通りニコニコと笑っているのに、背筋がゾクッとする。現状を把握しようとして起き上がろうとしたけれども、再び金属音が響くだけで私は起き上がることが出来ない。見れば、両手が万歳の形でベッドに繋がれていた。
「良ちゃん、これ……」
私は戸惑いながら良ちゃんに聞く。今は何時だろう?
「ん?手錠だよ。簡単にお持ち帰りされちゃうような奥さんには必要だよね」
「え?……っ、あ……」
良ちゃんの言っている意味がわらかず首をひねった時に頭痛がして、漸く自分がこうなる前の直前の記憶が蘇った。
退勤して駅の改札口を入る前に私は後ろから「戸枝さん!」と声を掛けられた。
私の名前はもう山田だけど、自分のことかと思って思わず振り向く。そこには大学時代にゼミで一緒だった女性が立っていた。
相変わらず可愛い感じだけど、少しやつれて疲れた様子の……名前はええと……そうだ、茂木さん。
「久しぶりだね、茂木さん」
「戸枝さん!会えて嬉しい~~!ねぇ、これから時間あったら、少し飲まない?」
「え?」
随分と急なお誘いだったけれども、私は定時上がりが出来ている上、良ちゃんは帰宅が遅いと聞いている。ただ、二人で飲むほど茂木さんとは親しくはない訳で……間がもたないかもしれない、と思った。
「あの、残念だけど……」
「ちょっと相談にのって貰いたくて……。お願い、戸枝さんにここで会えたのは何かの縁だと思うんだよね」
「うーん……」
相談事と言われて、私は悩む。あまり親しくもない私に相談する位なら、かなり切羽詰まっているのかもしれない。ここで断って茂木さんが大変なことになったら、あの時どうして相談すら聞いてあげなかったのだろうと後悔するかもしれない……。
良ちゃんが早く帰って来るならまだしも、今の自分には余裕がある。だから、少し悩んで良ちゃんにメッセージアプリで連絡だけして、結局彼女と二人で居酒屋に行くことにした。後からお店に入ると、茂木さんは四人席のボックスに座っていて、私は彼女の向かいに「お待たせ」と言いながら座る。
「生お願いしまーす!戸枝さんは?」
「私は麦茶でいいや」
「……ふーん。戸枝さんって本当にお酒駄目だったんだ」
「?うん、飲むと身体が痒くなるの。多分体質に合わないんだと思う」
「へー」
本当に駄目、とはどういう意味だろう?と思いながらも、二人でお通しを摘まみながら雑談した。
「そう言えば、山田君とまだ上手くいってるの?」
「……結婚したよ。今は私も、山田なんだ」
「ええ!?戸枝さんが山田君と!?……信じられない……」
凄く幸せだよ、と言おうとしてやめた。茂木さんは何か悩んでいる最中で、そんな時にこんな惚気を聞いても楽しくないかもしれないから。私が曖昧に笑えば、彼女は私の薬指に嵌った結婚指輪を見て「ほんとに結婚したんだね」と言いながらビールを煽った。
「うわ!でも凄く高そうな結婚指輪! 」
茂木さんは「もっとよく見せて」と言いながら私の手を取り薬指に嵌った指輪をじっくり眺める。何だか恥ずかしくて、こそばゆい。
「……戸枝さんってブランドに興味がなかった記憶があるんだけど……今着てるもの、皆高級品だよね」
茂木さんにそう言われて驚く。
確かに、今着ている服は結婚してから良ちゃんのお義母さんがおススメしてくれたブティックで購入したものだ。値札がついていなくてオロオロする私に良ちゃんが「値段がわかると本当に買いたい服をキララが遠慮しちゃうでしょう?俺が払うから、何着でも選んでいいよ」と言うので、通勤用にいくつか選んだもののひとつ。有名ブランド品みたいにゴテゴテブランドのマークがついていないから、少なくとも私にはこの服が高級かどうかなんてわからないのだけれども、見る人が見れば直ぐにわかってしまうものらしい。
そう言えば、茂木さんはブランド品に詳しかったから、大学時代に初めて良ちゃんから貰ったムーンストーンのネックレスだって、「それ十万以上するよね?」と彼女だけが言っていた。その時は良ちゃんがお金持ちだなんて知らなかったから、「そんな訳ないよ」と否定したけど、実際後で知ったところによるとムーンストーンよりもダイヤの比率の方が高くて彼女の方が正しかったのだし。
「いいなぁ、山田君は稼ぎがいいんだね」
そう言われて、私はなんとなく居心地が悪くなる。お金持ちだから、稼ぎがいいから、良ちゃんを選んだ訳じゃないのだけど……。気後れしない相手を選んだつもりだったのに、蓋を開けたら何故かこうなってしまっただけで。
私は麦茶を飲みながら、さっきから私の話ばかりで肝心の茂木さんの話が聞けていないことに気付いた。そうだ、そろそろ本題に入ろう。そう思った私の横で、「あーあ、やっぱり男は顔で選んじゃいけなかったのかなぁ」と、茂木さんがポツリと呟く。
「何かあったの?」
私はこれ幸いと話にのった。
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