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「……真典様、僕の仕事が代わったと聞きましたが……」
「うん」
腹を刺されたけど、たまたま帯をしっかり巻いていたところだったようで、僕は軽い怪我で済んでいた。
間山家の跡取りである真典様の命を救った功績がどうとかで、単なる毒味係だった僕は、真典様の身の回りの雑用を務める小姓となった。
仕事仲間が言うには、かなりの昇格となるらしい。
僕は知らなかったけれども、今まで真典様は、小姓を傍に置くことをしなかったらしく、僕が廊下を通れば顔見知りでない者からもひそひそなにやら話されることが多くなった。
けれども、
「桔梗と一緒の時間が長くなって嬉しいな」
と真典様に笑顔で言われれば、そんな他人のことなんて僕は全く気にしない訳で。
「ありがとうございます」
僕も笑顔で、頭を下げた。
真典様は、小姓を置かなかった。それはつまり、小姓を置かずとも、身の回りのことは全て自分一人で出来るということだ。
小姓の仕事に慣れない僕に、ひとつずつ丁寧に教えてくれるのは当然真典様だし、間違えても失敗しても、頭を下げる僕に決して怒鳴ることなく「ひとつずつ覚えていけば良いんだよ」と見守って下さった。
お茶を入れてみようかと言われ、僕が一人分の湯飲みを用意すれば、「桔梗の分も用意してくれないと」と微笑み、貴重な和菓子を分け与えて下さる。
洗濯された真典様のお衣装を箪笥にしまっていれば、「これは君の分だよ」と真新しい僕の服を渡して下さる。
僕が悩んでしまう位、真典様は、僕に優し過ぎると言っていいほど優しかった。
「……真典様、僕……お役に立てていますか?」
小姓になったその晩、思わず真典様にそう問いかけてしまい、僕は口を押さえた。
それは僕を安心させて貰いたくて、僕の存在価値を真典様に認めて頂きたくて、でた質問だったからだ。
──恥ずかしい。
真典様にお仕え出来るだけで幸せなことなのに、自分のことしか考えていない言葉を口にした僕が、情けなかった。
優しい真典様なら、僕が聞けば、絶対に肯定されるに違いないのに……。
そう思った僕の予想は、驚くことに裏切られた。
「はは、桔梗の仕事はこれからだよ。夜だけ僕の役に立って貰えば良いんだ」
「……え?」
「あれ、桔梗は知らなかったかい?小姓って言うのはね、僕の性処理をする仕事なんだよ」
僕は驚き、目を見開く。
「最近、どうにも自慰だけでは性欲が抑えられなくなってしまってね。僕は間山の跡取りだから、変な女を孕ませても困るし。だから、桔梗に僕の相手をして貰いたいんだ」
「ぼ、僕が、ですか……?」
僕の胸に、不安が広がっていく。
「うん。……嫌かな?」
「いいえっ!嫌な訳がございませんっ!!……ただ、経験がない為、しっかりとそのお役目を果たせるかと思いまして……」
こんなことなら、言い寄ってくる家臣の誰か適当な相手で練習しておくのだったと、僕は悔やんだ。
「桔梗に経験があったら逆に大変だよ。僕が君を育てたいんだ」
「……左様でございますか?」
閨のことなど全く知らない素人相手で満足頂けるのかわからないが、本当にそう考えていらっしゃるような真典様の様子に僕は胸を撫で下ろした。
「うん。早速今日から頼めるかな?」
温厚で純朴そうな真典様の笑顔に、僕は胸を高鳴らせながら頷いた。
他の者達がひそひそ話していた理由に、その時やっと、気付いたのだった。
「うん」
腹を刺されたけど、たまたま帯をしっかり巻いていたところだったようで、僕は軽い怪我で済んでいた。
間山家の跡取りである真典様の命を救った功績がどうとかで、単なる毒味係だった僕は、真典様の身の回りの雑用を務める小姓となった。
仕事仲間が言うには、かなりの昇格となるらしい。
僕は知らなかったけれども、今まで真典様は、小姓を傍に置くことをしなかったらしく、僕が廊下を通れば顔見知りでない者からもひそひそなにやら話されることが多くなった。
けれども、
「桔梗と一緒の時間が長くなって嬉しいな」
と真典様に笑顔で言われれば、そんな他人のことなんて僕は全く気にしない訳で。
「ありがとうございます」
僕も笑顔で、頭を下げた。
真典様は、小姓を置かなかった。それはつまり、小姓を置かずとも、身の回りのことは全て自分一人で出来るということだ。
小姓の仕事に慣れない僕に、ひとつずつ丁寧に教えてくれるのは当然真典様だし、間違えても失敗しても、頭を下げる僕に決して怒鳴ることなく「ひとつずつ覚えていけば良いんだよ」と見守って下さった。
お茶を入れてみようかと言われ、僕が一人分の湯飲みを用意すれば、「桔梗の分も用意してくれないと」と微笑み、貴重な和菓子を分け与えて下さる。
洗濯された真典様のお衣装を箪笥にしまっていれば、「これは君の分だよ」と真新しい僕の服を渡して下さる。
僕が悩んでしまう位、真典様は、僕に優し過ぎると言っていいほど優しかった。
「……真典様、僕……お役に立てていますか?」
小姓になったその晩、思わず真典様にそう問いかけてしまい、僕は口を押さえた。
それは僕を安心させて貰いたくて、僕の存在価値を真典様に認めて頂きたくて、でた質問だったからだ。
──恥ずかしい。
真典様にお仕え出来るだけで幸せなことなのに、自分のことしか考えていない言葉を口にした僕が、情けなかった。
優しい真典様なら、僕が聞けば、絶対に肯定されるに違いないのに……。
そう思った僕の予想は、驚くことに裏切られた。
「はは、桔梗の仕事はこれからだよ。夜だけ僕の役に立って貰えば良いんだ」
「……え?」
「あれ、桔梗は知らなかったかい?小姓って言うのはね、僕の性処理をする仕事なんだよ」
僕は驚き、目を見開く。
「最近、どうにも自慰だけでは性欲が抑えられなくなってしまってね。僕は間山の跡取りだから、変な女を孕ませても困るし。だから、桔梗に僕の相手をして貰いたいんだ」
「ぼ、僕が、ですか……?」
僕の胸に、不安が広がっていく。
「うん。……嫌かな?」
「いいえっ!嫌な訳がございませんっ!!……ただ、経験がない為、しっかりとそのお役目を果たせるかと思いまして……」
こんなことなら、言い寄ってくる家臣の誰か適当な相手で練習しておくのだったと、僕は悔やんだ。
「桔梗に経験があったら逆に大変だよ。僕が君を育てたいんだ」
「……左様でございますか?」
閨のことなど全く知らない素人相手で満足頂けるのかわからないが、本当にそう考えていらっしゃるような真典様の様子に僕は胸を撫で下ろした。
「うん。早速今日から頼めるかな?」
温厚で純朴そうな真典様の笑顔に、僕は胸を高鳴らせながら頷いた。
他の者達がひそひそ話していた理由に、その時やっと、気付いたのだった。
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