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5 住み慣れた家を出ました

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ロロは大人しく座り、舌をお口の中にお利口にしまったまま、こちらをじっと見ている。

初回以来大人しく風呂で洗われる姿も、今思えば利口すぎやしないか。
私は毎日何回、ポポとロロに愛してると言っているだろう。
一年も言われていれば、愛を育んでいると勘違いされてもおかしくはない。
自分の姿を鏡で見てよと言いたいところだが。


でも私、まだ死んでいない。
けれどもし、これから兵士が押し寄せてきて、ロロに剣を向けられたらどうするだろうか。

ポポが橋から落ちた時、頭で考えるより先に身体が動いた、ある意味前科のある私は。


『……うん、まずいかも』
私が日本語で話すと、訝しそうな顔をするロロ。
やはりというか何というか、恐らくロロは言語を理解している。

「ねえロロ、申し訳ないのだけど、明日はひとりでお留守番出来るかな?」
私はロロの前にご飯を置きながら、そう尋ねた。ロロは「ワフ」と返事をする。
ロロはひとりの時、大抵狩りに出掛けるのだ。

不意打ちでいなくなるのは卑怯だし、申し訳ないと思うけれど、それしかない。
急にいなくなった女のことなんて薄情だと、好きだと言った言葉はまやかしだったのだと、思ってくれるだろう。


私は、『過去に本気で愛した女』役を避け、かつ殺されずにすむ手段を選択することにした。
すなわち、逃亡である。


***


翌日、私が出掛ける準備をしていると、案の定ロロがいなくなる。
私は置き手紙を書き、テーブルの一番目立つところに置いた。

いくら逃げ出すとはいえ、ロロは一年一緒に過ごした、大事な家族だ。

ヒーローなのだから私がいなくても生き残るだろうけど、無駄な怪我はして欲しくない。

もし万が一ロロがヒューバート王子とは何の関係がなくても、あんなに大きくなるまで生き延びてきた子だから、私がいなくてもしっかり次の根城を見つけるはず。

手紙を読めるのならばロロはやはりヒューバートなのだろうし、本来いるべき場所へ帰るだろう。


手紙を書きながら、ポタ、ポタ、と涙がこぼれる。

未練を残してはいけないのに、人狼かもしれないロロの心配より、私しか頼る人がいないポポのことを考えなくてはいけないのに、ロロをひとりにしてしまう罪悪感が、私に押し寄せる。


『さ、書けた。ポポ、おばあちゃんの墓参りしたらそのまま常連さんにご挨拶周りして、そのまま逃げるよ』

ポポは元気よく「キャン!」と吠える。
こうして私は、住み慣れたおばあちゃんの家を後にした。
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