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知らない世界で

笑顔禁止?

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「因みに、エイヴァにレネは2年仕えてて、ジュードが一番長いですよ」
微妙な空気を断ち切るように、ライリーは明るく言う。皆に掛けられている呪詛がどんなものか聞きたかったけど、また失敗しそうだから今日は止めよう、と思った。
「エイヴァさんが、マティオスさんの屋敷に来たのはいつ頃なの?」
「4ヶ月程前です。本人や私達は外交のつもりで来ていたので、最初の頃は荒れ方がそれはもう凄くて。マティオス様はそれでも色々気を配ったのですが、手がつけられない程暴れるので未だに式すらあげられず、閨も1ヶ月に一回と決まっているのですが、2度理由をつけてボイコットし、前回が3度目でした」
「あー、あー……」
マティオスさん、確かに「いつまで逃げるつもりだ」的な事言ってましたっけ。
「……エイヴァさんがマティオスさんを毛嫌いする理由って何だろう?」
頭に浮かんだ疑問が口から滑ると、
「顔」
ライリーはあっさり言った。
「え?ええ?」
顔!?それだけ??
「と、本人は言ってました。後、蛮族の国自体を毛嫌いしているので、その族長であるという事と……マティオス様には呪詛を掛けられないので、全てにおいて一番でなくては……自分の思い通りにならないと気が済まないあの女は、マティオス様の存在を許せなかったのだと思います」
「……」
まぁ、自国では好き勝手にやってきたみたいだもんねぇ。
「あ、それに月々入る金も少ないと文句言ってましたね。……庶民の給料……いや、この国でいう上流階級の金を貰っていても。マティオス様は、自分の分は最低限にして全てエイヴァに回していると専らの噂なのに……」
へ、へー。まぁ、噂は噂。意外とマティオスさんもケチかもしんないし!……と、そこまで思って私はエイヴァさんの部屋をぐるりと見回す。
どの部屋より広かったエイヴァさんの部屋、備え付けられた風呂、一年間あっても着回せない服、贅沢な装飾品。ケチではないか。呪詛に必要そうなものや、逃亡だけをエイヴァさんから排除するだけで。
というか、ライリーももしかしてマティオスさん好きっぽい??
「ライリーは、マティオスさん」「尊敬しております」
へ、へー。間髪いれず返事がかえってきたよ。
「私は蛮族の国の出身です。男は強さが全て、と言っても過言ではない国に生まれました。戦闘民族をまとめていくのは至難だと思いますが、マティオス様は圧倒的強さで他を寄せ付けません」
些か、ライリーの瞳がキラキラしている様な。
あれかな?オタクにオタク話を振ってしまった様なノリ?でも、怒った様なライリーの顔を見るより、ずっと良い。さっきみたいに、辛い記憶を呼び覚ます様な質問でなかったのであれば。
私は、しばらくライリーのマティオスさん話にお付き合いした。

