5 / 8
5 住み慣れた家を出ました
しおりを挟む
ロロは大人しく座り、舌をお口の中にお利口にしまったまま、こちらをじっと見ている。
初回以来大人しく風呂で洗われる姿も、今思えば利口すぎやしないか。
私は毎日何回、ポポとロロに愛してると言っているだろう。
一年も言われていれば、愛を育んでいると勘違いされてもおかしくはない。
自分の姿を鏡で見てよと言いたいところだが。
でも私、まだ死んでいない。
けれどもし、これから兵士が押し寄せてきて、ロロに剣を向けられたらどうするだろうか。
ポポが橋から落ちた時、頭で考えるより先に身体が動いた、ある意味前科のある私は。
『……うん、まずいかも』
私が日本語で話すと、訝しそうな顔をするロロ。
やはりというか何というか、恐らくロロは言語を理解している。
「ねえロロ、申し訳ないのだけど、明日はひとりでお留守番出来るかな?」
私はロロの前にご飯を置きながら、そう尋ねた。ロロは「ワフ」と返事をする。
ロロはひとりの時、大抵狩りに出掛けるのだ。
不意打ちでいなくなるのは卑怯だし、申し訳ないと思うけれど、それしかない。
急にいなくなった女のことなんて薄情だと、好きだと言った言葉はまやかしだったのだと、思ってくれるだろう。
私は、『過去に本気で愛した女』役を避け、かつ殺されずにすむ手段を選択することにした。
すなわち、逃亡である。
***
翌日、私が出掛ける準備をしていると、案の定ロロがいなくなる。
私は置き手紙を書き、テーブルの一番目立つところに置いた。
いくら逃げ出すとはいえ、ロロは一年一緒に過ごした、大事な家族だ。
ヒーローなのだから私がいなくても生き残るだろうけど、無駄な怪我はして欲しくない。
もし万が一ロロがヒューバート王子とは何の関係がなくても、あんなに大きくなるまで生き延びてきた子だから、私がいなくてもしっかり次の根城を見つけるはず。
手紙を読めるのならばロロはやはりヒューバートなのだろうし、本来いるべき場所へ帰るだろう。
手紙を書きながら、ポタ、ポタ、と涙がこぼれる。
未練を残してはいけないのに、人狼かもしれないロロの心配より、私しか頼る人がいないポポのことを考えなくてはいけないのに、ロロをひとりにしてしまう罪悪感が、私に押し寄せる。
『さ、書けた。ポポ、おばあちゃんの墓参りしたらそのまま常連さんにご挨拶周りして、そのまま逃げるよ』
ポポは元気よく「キャン!」と吠える。
こうして私は、住み慣れたおばあちゃんの家を後にした。
初回以来大人しく風呂で洗われる姿も、今思えば利口すぎやしないか。
私は毎日何回、ポポとロロに愛してると言っているだろう。
一年も言われていれば、愛を育んでいると勘違いされてもおかしくはない。
自分の姿を鏡で見てよと言いたいところだが。
でも私、まだ死んでいない。
けれどもし、これから兵士が押し寄せてきて、ロロに剣を向けられたらどうするだろうか。
ポポが橋から落ちた時、頭で考えるより先に身体が動いた、ある意味前科のある私は。
『……うん、まずいかも』
私が日本語で話すと、訝しそうな顔をするロロ。
やはりというか何というか、恐らくロロは言語を理解している。
「ねえロロ、申し訳ないのだけど、明日はひとりでお留守番出来るかな?」
私はロロの前にご飯を置きながら、そう尋ねた。ロロは「ワフ」と返事をする。
ロロはひとりの時、大抵狩りに出掛けるのだ。
不意打ちでいなくなるのは卑怯だし、申し訳ないと思うけれど、それしかない。
急にいなくなった女のことなんて薄情だと、好きだと言った言葉はまやかしだったのだと、思ってくれるだろう。
私は、『過去に本気で愛した女』役を避け、かつ殺されずにすむ手段を選択することにした。
すなわち、逃亡である。
***
翌日、私が出掛ける準備をしていると、案の定ロロがいなくなる。
私は置き手紙を書き、テーブルの一番目立つところに置いた。
いくら逃げ出すとはいえ、ロロは一年一緒に過ごした、大事な家族だ。
ヒーローなのだから私がいなくても生き残るだろうけど、無駄な怪我はして欲しくない。
もし万が一ロロがヒューバート王子とは何の関係がなくても、あんなに大きくなるまで生き延びてきた子だから、私がいなくてもしっかり次の根城を見つけるはず。
手紙を読めるのならばロロはやはりヒューバートなのだろうし、本来いるべき場所へ帰るだろう。
手紙を書きながら、ポタ、ポタ、と涙がこぼれる。
未練を残してはいけないのに、人狼かもしれないロロの心配より、私しか頼る人がいないポポのことを考えなくてはいけないのに、ロロをひとりにしてしまう罪悪感が、私に押し寄せる。
『さ、書けた。ポポ、おばあちゃんの墓参りしたらそのまま常連さんにご挨拶周りして、そのまま逃げるよ』
ポポは元気よく「キャン!」と吠える。
こうして私は、住み慣れたおばあちゃんの家を後にした。
382
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】人嫌いの竜(少女)は、人を愛することが出来るのか!?
かのん
恋愛
ここから出して。北の塔に閉じ込められて十年目。毎日、毎日、同じような日々が続いていく。キャロルは空を見上げ自由を願う。だが、目の前にあるのは魔力を吸い取られ続けると言う地獄。
そんなある日キャロルは自由を手に入れる。
これは先祖返りの竜の少女キャロルと、呪いを受けた皇帝との恋の物語。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる