逢瀬はシャワールームで

イセヤ レキ

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出逢いはシャワールームで

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横から出されたシャワーが水面を揺らす。
それを、10メートル上の台から一度確認し、これから行う演技を頭に思い描いた。
深呼吸を、二回。
仲間の話し声、遠くに響くホイッスル、全てがシャットアウトされて。

俺はその台からダイブする。


***


ざばりと水が飛び散るのを気にせず、俺は高飛込と飛板飛込用のプールから上半身を両手で持ち上げ、プールサイドに座った。
私立真部学園は、文武両道の選ばれた者だけが通う、幼稚園からはじまり、小中高と一貫した教育を受けられるエリート学園だ。
その為、プールにも金がかけられていて、一般的な競泳部門、俺の所属する飛込部門、そして水球部門とそれぞれ独立したプールが備えられているのは最高の環境だった。

水は好きなのにひょろりとした身体で体力のつかない俺が、「高飛込」に出会えた事は幸運な事だった。演技はたった二秒ほど。その時間で全てが決まるという潔さと、10メートルという、ビルの3、4階に相当する高さから飛び込むという非現実的な空間が大好きだ。

個人的にはしっかり、端から見ればぼんやり他の仲間の演技を見ていると、きゃああ、と女子生徒の歓声が上がったので振り向いた。
残念ながら、自分に歓声がかかった訳ではない。
競泳部門の選手が何人か泳いでいて、それに夢中な様だった。

ゆっくりとした完璧なストローク。
力強いキックを繰り出す大きな足。
水かきがついているかの様な大きな手。

見ていると、確かに惚れ惚れする様な泳ぎだった。

同じ水球部でも、飛込と競泳、そして水球はコーチも別々で交流もない。誰だろう、と思いながらも興味はほぼなく視線を戻す。
仲間は順に飛込み、またもうすぐ俺の番だ。

直ぐ様目の前の高飛び込みに意識が向いた俺は、泳ぎ終えたその競泳選手がじぃ、と俺を毎日見ている事なんて全く気が付かなかった。


***


「またみなと、振られたんだって?」
「……」
何でこいつが知ってるんだと思いながら、気さくに声を掛けてきたクラスメイトを胡散げに見る。
「いっつも告られて、付き合って、振られるじゃん。何でなの?」
「……」
俺が聞きたい。俺こそ知りたい。だけど、振られる時に言われる言葉は大抵似通っている。
本心がわからない、何考えてるのかわからない、本当に私の事好き?

女の子は、おしゃべりだ。
俺に質問しておきながら、俺が答える前にピーチクパーチク一人で突っ走って、一人で結論を出し、一人で悲しんで、さっさと去っていく。
俺はクラスメイトから「ミステリアス君」「不思議君」という妙で嬉しくもないレッテルを貼られて久しいが、単に思考している事を直ぐに言葉にあらわさないだけで、焦る事もあれば嬉しい事もあればドン引きしている事もあれば驚いている事もあるのだ。
ただ、それが人より長く考え過ぎるだけで、他人からみればぼんやりしている様でしっかり聞いている人、というよく分からない人認定されるのだが。

「ま、理由なんて当人同士しかわからない事もあるよな」
クラスメイトは、意味深に笑った。
「けどやっぱりお前、顔良いからな~。女かと思う程に綺麗だもんな~。一緒にビジュアル系のバンドやろうぜ、絶対今よりもっとモテるよ?」
「……」
断る。いっくら女の子にモテたって、付き合ってすぐ別れてを繰り返したら流石に俺だって心がすり減っていくだろう。

……ああ、プールに飛込みたい。
ウザったい事全て忘れて、時速50キロでノースプラッシュで入水したい。
「……早く放課後になんねーかな……」
結果、クラスメイトの質問には何も答えなかった事に気付かないでそう呟いた俺は、不思議君のレッテルを回収する事がいつまでも出来ないでいた。


***


温かなお湯を、眼を閉じて立ったまま頭からかぶる。

他のメンバーが早々にシャワー室から出て行く気配を感じたが、俺は高飛び込みの瞬間の次にこのシャワーを浴びる時間が好きで、水道代がどうとか煩く言われないのを良い事に長時間浴びているのが常だった。

キィ、と後ろで個別についた扉が開いた音がして、なんとなく振り向く。

「……?」

……誰だっけ?こいつ。
短髪で、彫りが深くて眉毛が濃い。
体格も水泳をやるには恵まれている、所謂肩幅のある綺麗な逆三角形だった。恐らく競泳部門の選手だろう。
羨ましい位に男っぽいそいつは、不機嫌そうにこちらを睨み付けている。
イケメンだからサマにはなるけど、初対面でとる態度にしては少々不躾過ぎないか。
他の個室が埋まってて、長く使ってる俺に文句を言いにきたのか?
さっき団体で出てたヤツらがいた気がしたけど、勘違いだったか?


