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オークは、元々群れを率いる長の子として生まれた。
屈強な兄弟の中でも一回り身体が大きく、体力も申し分なく、期待の跡取りとして育てられた。
しかし、周りの評価が変化したのは、大人のオーク達が連れてきた女を犯すという、成人の儀を彼が拒否してから。
オークは、仲間達が喜々として、泣き叫び逃げ惑う女達を次々と輪姦していくのを受け入れられなかった。
とはいえ、女のオークなど殆ど生まれず、他の種族の女達に子孫を託すしかない仲間達に、その行為をやめろと言っても理解して貰える訳がない。
オークは、どちらも選べなかった。
女達を逃がすことも、仲間の行為を眺めることも。
だから、逃げた。オークの群れから。
「だから、俺はオークとしては欠陥があるんだよ。群れの恥だ」
「……いえ。オークとしてはそうだとしても、私の価値観からは……私としては、貴方は決して欠陥品なんかではありません」
枝で作った箸を動かす手を止め、オークの話に聞き入っていた女は、そっとその箸をテーブルに置いた。
「むしろ、周りに流されず、自分の価値観をしっかりと持ち、かと言ってそれを人に押し付けない……とても、素敵な人だと思います」
女はオークを真っ直ぐに見詰めて言った。
少し面食らったオークだが、照れたようにプイと横を向いて、「……ありがとう」と返事をする。
「私、普通の人間にしか見えないと思いますが……実は、エルフなのです」
「そうなのか」
エルフが人間の前に姿を現すなんて珍しいと思っていたオークは、出会いのシーンを思い出して納得した。
女エルフは、自分の耳……普通の人間より、少し尖っている程度の耳を触りながら、話を続ける。
「私は見ての通り、エルフっぽくなくて……そして、エルフであれば当然のように扱える魔法も、全然得意ではないのです」
「そうか」
「だから……だから、ずっと……エルフの村では、出来損ないとして蔑まれてきました」
女エルフは、きゅ、とテーブルの上で握り拳を作った。
「両親はもういないので……本当は、村から出て行きたかった。ずっと、知り合いなんて誰もいないところに、行きたかったんです。でも、出来損ないの私は一人でやっていく、生きていく自信がなくて……村の皆にどんなことを言われても、何でもないフリをして、ヘラヘラ笑いながら……我慢して生きて来たんです」
でも、流石に木の実を取りに行った先で仲間に襲われるとは思いませんでしたけど、と女エルフは笑って言う。
そんな女エルフを見て、オークはぼそっと呟いた。
「……泣いていいぞ」
「えっ?」
「ここなら、君の知り合いは誰もいない。我慢する必要もない。君の力で叩いたところで壊れるようなものは何もないから、好きなだけ暴れていい」
「そんなこと……」
笑って続けようとした女エルフの顔が歪み、ぽろ、と涙が一筋流れた。
「……あれ?」
ぽろ、ぽろ、ぽろ……
「え、嘘、やだ、すみません……!!」
「少し外に出て来る。お腹が満たされたら、好きな時に家に帰るといい」
「……っ、ふ、うぅ……っっ」
オークは、今まで泣くことの出来なかった女エルフを家に置いて、縄張りの見回りに出た。
屈強な兄弟の中でも一回り身体が大きく、体力も申し分なく、期待の跡取りとして育てられた。
しかし、周りの評価が変化したのは、大人のオーク達が連れてきた女を犯すという、成人の儀を彼が拒否してから。
オークは、仲間達が喜々として、泣き叫び逃げ惑う女達を次々と輪姦していくのを受け入れられなかった。
とはいえ、女のオークなど殆ど生まれず、他の種族の女達に子孫を託すしかない仲間達に、その行為をやめろと言っても理解して貰える訳がない。
オークは、どちらも選べなかった。
女達を逃がすことも、仲間の行為を眺めることも。
だから、逃げた。オークの群れから。
「だから、俺はオークとしては欠陥があるんだよ。群れの恥だ」
「……いえ。オークとしてはそうだとしても、私の価値観からは……私としては、貴方は決して欠陥品なんかではありません」
枝で作った箸を動かす手を止め、オークの話に聞き入っていた女は、そっとその箸をテーブルに置いた。
「むしろ、周りに流されず、自分の価値観をしっかりと持ち、かと言ってそれを人に押し付けない……とても、素敵な人だと思います」
女はオークを真っ直ぐに見詰めて言った。
少し面食らったオークだが、照れたようにプイと横を向いて、「……ありがとう」と返事をする。
「私、普通の人間にしか見えないと思いますが……実は、エルフなのです」
「そうなのか」
エルフが人間の前に姿を現すなんて珍しいと思っていたオークは、出会いのシーンを思い出して納得した。
女エルフは、自分の耳……普通の人間より、少し尖っている程度の耳を触りながら、話を続ける。
「私は見ての通り、エルフっぽくなくて……そして、エルフであれば当然のように扱える魔法も、全然得意ではないのです」
「そうか」
「だから……だから、ずっと……エルフの村では、出来損ないとして蔑まれてきました」
女エルフは、きゅ、とテーブルの上で握り拳を作った。
「両親はもういないので……本当は、村から出て行きたかった。ずっと、知り合いなんて誰もいないところに、行きたかったんです。でも、出来損ないの私は一人でやっていく、生きていく自信がなくて……村の皆にどんなことを言われても、何でもないフリをして、ヘラヘラ笑いながら……我慢して生きて来たんです」
でも、流石に木の実を取りに行った先で仲間に襲われるとは思いませんでしたけど、と女エルフは笑って言う。
そんな女エルフを見て、オークはぼそっと呟いた。
「……泣いていいぞ」
「えっ?」
「ここなら、君の知り合いは誰もいない。我慢する必要もない。君の力で叩いたところで壊れるようなものは何もないから、好きなだけ暴れていい」
「そんなこと……」
笑って続けようとした女エルフの顔が歪み、ぽろ、と涙が一筋流れた。
「……あれ?」
ぽろ、ぽろ、ぽろ……
「え、嘘、やだ、すみません……!!」
「少し外に出て来る。お腹が満たされたら、好きな時に家に帰るといい」
「……っ、ふ、うぅ……っっ」
オークは、今まで泣くことの出来なかった女エルフを家に置いて、縄張りの見回りに出た。
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