フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

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第二章 カップル(ABC)編

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「それ、可愛いんだけど俺が使うには可愛すぎて外で使えないから、結局日の目を見ないんだよね」
えええ!?私は愕然とする。確かに、良ちゃんがこのエコバッグを使っているところを私は一度も見たことなかった。
「そっかぁ、勿体ないねぇ。沢山持ち歩いて普及して、信者を増やしたいよね」
ブサカワ犬キャラクターグッズは結構マニアックなグッズだから、やっぱりファンが持ち歩いて普及活動に力を入れないと今後のグッズの発売にも差し障りが生じてしまう。
良ちゃんはうんうんと頷きながら、「よければキララが使う?あ、でも持ってるんだっけ?」と私に聞いてきた。
勿論私はその話に飛びつく。持ってるんじゃなくて、持ってたんです!
「え?いいの?えとね、私が持っていたエコバッグ、ちょっと駄目にしちゃって……もし、良ちゃんが使わないなら……欲しいな」
心から欲しいです。
「いいよ、勿論。俺は人から貰っただけだからさ」
「う、嬉しい……!!ありがとう、大切に使わせて頂きます」
私はそのエコバッグを改めてじっくり眺める。うん、やっぱり可愛い。鞄掛けからそれを取って、丁寧に折り畳んで、自分の鞄にいそいそとしまった。五年前に手放したエコバッグがこんな風に手元に戻って来るなんて思っていなくて、嬉しくなる。
やっぱり良ちゃんは、いろんな意味で私の運命かもしれない……そう思いながら良ちゃんの後ろ姿を眺めた。


良ちゃんのいるキッチンは一口のIHコンロで、料理を本格的にするのは難しそうだ。母子家庭で料理なら少し出来る方だから、もしこれから何回もお邪魔させて貰えるのならばキッチンを借りたいと思っていたけど、残念だ。
でも諦めきれなくて、冷蔵庫は単身者用にしてはちょっと……いやかなり大きく見えるから、何か作って持ってくるなら出来るかもしれない、なんて彼女らしい事をしてみたくて勝手に妄想してしまう。
「お待たせ」
「ありがとう」
良ちゃんがシンプルな白いマグカップを渡してくれるのを、両手で受け取る。……ベタすぎるのはわかっているけど、いつかペアのマグカップとか置かせて貰えないだろうか?とか考えてしまう。
丸テーブルはないけれども、ベッドの横にサイドテーブルはあったみたいで、良ちゃんはそれを引き寄せ、そこにマグカップを置いていた。ふとその中身を見て、あれ?と思う。
「……良ちゃん、ブラックも飲むの?」
良ちゃんのコーヒーの色はとても牛乳が入っているようには見えない色で。でも私のマグカップの中には、きちんと砂糖と牛乳が入っていて。だから、それらがなかったから、とは思えない。
「ああ、最近飲むようになったんだ」
「そうなんだ」
以前缶コーヒーを奢った時は、私と一緒だったのに。良ちゃんと一緒じゃなくてちょっと寂しい。……なんて思っていると。
「今度、キララが良ければ、一緒にマグカップ買いに行かない?」
「良いの?」
良ちゃんの提案が嬉しくて、顔が勝手に綻ぶ。
「うん、後、勉強用の机も、かな?うちにはこれしかないんだよね」
良ちゃんがクローゼットから取り出したのは、ベッド上で使える折り畳み式のテーブルだった。どうやら普段、サイドテーブルはお菓子やお茶を置いて、折り畳み式テーブルを書き物用のテーブルとして使っているらしい。
「ううん、わざわざ買う必要ないよ。この長さなら横並びで使えるよね?」
対面だとテーブルにノートが乗るスペースが狭くなってしまうけれども、横並びなら何の問題もない。
良ちゃんは苦笑しながら言った。
「ええと……それだと、キララもベッドに上がって貰うことになっちゃうけど……」
珍しく歯切れが悪い。私がベッドに上がってしまうと、何か問題あるのだろうか?
「うん、良ちゃんが嫌じゃないなら」
「嫌というより……流石に、キララに何もしない自信がなくて……」
……!!
私は良ちゃんのその言葉に、顔が熱くなった。
「……ごめん、変な事言って。でも、」
「ううんっ!!」
雰囲気とかタイミングとか勢いが大事って繭ちゃんも言っていた。だから、今が絶好の機会な訳で。
「あのね、私は、その……」
「うん」
「あの……!」
私は俯いて、目をぎゅっと瞑った。どうしても、先の言葉が出てこない。長いような短いような時間が過ぎて……私の頬に良ちゃんの指先が触れたのを感じ、私はそろ、と目を開け彼を見た。そこには優しく微笑む、良ちゃんがいて。
「……キララ、キス、しても良い?」
「……うん」
もう一度、ぎゅっと目を瞑った私の唇に、良ちゃんの唇が重なった。
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