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知らない世界で

変装しましょう、探検だ!

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「しっかしお前、エイヴァの身体してる筈なのに、こうして見てると別人にしか見えねぇな」
「うん?」
果物を完食し、洗口液でぶくぶくしている私に、ライリーはそう言った。
出来たら、お前呼ばわりはやめて欲しいなぁ。
「どういう意味?」
「人に起こされる前に起きて、寝起きに素っぴんのまま、メイド服着て朝ごはんモリモリ食って、自分で茶を入れてさぁ……今化粧すんのかと思って見てたら、洗口液でしつこく口漱いでるだけだし」
「この世界、歯ブラシないんだもん」
「はぶらし?」
おぉ、このやり取りジュードさんともしたな。
「私の世界では、ご飯食べた後に口を漱ぐだけじゃなくて歯も磨くの。その為だけのブラシがあるんだよ。これっくらい小さいブラシ」
親指と人差し指でブラシの長さを再現する。
「へ~、おもし……良く出来た作り話だな」
いやライリー、今面白いと言おうとしたよね!?
「どうでも良いけどライリー、名前あるんだから名前で呼んでよ」
「別人格の?サーヤ?」
「うん」
「サーヤ様?」
「やめて。私はエイヴァさんみたいに高貴な身分じゃなくて、一般庶民なの。ジュードさんは仕方ないけど、ライリーはそんなキャラじゃないでしょ?」
「いや、じゃあこれからは俺もサーヤ様って呼ぶわ」
何故!?
「エイヴァと同じ顔が歪むのが楽しいから」
「……ライリーって、良い性格してるわ……」
「どうも」
誉めてはいない。けど、この考え方で色々なもの……今の境遇を乗り越えて来たのだろうから、それで良いとは思う。

「サーヤ様、本日のご予定は如何致しますか?」
「そうだねぇ……あ、ごめんジュードさん。ワゴンありがとう」
私がめっちゃ口を漱いでたら、その間にジュードさんが朝ごはんの片付けをしてくれていた。
「いいえ、とんでもございません」
「普段エイヴァさんは何をしてたの?」
「私達と性交ですかね」「俺達とセックスだな」
「……」
同時にありがとう、二人とも。
「エイヴァさんって、外には出られなくても、屋敷の中なら自由に歩いて良いの?」
「多少の制限はございますが」
「じゃあさ、私、屋敷の中を案内して貰いたいな」
「畏まりました」
「……その格好でか?」
ライリーが嫌そうに言う。
「エイヴァさんの服を着たくないのです」
「何で?」
あれじゃ私が露出狂みたいだからですよ。
「趣味じゃないから?」
「あ、そう言えばお前……サーヤ様だよな?いきなり白布はくふを身体に羽織ってさぁ!!一体何事かと思ったわ、俺」
私の珍行動を思い出したらしいライリーが、大笑いし始める。
「仕方ないでしょ~、この国の文化、全然日本と違うんですから」
「何の事ですか?」
どうやらジュードさんは知らない事だったらしい。
「いや、俺が前回サーヤ様の担当だった時、羽織るものをとか言い出して衣装部屋漁ったかと思ったら、いきなり白布羽織ったんだよ。何の冗談かと思ったって話」
「エイヴァさんの格好、ちょっとあり得ない位スケスケだったからさ、何かで隠したかったの」
「ああ、それで目についたのが白布……サーヤ様の国では白ではないのですか?」
「日本ではさ、葬儀に出る時は喪服って言って、黒で統一するんだよ。真逆だね」
「黒ですか?」「黒!?」
「うん。あ、でも仏式の葬儀の際に亡くなった方に着せる着物は白かったかも」
「そうなのですね」「へー」
葬式なんて、過去にひいおばあちゃんで一回しか出た事ないから良く知らないんだけども、多分そう。違ってたとしても、今教えてくれる人いないしなぁ。

