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「紫都と申します」
「紫都か。噂に違わず美しいな……面をあげなさい。私が貴女の夫となる。これからよろしく頼むぞ」
ホッとした表情の女は、とても可愛らしかった。そして、やたら腕の立ちそうな忍びの者を二人も連れていた。
僕は真典様の隣でずっと警戒していたが、どうやら杞憂だったようだ。
けれども、これから彼女が真典様のご寵愛を受けるのかと思うと、いけないと思うのに敵対心が湧いてきてしまう。
真典様の大事な人なのだから、僕も大事にしなければならないのに、気持ちが追い付かない。
この胸の痛みから解放される為に前日に逃げ出すか、それともこの胸の痛みと共にこれからも真典様の傍で生きるか、覚悟を決めて後者を選んだ筈なのに。
自分を戒める為にぎゅ、と目を固く瞑った時だった。
「私はね、男色なんだ」
真典様の声が耳をうち、僕は瞑った目を見開く。
目の前の女性も、唖然とした顔をしていたことから、僕の願望による空耳ではないことに気付いた。
真典様は、僕の肩をぎゅっと抱き寄せて続ける。
「私はこの子を愛している。だから……悪いが、紫都には触れられない。触れたくもないんだ」
僕は、いや僕らは、何も言うことは出来なかった。
可愛らしい愛されるべき女性が困惑しているのがわかっているのに、喜びに胸がいっぱいになってしまう自分が、あまりにも浅ましく感じてしまう。
「ただ、世継ぎは必要だ。その為に、紫都の忍び達からの提案にのって、貴女を娶る事にした」
「……え……?」
「紫都と情を交わすのは、私ではなく忍び達だ。生まれた子供達は、私の子供として可愛がろう……勿論、間山家も継いで貰う気でいる」
「……」
「何人生んで貰っても構わない。代わりに、私とこの子の事だけは放っておいて貰いたい」
「……旦那、さま……」
「この部屋も、存分に使うが良い。内情を知る者だけが、この部屋に出入りするから、気兼ねする事はない」
真典様はそこで私の手をを引いて、部屋を出る。
振り向いた先で、真典様の奥様がその小さな手を空中に伸ばしているのが、一瞬見えて。
そのまま、情け容赦なく真典様は襖を閉めた。
襖の向こうから微かな泣き声が聞こえてきて、胸が痛む。
「当主様……」
「心配か?大丈夫だ、彼女なら、私よりずっと彼女を愛せる人が傍にいるから」
真典様は、そう言って私に笑った。
「……僕は、真典様に……捨てられるのかと、思っておりました……」
「何故?」
真典様は、驚いた様子で僕を見る。
「……長坂家の、お話を、して頂けなかった、ので……っ」
ポロポロポロポロと、涙が零れる。
「すまない。私が愛しているのは昔から桔梗だけだし、彼女がうちに来たところで私と桔梗には何の変わりもないからな。話す必要性を感じなかった」
心からそう思っている様子で、真典様は僕に謝罪する。
貴方は、乞食だった頃の僕も知っているのに、僕を一人の同格な人間として扱い、そんな言葉まで僕に与えるんだ。
「……いいえ、真典様のお気持ちを、僕なんかに与えて下さるだけで……僕は本当に、幸せです」
貴方が与えるものならば。
それが物であっても、感情であっても、目に見えるものでも、見えないものでも、壊れるものでも、永久にあるものでも。
全て大切にします、と呟いた僕を見て。
真典様は眩しそうに目を細めながら、僕の大好きな笑顔を与えてくれた。
「紫都か。噂に違わず美しいな……面をあげなさい。私が貴女の夫となる。これからよろしく頼むぞ」
ホッとした表情の女は、とても可愛らしかった。そして、やたら腕の立ちそうな忍びの者を二人も連れていた。
僕は真典様の隣でずっと警戒していたが、どうやら杞憂だったようだ。
けれども、これから彼女が真典様のご寵愛を受けるのかと思うと、いけないと思うのに敵対心が湧いてきてしまう。
真典様の大事な人なのだから、僕も大事にしなければならないのに、気持ちが追い付かない。
この胸の痛みから解放される為に前日に逃げ出すか、それともこの胸の痛みと共にこれからも真典様の傍で生きるか、覚悟を決めて後者を選んだ筈なのに。
自分を戒める為にぎゅ、と目を固く瞑った時だった。
「私はね、男色なんだ」
真典様の声が耳をうち、僕は瞑った目を見開く。
目の前の女性も、唖然とした顔をしていたことから、僕の願望による空耳ではないことに気付いた。
真典様は、僕の肩をぎゅっと抱き寄せて続ける。
「私はこの子を愛している。だから……悪いが、紫都には触れられない。触れたくもないんだ」
僕は、いや僕らは、何も言うことは出来なかった。
可愛らしい愛されるべき女性が困惑しているのがわかっているのに、喜びに胸がいっぱいになってしまう自分が、あまりにも浅ましく感じてしまう。
「ただ、世継ぎは必要だ。その為に、紫都の忍び達からの提案にのって、貴女を娶る事にした」
「……え……?」
「紫都と情を交わすのは、私ではなく忍び達だ。生まれた子供達は、私の子供として可愛がろう……勿論、間山家も継いで貰う気でいる」
「……」
「何人生んで貰っても構わない。代わりに、私とこの子の事だけは放っておいて貰いたい」
「……旦那、さま……」
「この部屋も、存分に使うが良い。内情を知る者だけが、この部屋に出入りするから、気兼ねする事はない」
真典様はそこで私の手をを引いて、部屋を出る。
振り向いた先で、真典様の奥様がその小さな手を空中に伸ばしているのが、一瞬見えて。
そのまま、情け容赦なく真典様は襖を閉めた。
襖の向こうから微かな泣き声が聞こえてきて、胸が痛む。
「当主様……」
「心配か?大丈夫だ、彼女なら、私よりずっと彼女を愛せる人が傍にいるから」
真典様は、そう言って私に笑った。
「……僕は、真典様に……捨てられるのかと、思っておりました……」
「何故?」
真典様は、驚いた様子で僕を見る。
「……長坂家の、お話を、して頂けなかった、ので……っ」
ポロポロポロポロと、涙が零れる。
「すまない。私が愛しているのは昔から桔梗だけだし、彼女がうちに来たところで私と桔梗には何の変わりもないからな。話す必要性を感じなかった」
心からそう思っている様子で、真典様は僕に謝罪する。
貴方は、乞食だった頃の僕も知っているのに、僕を一人の同格な人間として扱い、そんな言葉まで僕に与えるんだ。
「……いいえ、真典様のお気持ちを、僕なんかに与えて下さるだけで……僕は本当に、幸せです」
貴方が与えるものならば。
それが物であっても、感情であっても、目に見えるものでも、見えないものでも、壊れるものでも、永久にあるものでも。
全て大切にします、と呟いた僕を見て。
真典様は眩しそうに目を細めながら、僕の大好きな笑顔を与えてくれた。
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