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第一章 出会い(囲い込み)編
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山田さんと話していると、本当にたわいもない話ばかりで気が楽だ。
今見ているテレビ番組、ハマっている投稿動画、聞いている曲、好きな映画。そんな普通の会話で盛り上がり、今日が初めてとは思えない程楽しい時間を過ごす事が出来た。
「あ!もうこんな時間!!ごめんねキララ、先に抜けるけど……山田君、あとはよろしく!」
「ああ。バイト頑張れ」
「いってらっしゃい、気を付けてね」
途中で繭ちゃんが懇親会を抜ると、その席に「ここ空いた?」とサワーを片手にした男性が、私の返事待たずにすとんと座った。ゼミが始まる前に私に声を掛けてきた男性だ。
私は思わず山田さんと目を合わせる。
「まさか、大学のミスキャンパス戸枝さんと同じゼミになるとはな~!俺、町田って言うんだ。これから二年間、よろしく!」
前に座った町田さんが、すっと手を出してきた。さっき山田さんともした、握手だ。手首にちょっと凝った感じのシルバーアクセサリーが光っていた。
こう言っては山田さんに失礼だが、山田さんと違って町田さんはちょっと軽そうに見えるけど、十人中七人は格好いいと言いそうな整った顔をしている。
小学校や中学校、高校でも、こうした所謂女子に人気の男子とペアを組んだりグループが一緒になったりすると、その男子に憧れていた女子から無視されたりする事もあった。
それが仮に私から求めた訳でなくても、だ。
ただ、普通の男子の場合はその限りではないから、私が気楽に話せるのは山田さんタイプの人達で。けれども、山田さんみたいな普通の人達は、逆に私に近付く事はなかった。
私が「……戸枝です、よろしくお願いします」と挨拶は出来ても他の女性陣が気になりなかなか手を出せないでいると、横から山田さんが「山田です、よろしく」と町田さんの手に自分の手を置いた。
「うげ!男と握手しちった!山田もこれからよろしく!」
私の代わりに山田さんと握手した町田さんは、私が握手に応じなかった事は言及せずに案外気さくに接してくれて、ホッとする。
「戸枝さんは何飲んでるの?あれ?お酒駄目な人?」
お酒はあまり良いイメージがない。高校……いや、下手すると中学の頃から、私にお酒を飲ませようとする人達が周りに何人かいたから。当然、未成年の私にお酒を勧める魂胆なんて、流石にわかりきっている訳で。
「はい。得意じゃなくて」
こう答えれば、大抵次の返事でその男の本音がわかる。
「そうなんだ。あ、でもこれなら美味しいよ。女の子でも飲みやすい味で」
町田さんはアウトだった。仮に今の発言が本心からでそれ以外の他意はなかったとしても、今までの私の経験がそう告げている。そして、町田さんみたいなこの反応は、イケメンで自分に自信のある人程しやすい。きっと、「じゃあ少し飲んでみようかな」なんて返事ばかり受け取っているのだろう。
「それアルコール度数何度?」
山田さんが、さらっと町田さんに聞いた。
「えーっと……五%くらい?」
「ふーん。戸枝さん、五%のお酒ってどう?」
「無理、かな。身体が痒くなりそうだから、やめておくよ」
「それは可哀想だな。やめておいた方が良いね。折角の懇親会なんだし、楽しく終えたいよね」
ニコニコと笑顔を浮かべる山田さんの援護で、町田さんの勧めるお酒を飲まずに済んだ。
成る程。アルコール度数を聞けば、こうして断りやすくなるのか。心の中でメモる。
「すみません、町田さん」
「いやいや、むしろ無理に勧めちゃってごめんね」
町田さんはちょっと気まずそうに笑い、私に向けて差し出していたグラスを置く。
「美味しそうだね。私貰っていーい?」
今度は町田さんの隣に、ふわふわとした印象の可愛い女性が座る。
「これ?お前飲むの?」
「うん」
繭ちゃんの男友達が肘で押されて苦笑し、少しスペースを広げてあげていた。
「戸枝さんって……有名ですけど、結構質素なんですね」
「え?」
先程から、野菜だけでなくお肉も魚も脂っこいものも甘い物も食べているから、何をどう質素と言われたのだかわからず首を傾げる。
「ほら、ミスキャンパスなのに、全然ブランド品つけてないですよね?アクセサリーも」
そう言われて初めて、彼女が質素と言っているのが、私の姿恰好に対してである事に気付いた。
「ああ、はい。ブランド品なんて全然持ってないです」
うちはシングルマザーだし、バイトはしているけれども、こうした懇親会や友達との遊びに行くお金に使っているから、ブランド品なんかに回るお金なんて持ってはいなかった。
「へーそうなんだぁ……何か意外。いくらでも貢いでくれる人、いそうなのになぁ」
そう言われて、私はどう返して良いのかわからず口を噤む。
「そういう茂木さんは、上から下まで全身ブランド品だよね」
「え~!山田君でもそういうのわかるのぉ~?」
茂木さんという名前だったらしい彼女は、山田さんの質問にちょっと嬉しそうに笑った。
「いや、全然わからない。俺、全身量販店でコーディネートだから」
「もぉ~!勘って事ぉ?山田君も少しはお洒落に興味持ちなよぉ!」
「私も庶民だから、全身量販店コーディネートだよ」
助け船を出してくれた山田さんがそんな事を言われてしまったので、慌てて私も便乗した。正直山田さんのそういう飾らないところ、良いと思う。
「え?そうなの!?戸枝さんが着ると、ブランド品に見えるから不思議だね」