「……」
長く使ってすみません、と言うつもりで口を開きかけた時、目の前の男が先に声を発した。
「最近、彼女と別れたんだって?……俺も、別れた」
「……?」
はぁ。
えーっと?
何の話だ?シャワーは使わないのか?俺を誰かと勘違いしてる?……がっつり目は合ってる気はするけど。

「……??」
俺が首を傾げているのを見て、男はシャワーの音で聞こえなかったと誤解したのか、手を伸ばしてシャワーをキュ、と止めた。

「お前と付き合いたくて」
「……???」
俺の頭の中の疑問符は増えるばかりだ。
俺、性別男。どう見ても、目の前のヤツも、男。
いやだって、お互い上半身裸だし。勘違いしようがないよな?
いくら女に間違えられるといっても、裸でそれはないよな??
……と、思ったのだが。

「お前の綺麗な顔と身体と演技が目に焼き付いて離れない。俺を、お前の恋人にしてくれ」
「……!?!?」
ぱっかーん、と。自分の顎が外れるかと思った。相当間抜けなツラ晒している自信はある。
「返事ないなら、悩んでるって思って良いか?」
「……」
いや、あの、ちょっと!?悩んでるって言うより、驚きすぎて声も出ないというか……何と言って良いのかわからないというか……
「……湊?」
「……ごめんなさい」
よし!謝れた、俺は間違いなく断ったぞ!!
心の中でガッツポーズをしたが、目の前の男は食い下がった。
「何で?」
何で?って何で??いや、一番の理由は性別やん。何で性別かって?だって……
「……男同士だし……男とはセックス出来ないし」
だからお断りだ。折角付き合ってるのに、気持ち良い事出来ないなんて、付き合っている意味がない。あくまで個人の感想だけど。
「セックス出来ればOK?」
目の前の男と抱き合っているところを想像し、ぞわりと鳥肌が立つ。
「……セックスは気持ち良くないと……」
気持ち良いどころか、気持ち悪いだろ。
全国のジェンダーに悩んでいる方々には申し訳ないが、俺は嫌だ!あくまで個人の感想ですけど。
「やってみよう、セックス。気持ち良くなれたら、付き合おう」
「……」
……はい?何故そうなる??俺、しっかりはっきりきっぱり断った……よな?

言うなり、男は俺の肩をくるりとまわして壁に向かい合わせて。
ボディソープを手のひらに出した男は、そのまま水着を着たままの俺の尻に触った。
「ひぃっ……!!」
尻は触るもんであって、触られるモノではない!!
反射的に出た声に反応し、咄嗟に両手で口を押さえる。
ヤバイ!まだ誰かいるって事はないよな!?
今、このシャワー室の個別についてる鍵なしの扉を開けられたら俺は色々アウトだ。学生生活詰んだも同然だ。だから当然、今のこの状況を誰かに悟られる訳にはいかなくって……!!

焦った俺の尻に、ぐりぐりと熱量のあるモノが押し当てられて、ますます焦る。これは……アレか。いや、男相手に勃つならアレな訳ない!しかし間違いなく、アレだ!!

俺の背より頭ひとつ分背のある男は、アレを俺の尻の上の方に密着させながら、先程尻を触った手を前に滑らせ、俺のイチモツを水着越しに握り締めた。
その絶妙な力加減に、俺の心を裏切って、俺の息子は一瞬で元気になる。
「……!!」
「勃ったな。一度、手コキでイッてくれ」
「~~っっ、ぁ、ん……っっ♡」
思わず声が漏れたのに気を良くしたのか、男は水着をベロンと下に引っ張り、ボロンと俺の肉棒を出して直に触ってきた。
ざわわわ、と鳥肌は立つのに、同時に射精感まで腰からちんこへと集中していく。ペニスを握った男の手から、パタ、パタ、と水滴が垂れる。断じて俺の子種ではない、まだ。プールの水かシャワーだろう。

「……っっ、は、……!!」
元気な息子が憎らしい。やめさせようと男の手を引き剥がそうとした俺の両手は、男のもう片方の手に括られて前の壁に押し付けられた。
「や、やめ……っっ」
逃げようとして、後ろに下がろうとしたら、絶妙な力加減で握られていた俺のちんこが男の手の中でずりっと擦られてヤバイ程に気持ち良かった。
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