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第二章 カップル(ABC)編

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キララと付き合えるようになって……いや、キララに惹かれてから、俺の世界の色は変わった。
以前は何をしていても無感動無関心で、ただ訪れる時間を無為に過ごしていたと思う。
自分の夢も信念も熱意もなく、敷かれたレールの上を進めば人生そこまで失敗しないだろうから、誰もが経験する人生の選択すらも他人任せにしていた。大きな苦しみがない代わりに、大きな楽しみもなかった。常に低燃費で生きていて、学校行事に盛り上がるクラスメイト達に笑顔で混ざりながら、心の奥底の温度差を冷めた感情で見ないふりをした。
それが、マンモス校で雪崩のように歩く女子生徒一人一人の顔を見てキララを確認したり、キララのクラスが何をしているのか気になったり、キララに告白した奴がどんな奴なのか気になったり、キララのバイト先まで行ってみたり。
所謂普通の容姿で、彼女と釣り合いの取れない外見であることが俺の唯一のブレーキだったと思う。食堂での会話の盗み聞きで、単なる淡い恋心で済んでいたものが、大きく指針を変えた時、今までは考えられないような行動をキララは俺に取らせるようになった。
金の力を使ったのも初めてだったし、親の敷いたレールを大きく外れたのも初めてだった。
何かを手に入れる為に頭や時間を使うのも初めてだったし、自分の願いを叶える為に両親に何かをお願いするのも初めてだった。
それが、良い変化なのか悪い変化なのかはわからない。
わかるのは、俺はただキララを手に入れる為だけに動いたし、付き合うことでそれは半分成功したということだ。
キララと付き合うことが、俺の目的ではない。キララと結婚し、彼女を完全に俺のものにすること……そして、誰からも手出しさせない立場を維持し続けることだった。そこまでの経緯……やり方は合法的でなくとも、着地点だけは合法的に。
半分狂ったようにキララを求めながらも、キララや他人の前で「普通」を装う俺は、滑稽でいてそれでも初めてがむしゃらに努力したと思う。
キララから告白された時、我ながらよく平静を装って叫ばなかった。キララがやっと、俺の手の中に落ちてきた幸運に心から感謝した。後は蜘蛛の巣に引っ掛かってくれたキララが再び飛び立たないように、ぐるぐると糸を巻き付けて雁字搦めにするだけだ。
付き合い始めてから余計に、俺の世界はキララが中心となった。
だから余計に、俺は恐怖した。だから、一度手に入れてしまった宝物を万が一にも奪い取られないように、キララに寄ってくる害虫は早めに駆除することにした。
ゼミの仲間の前でデートの約束をすれば、早速その日のうちに動きがあった。俺のことをよく知りもしない奴らに、「お前なんかが戸枝さんと釣り合うとでも思っている訳?」と囲われたのだ。「勿論、釣り合うなんて思ってないよ」と俺は笑って答えた。
彼女が俺のことを好きな気持ちと、俺が彼女のことを好きな気持ちを比較すれば、決して釣り合いなんて取れていない。
彼女は俺と別れても肩を落とすか泣くくらいだろうが、俺は発狂してストーカー行為で付きまとって監禁するだろう自信がある。
「そう思っているなら、さっさと身を引いた方がお前の為だと思うけど」
そう、イケメン達は俺に捨て台詞を吐いて去って行った。殴られるのかと思っていたから、多少拍子抜けした。
けれども敵を知らないのに喧嘩を吹っ掛け、自分の都合だけをこちらに押し付けてくる頭の悪いやつらを、仮にゼミの中だけの付き合いだとしても、そもそもキララと関わらせたくはない。
奴らが去って、俺が合図すると、見掛けはチャラい同じ大学生が顔を出す。童顔だから大学生に見えるが、社会人だ。探偵業的な仕事をしていて結構使えるので雇っている。
「流血沙汰にはなりませんでしたね」
「ああ。増田、今のやつらの分、処理頼む」
同じゼミ生の弱味は全員分抑えてあったから、処理はスムーズにいくだろう。
「リョーカイです。一人百万、全員で三百万になりまーす!上手くいかなかった場合は追加料金発生しますよ。毎度ありぃ」
「明日現金一括で渡すよ」
「振込の方が楽なのに……まったく、振込履歴気にすんのも仕方ないかもしれないけど、そんなミスしないようにするから振込にして欲しいなぁ。嫌なんだよね、大金持ち歩くの」
ぶつぶつ文句を言いながら、それでも増田はいい仕事をした。その後奴らにはそれぞれ彼女ができてキララに必要以上接触することはなくなったし、唯一上手くいかなかった奴は何やら実家が大変なことになったとやらで大学を中退したからだ。
俺達の関係について文句を言う奴らが消え、わざと害虫を炙り出すような真似をした甲斐はあったな、と思いながら俺とキララにとって平穏な大学生活を手に入れることに成功した。


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