孤高のオークと孤独なエルフ

イセヤ レキ

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「ヴォルさん、ご飯ですよ!」
「……ああ、もうそんな時間か。ありがとう、マリーナ」

それ以来、孤高のオークであるヴォルと、孤独なエルフのマリーナは、二人だけの集落を形成した。
もう少しわかりやすく言うと、ヴォルの家の隣にマリーナが引っ越してきたのである。

二人は、お互いが苦手な部分を補い合いながら、生活をしていた。
二度と会うことはないからと、自分の身の上話をした二人は、親友とまではいかなくとも、理解のある、心許せる友人として、お互いを認識していた。

マリーナの家はヴォルの家より少し小さ目に作られている。露天風呂付きの贅沢な家は、ヴォルがその怪力で材料を集め、作った。
大きな魔法は使えなくても、生活魔法は得意なマリーナはヴォルの家事全般を請け負い、ヴォルが狩りに出ている間にさっと掃除やら洗濯を済ませた。
食事は、用事がなければ二人で摂ることが普通になっていた。

最近では、二人で暇があれば、人間の間で流行っているというボードゲームに熱中したり、少しだけ人間の街に遠出をして、マリーナが人間のフリをして手に入れた美味しい甘味を、二人で分け合って楽しむようになっていた。


そんな日が半年程経過した頃。
何故かマリーナは、ヴォルから避けられている気がして、理由がわからず不安に駆られていた。

(私、何かしちゃったかな……あんなに優しいヴォルさんが、あまり前みたいに接して来てくれなくなっちゃった……)

マリーナが笑い掛けても、すぅ、と視線を逸らされる気がするし、食事をしていても、あまり目を合わせてくれない。

とはいえ、頼み事は必ず聞いてくれるし、むしろ以前より甲斐甲斐しく色々助けてくれようとする。

避けられている気もするのに、逆に、ヴォルの視線を感じることも増えた。
心の距離が離れた訳ではないらしいのに、ヴォルがマリーナから離れようとしている、そんな気配だけは感じていた。


(……一人であれこれ考えて悩んでも仕方がない、本人に聞いてみよう……!!)

ある日、マリーナはそう心に決めて、ヴォルの家に立った。
深く深呼吸をし、ノックをしようとしたところで……

(人、の、声??)

「……だから、戻ってきなって」
しかも、女性の声だった。
「何で俺なんだ?」
聞き慣れたヴォルの声……だが、マリーナが聞いたことのないような冷たい声が、外にいるマリーナまで届く。

思わず、マリーナはその場に立ったまま、中から聞こえる声に耳を傾けてしまった。

「何言ってるのよ。どうせ仲間の子を生むなら、やっぱり強い子孫を残したいと思うのは、女として当然でしょう?」

びくり、とマリーナはその言葉に肩を震わす。

「男なら群れの中に、いくらでもいるだろう?」
「本気で言ってるの?あんたより強いヤツなんて、いないじゃない」

(やめて……、ヴォルさんを連れて行かないで……)
マリーナの脳裏に、去って行くヴォルの後ろ姿が思い浮かんだ。
その隣には、希少な女オーク。

「ま、こっちはしばらくあんたが群れに戻ってくるのを待ってたんだよ。あんたが出てって結構経つから、一回言っただけで戻ってくれるなんて、流石に思っちゃいない。また来るよ」

(あ……!!)
ガチャ、とドアが開いて、マリーナは固まった。
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