「話戻すけど。エイヴァさんがメイド服でマズイなら、メイドさんの振りして屋敷の中うろつけば良いよね?」
「……」「は?」
うん。我ながら、良い案だ。
「掃除道具でも持ってうろつけば、まさか誰もエイヴァさんとは思わないんじゃない?」
「……まぁ、思いませんね」
「ぶっ……くく、それは傑作だな!!」
ライリー君、そんな涙目で笑わなくても。ともかく、無事にスケスケヌケヌケ服の着用は回避しつつ、目的を達成出来そうだ。
「エイヴァのあの爪で掃除なんて……ん?」
ん?
「おま!お前、じゃなくてサーヤ様!まさかあの爪折った!?」
ライリーが私の手をがばりと掴んでその指先に唖然としている。
「ううん、爪切りもハサミも見当たらなかったからやすりで削ったよ」
「あの長さを……!!俺が必死こいて作ってた爪……!!」
「エイヴァ様の爪は、ライリーの傑作品でしたからね」
「ええっ!?そうなの?ごめんライリー!」
あまりにも邪魔なんで短くしちゃった。
「いや……いや、サーヤ様。何だか逆に吹っ切れた。本当にエイヴァじゃないんだなって感じたよ」
そう言ったライリーの顔は、確かにスッキリしている様に見えて、ホッとする。
「エイヴァさんといつまた入れ替わるかわからないから、急に変わったらまた頑張ってね」
途端にライリーの顔が固まった。わかりやすいな、ライリー。艶々に磨かれたあの爪、あそこまで仕上げるのは確かに大変だっただろうね。
「では、早速掃除用具を取りに行って参ります」
「うん、ジュードさんありがとう。ついでに眼鏡とかないかな?」
「めがね、でございますか?」
結論から言うと、この世界に眼鏡はないらしい。変装するのに良いかな、なんて思ったんだけど。
メイド服だけで大丈夫かな?……あ、こうすればいっか。
私は再び化粧台の前に立ち、髪を高い部分で2つに結った。日本の髪ゴム輪ゴムは偉大でした。見かねたライリーに手伝って貰いながら、長い紐でまとめて、更にお団子を2つ作る。
「へー、お前器用だな。……てか、エイヴァって絶対髪触らせなかったから、何だか手伝ってるのが違和感あるな」
「お団子頭、変じゃない?」
「いや、顔を知らなきゃ絶対エイヴァってバレない気がしてきた」
ライリーと私は悪戯っ子の様に笑う。
では早速、お屋敷探検と行きますか!


「広い……広すぎる……」
結果、お屋敷は想像以上に大きかった。フランスのルーブル美術館みたいな広さ。行った事ないけどね。似たような廊下や部屋が多いし、私一人で部屋を出たら迷子になってそのまま帰れなくなりそう。まだするつもりはないけど、逃亡を謀るならかなり念入りに下見をしなければ絶対無理だ。外の様子がわからない私には、更に無理だ。エイヴァさんが何度か逃亡しようとしたと聞いた気がするけど、よくこれで逃げようなんて気になったなぁ、という感想しか持てない。

「お前達、あの女の面倒は良いのか?」
私達が廊下を歩いていると、兵士の様な格好をした男性が声を掛けてきた。初めは緊張したが、私は彼らが話している時はその辺の「壺拭いてまーす」でほぼ100%素通りされる。どうやら、兵士とメイドさんにはあまり交流がないらしかった。
ただし、ジュードさん達は違う。いつも必ずと言って良い程揶揄され、からかわれる。
「お前達がしっかり見てないと、マティオス様にまで迷惑が掛かるんだからな」
「精々あの女のご機嫌でも取ってろよ」
「畏まりました」「……」
ジュードさんは無表情で、ライリーは無言で。その反応が更に男達の癇に障るらしく、一度絡むとしつこい人達が多かった。
うーむ。主人たるエイヴァさんには酷い扱いをされ、職場仲間という意味では同僚である筈の人達の風当たりもかなり強い。

……これは、改善の余地あるよねぇ。
本来なら、上司にあたるエイヴァさんが、付き人である彼らの働きやすい環境を整えなくてはならない筈。勝手に色々してはエイヴァさんが可哀想だと思っていたけど、セクハラパワハラ当たり前の上司を肯定するつもりは全くない。ただ、改善しなくてはならないものの、ひとつ気になる事があった。そう、彼らに掛けられたエイヴァさんの呪詛って、どんなものなんだろう……?
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