マティオスさん
・蛮族の国出身
・仮面つけてる
・マッチョ
・20歳
・強いらしい

ライリー君
・17歳
・蛮族の国出身
・12歳からエイヴァさんに仕える
・マティオスさん好き



「サーヤ様、夕飯のお時間ですよ」
デジャヴ!!
がば!とベッド上で起き上がる。ライリー君にはおやつの後から終業して貰って、ゆっくり一人でお風呂に入って、ベッドで寝転びながらジュードさんから借りた本を眺めていたら寝てしまったらしい。まぁ、ベッドに寝転んだ時点でほぼ確信犯だけど。
因みに昨日着てたメイド服はきちんと洗われて部屋に戻ってました。洗われた後の服は、エイヴァさんの衣装部屋ではなく風呂場のドア横に小さな籠を置かせて貰って、そこに入れて貰う様にしている。3~4着位なら入るし、いざ逃げる時はこの籠ごと持って失礼させて頂く予定。
「ジュードさん、やっぱり夕飯一緒にとる為に戻ってきてくれたんだ、ありがとう」
そう言いながらドレープカーテンを開け、もそもそとベッドから降りてテーブルに近付く。ジュードさんは無表情で頷いていた。
「先程、サーヤ様の部屋に向かう最中にライリーに見つかりまして。夕飯の時間をご一緒する為に私が一旦抜けたと知って、朝ごはんの事といい、夕飯といい、そういう事は先に教えろよと怒られました」
「そうなの?」
ライリー、エイヴァさんと一緒にいる時間は少なければ少ない程喜びそうだけど。
「ライリーも、貴方がエイヴァ様でなくサーヤ様だと認識されたのだと思います」
「それは良かった!」
レネ君の事もあるからね。明日はライリーとレネ君の担当だ。ライリーが私を疑っている場合、その猜疑心はレネ君に恐怖を与えたままだろうけど、ライリーが私を紗綾だと認識してくれるのであればその態度は少しだけでもレネ君の安息に繋がるだろう。
12歳の少年に色々仕事を頼むなんて気が引けるけど、そこは文化の違いと割りきるしかない。逆にレネ君も無職になったら困るかもしれないし。
テーブルセッティングをしようとしてワゴンに目をやるとそこは空で、既にテーブル上に二人分のセッティングが終わっていた。
「ジュードさん、準備ありがとう」
「いいえ、サーヤ様。さぁ、冷める前に頂きましょう」
「はーい!」

ジュードさんに、本を読んでも時間の見方が見つからなかった、と伝えると、「ではまた後日、子供向けの時計の早見表をお持ち致しますね」と言ってくれた。「よろしくお願いします!」そのまま私は、早見表がどんなものか聞いたり、地球には月が一つしかなくて基本的に夜しか見えないお話をしたり、屋敷にあった美術品について聞いたり、会話は途切れる事なく楽しい時間はあっという間に過ぎ、一時間が経過。
やはり、ジュードさんにもエイヴァさんに掛けられた3人の呪詛がどんなものか聞くきっかけもなく、私は廊下でジュードさんを見送ったのだった。


翌日。
「サーヤ様、おはようございます」
「おはよう、ライリー」
多分朝の7時位に、ライリーがノックとともにワゴンを2台押しながら部屋に入ってきた。
「ライリー、入室の時はノックしたら返事するまでちょっと待とうよー。ノックの意味ないじゃない」
「申し訳ございません……て、何でノックして待つ必要があるんでしたっけ?」
おーい、本気?
「着替え中かもしれないでしょ?」
「あー、あー、そうか。エイヴァの奴、セックス中でも平気な奴だったから、それが普通になってたわ。成る程、承知致しました」
おぉ……何だかまたとんでもない話が耳に入ってきたけど、全力でスルーする。
「けど、着替えどころかその身体……」
ライリーが何かに気付いてしまったみたいなので、私はギロリと睨んだ。
「畏まりました」
うんうん。いっくらエイヴァさんの身体で、ライリーや皆がこの曲線美やサイズを知っていようが、中身が私の時はお触りどころか見る事も禁止でございます!

「……おはようございます……」
「レネ君、おはようございます」
私は、ライリーの陰に隠れる様にして姿が見えなかったレネ君に、渾身の笑顔を向けた。……ら、びくっ!とされてライリーの陰にまた引っ込まれてしまった。
なーぜー……ねーちゃんは悲しいよぉ……?
「あー、レネは大抵、エイヴァに君付け笑顔で呼ばれた後に罰を受けてたからなぁ」
「……え、何それ」
「す、すみません……早く慣れたいと、思います」
「つまり、普段は呼び捨てで見下みくだす事しかしないエイヴァが笑いながら君付けすると、ろくでもない目にあったって事ですよ」
初日に、レネ君と言った時にびくびくされた記憶が甦る。だああーっ!知らなかった事とは言え、何だか申し訳ない。
「……レネって呼んだ方が良いかな?」
レネ君は、少し悩んだ後、「……大丈夫です、お好きにお呼び下さい」と言ってくれた。健気やー……!むやみにびくびくさせたくはないから呼び捨てにしよう、と心に決めた。
しかし……レネ君にはまさかの笑顔禁止かい?
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