セフレ、のち、旦那

イセヤ レキ

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璃空汰りくた、こちら私のお姉ちゃんの、ありかおばちゃんだよ。覚えてるかな?挨拶してね」
璃空汰はもう小学生の筈だ。
保育園に通っていた頃までしか知らないから、その成長っぷりに驚く。

「……覚えてるよ。家出てってから、全っ然帰って来てくれてないことも、覚えてる」
私を見て一瞬喜んだ顔をした璃空汰は、母親に言われるとハッとしたような表情を浮かべ、プイッとそっぽを向いてしまった。
私が大学を卒業するまで、璃空汰の遊び相手は私だった。
働いていた妹の代わりに、保育園の送迎やイベントなんかも散々引き受けた。
私には子供がいないから、保育園時代の記憶なんて小学生にあがれば直ぐに忘れるものだと思っていたけど、そうではなかったようだ。

「りっ君、悪かったよ」
私は璃空汰を抱き締め、そのまま頭を撫でくり回した。


「や、やめろって!!」
りっ君は、私の腕からするりと抜けると、家の中に避難する。

賑やかさが消え、静寂に包まれた。
妹は、苦笑して言う。
「……璃空汰、お姉ちゃんが大好きだったから、ずっと帰って来るの待ってたんだよ」
「うん」
「まぁ、とにかく長旅お疲れ様。ほら宇内、ご両親が彼氏さんを待ってるよ」
「はい」


妹の横で微笑む先生は、幾分歳を取った筈なのに、変わってなかった。
先生は変わらず童顔で、三十歳を超えている筈なのに、士楼と同学年か、下手したらそれ以下にも見える。

妹の旦那さんになる先生は、高校三年間お世話になった人で、私の初恋の人だった。



***



結婚話は、トントン拍子で進んだ。
士楼は両親から大歓迎され、散々飲まされた。士楼がザルだと知っているから、心配はしない。ただ、士楼の仕事が弁護士だったと初めて知って、私が「嘘でしょ!?」と一番に突っ込んでしまい、両親に「何だお前、彼氏の職業も知らんのか」と眉を潜められた。

その場は何とか誤魔化したが、後で「あれじゃ俺が親御さんの前で詐称したみたいだろうが!」と士楼に突っ込まれ、謝る他なかった。

四年前に出て行ったっきりだったが、私の部屋は当時のまま手が付けられていなかった。
そしてそんな変わらない私のベッドの横に、当然のように士楼用のお客様布団が並んでいた。
妹と璃空汰と先生は既に新居に引っ越しているとのことで、下戸で飲めない先生の運転で、夜には三人は実家を後にした。
その頃には璃空汰の機嫌も直っていて、私に小学校での出来事を沢山話してくれた。

上機嫌で士楼を解放しようとしない父親を、私と母親が何とかして引き剥がそうとしたが、士楼が「私は構いませんよ」と言ってしまった為、結局父親が酔い潰れるまで相手をして貰う羽目になった。

古い在来工法の実家の風呂から上がった士楼は、見慣れない上下のスウェットを着て「まさか、ありかの部屋より先に実家に行くことになるとはなー」と笑いながら私の部屋に戻ってくる。
「私だって、うちの実家に士楼がいるの、違和感しかないわ」
私も笑って答えた。

電気を消しても、遮光性のないカーテンは、月の光を容易に部屋に招き入れて。
そんな中、実家だからか、士楼は私と繋がらずにおしゃべりを選んだようだった。
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