町田さんがそうフォローを入れてくれたけど、それは逆効果で私は内心焦る。茂木さんの顔が一瞬にして不機嫌そうになってしまったから。
私の為を思うなら、この場から去るか、茂木さんを褒めて欲しかった……。
今見ているテレビ番組、ハマっている投稿動画、聞いている曲、好きな映画。そんな普通の会話で盛り上がり、今日が初めてとは思えない程楽しい時間を過ごす事が出来た。
「あ!もうこんな時間!!ごめんねキララ、先に抜けるけど……山田君、あとはよろしく!」
「ああ。バイト頑張れ」
「いってらっしゃい、気を付けてね」
途中で繭ちゃんが懇親会を抜ると、その席に「ここ空いた?」とサワーを片手にした男性が、私の返事待たずにすとんと座った。ゼミが始まる前に私に声を掛けてきた男性だ。
私は思わず山田さんと目を合わせる。
「まさか、大学のミスキャンパス戸枝さんと同じゼミになるとはな~!俺、町田って言うんだ。これから二年間、よろしく!」
前に座った町田さんが、すっと手を出してきた。さっき山田さんともした、握手だ。手首にちょっと凝った感じのシルバーアクセサリーが光っていた。
こう言っては山田さんに失礼だが、山田さんと違って町田さんはちょっと軽そうに見えるけど、十人中七人は格好いいと言いそうな整った顔をしている。
小学校や中学校、高校でも、こうした所謂女子に人気の男子とペアを組んだりグループが一緒になったりすると、その男子に憧れていた女子から無視されたりする事もあった。
それが仮に私から求めた訳でなくても、だ。
ただ、普通の男子の場合はその限りではないから、私が気楽に話せるのは山田さんタイプの人達で。けれども、山田さんみたいな普通の人達は、逆に私に近付く事はなかった。
私が「……戸枝です、よろしくお願いします」と挨拶は出来ても他の女性陣が気になりなかなか手を出せないでいると、横から山田さんが「山田です、よろしく」と町田さんの手に自分の手を置いた。
「うげ!男と握手しちった!山田もこれからよろしく!」
私の代わりに山田さんと握手した町田さんは、私が握手に応じなかった事は言及せずに案外気さくに接してくれて、ホッとする。
「戸枝さんは何飲んでるの?あれ?お酒駄目な人?」
お酒はあまり良いイメージがない。高校……いや、下手すると中学の頃から、私にお酒を飲ませようとする人達が周りに何人かいたから。当然、未成年の私にお酒を勧める魂胆なんて、流石にわかりきっている訳で。
「はい。得意じゃなくて」
こう答えれば、大抵次の返事でその男の本音がわかる。
「そうなんだ。あ、でもこれなら美味しいよ。女の子でも飲みやすい味で」
町田さんはアウトだった。仮に今の発言が本心からでそれ以外の他意はなかったとしても、今までの私の経験がそう告げている。そして、町田さんみたいなこの反応は、イケメンで自分に自信のある人程しやすい。きっと、「じゃあ少し飲んでみようかな」なんて返事ばかり受け取っているのだろう。
「それアルコール度数何度?」
山田さんが、さらっと町田さんに聞いた。
「えーっと……五%くらい?」
「ふーん。戸枝さん、五%のお酒ってどう?」
「無理、かな。身体が痒くなりそうだから、やめておくよ」
「それは可哀想だな。やめておいた方が良いね。折角の懇親会なんだし、楽しく終えたいよね」
ニコニコと笑顔を浮かべる山田さんの援護で、町田さんの勧めるお酒を飲まずに済んだ。
成る程。アルコール度数を聞けば、こうして断りやすくなるのか。心の中でメモる。
「すみません、町田さん」
「いやいや、むしろ無理に勧めちゃってごめんね」
町田さんはちょっと気まずそうに笑い、私に向けて差し出していたグラスを置く。
「美味しそうだね。私貰っていーい?」
今度は町田さんの隣に、ふわふわとした印象の可愛い女性が座る。
「これ?お前飲むの?」
「うん」
繭ちゃんの男友達が肘で押されて苦笑し、少しスペースを広げてあげていた。
「戸枝さんって……有名ですけど、結構質素なんですね」
「え?」
先程から、野菜だけでなくお肉も魚も脂っこいものも甘い物も食べているから、何をどう質素と言われたのだかわからず首を傾げる。
「ほら、ミスキャンパスなのに、全然ブランド品つけてないですよね?アクセサリーも」
そう言われて初めて、彼女が質素と言っているのが、私の姿恰好に対してである事に気付いた。
「ああ、はい。ブランド品なんて全然持ってないです」
うちはシングルマザーだし、バイトはしているけれども、こうした懇親会や友達との遊びに行くお金に使っているから、ブランド品なんかに回るお金なんて持ってはいなかった。
「へーそうなんだぁ……何か意外。いくらでも貢いでくれる人、いそうなのになぁ」
そう言われて、私はどう返して良いのかわからず口を噤む。
「そういう茂木さんは、上から下まで全身ブランド品だよね」
「え~!山田君でもそういうのわかるのぉ~?」
茂木さんという名前だったらしい彼女は、山田さんの質問にちょっと嬉しそうに笑った。
「いや、全然わからない。俺、全身量販店でコーディネートだから」
「もぉ~!勘って事ぉ?山田君も少しはお洒落に興味持ちなよぉ!」
「私も庶民だから、全身量販店コーディネートだよ」
助け船を出してくれた山田さんがそんな事を言われてしまったので、慌てて私も便乗した。正直山田さんのそういう飾らないところ、良いと思う。
「え?そうなの!?戸枝さんが着ると、ブランド品に見えるから不思議だね」
町田さんがそうフォローを入れてくれたけど、それは逆効果で私は内心焦る。茂木さんの顔が一瞬にして不機嫌そうになってしまったから。
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