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「久しぶり」
「よう!よく来たな。その辺片付けるから、ちょっと待っててくれ」

親友は相変わらずグッチャグチャに散らかった部屋の中で、私を出迎えた。
先日水晶越しに見た時より更にボサボサ感が増していて、私は苦笑する。
ジークにはまだ、春は訪れていないようだ。

「私が来る前に片付けようとは思わなかったのか?」
笑いながら言い、親友の服だけ拾い上げてハンガーに掛け、片付けた。

床に広がっている資料等には一切手をつけない。
ジークは、一見散らかっているようにしか見えないこれらの資料の場所を細かく記憶しているから、本人が移動しないと逆に時間が掛かるし嫌がられるのだ。

「悪い。研究していた薬の試薬が、やーっと出来上がったところなんだよ」
「そうか、お疲れ」
であれば、何日も風呂に入ってないなと予想する。
風呂に入る時間をあげなければ、ジークは時間も忘れて私と話し込んでしまうだろう。
どうせ泊まりの予定で遊びに来たから、何の問題もない。

「今回は、何作ったんだ?」
「あー、本当は守秘義務があるから言えないんだけど、性別変換薬」
「……は?」
守秘義務があるなら言うなと口にする前に、私はポカンと間抜け顔を晒した。
「だから、性別変換薬。誰にもまだ言うなよ?なんでも、お偉いさんが欲しがっててね」

そんなに簡単に言うが、明らかに何年かそこらで作れるシロモノではないことは、魔導具に詳しくない私でも流石にわかる。

「治験してみるか?」
何でもないことのように言うジークに、私は目を見開きながら言った。
「何故私が?女になりたいだなんて思ったことはない」
「世継ぎで悩んでただろ?」
「……え?」

ジークの思いがけない言葉に、私は息を止めた。
「……どういう意味だ?」
少し警戒する様子が伝わったらしく、ジークは苦笑しながら説明を続ける。

「セスの家門は、長子なら性別は問わないんだよな?だったら、お前が女になって、世継ぎを産めば良い」
「……相変わらず、考えがぶっ飛んでるな」
私は思わず笑ってしまった。
誰がそんなことを、考えつくだろうか?この国でそんなことを考えつくのは、この男位だろう。

「……お前のことだ。今後、後妻を娶るつもりはないんだろ?」
ジークの言葉に、ぴくりと反応してしまう。
鋭い。

もし後妻を娶ったとしても同じ道を辿るかもしれないと思えば、私の性格的に、再婚に踏み切ることは出来ない。

長年続く由緒正しい伯爵家の家門を、私が急遽引き継いだのは、両親を不運な事故で最近亡くしたからだ。

世継ぎを産まなければ、と義務感を持って嫁いでくる女性を苦しませたくはなかった。

貴族女性は、他家から嫁いで、その家門の血を引く子供を産むことで、その家門の一員と見做される。
私はそんなことを考えたこともなかったが、元妻はそう言って泣き叫んでいた。

私の立場なんて、貴方にわかる筈がない、と。
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