元公女の難儀な復讐

イセヤ レキ

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21 地獄を生きる覚悟

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魔窟から出てきた悪魔を討伐せざるを得なかった、と聞いた皇帝は、苦虫を噛み潰したような顔をしながらその始末をロイアルバにつけさせた。

すなわち、皇太子の権利を剥奪して、辺境へと追いやったのだ。

因みに辺境とは、ロイアルバが奪還した土地であるグシャナト公国を示しており、ロイアルバは鎮痛な面持ちでその命を受けたあと、スキップする勢いで私のもとへと駆け寄ってきた。

ホクホクと玉座の間をあとにするロイアルバの前に、皇帝と同じく、いやそれ以上に渋面をしたガイアルンが立ち塞がる。


「エフィナ公女。自分の家族を殺した男に嫁ぐ地獄より、私のもとに来るつもりはないか?妾のひとりにしてやろう」
「ガイアルン……!」
私を後ろからぎゅっと抱き締め、ロイアルバが弟を威嚇する。

「お断りいたします」
「えっ?」
即答すれば、ガイアルンよりもロイアルバが呆けた顔をして私の顔を覗き込むものだから、私は端正だけれども暑苦しいその顔をぐぐっと掌で押した。

びくともしないが、想定内ですとも。


私がガイアルンの相手をすれば、ロイアルバに一矢報いることが出来ることはわかっていた。
しかし、グシャナト公国で両親に育てられていた時のように、もう自分を殺して自らを取引材料とすることはやめた。

私は家族を殺したロイアルバの隣で、一生恨み節を唱えながら、ロイアルバを好きになってしまったという地獄の中を生きていくのだ。

「エフィナ!」
後ろからロイアルバにめいっぱい抱き締められ、私は圧死の恐怖に慄く。
しかし意外にも、そんな私を助けてくれたのはリンダンロフの次期皇帝であった。

「兄上、大事な嫁があなたに潰されそうですよ」
「おっとすまない、エフィナ。大丈夫か?」
「かろうじて。しかしこれから、私の許可なく私に触れないでいただけませんか?」
「心から嫌だが、善処しよう」

身体を覆っていた筋肉と熱が離れて少し寂しく感じる私は、まだ悪夢を見ている最中なのかもしれない。

「さあエフィナ、グシャナトに戻ろう」
「はい」
私たちは翌日、長い列を組んでグシャナト公国へと出立した。

ロイアルバを慕う騎士たちは多く、グシャナト公国の建て直しという名目に便乗して何十人かの部下がついてくることになったらしい。
その更に下の何百人かの部下たちもついてくることになったそうで、大行進だ。

行きに通った草原や切り通しや森を抜け、痩せ細った大地へと辿り着く。
ロイアルバは領地視察と言って、その土地に住む貧しい者たちに話を聞いて回った。

どうやらその地は十年程前に大干ばつが襲って以来作物が採れなくなったらしいのだが、地形的に大規模な水路の工事を行えば水を引ける地形であることがわかった。
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