セフレ、のち、旦那

イセヤ レキ

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「……え?何、士楼。私と結婚したいの?」
私が軽口を叩くように冗談っぽく笑って言えば、士楼は「ああ、そうだ」と頷いた。
まさかの反応に、こちらが固まってしまう。

いやいやいや、告白もなしに、普通のお付き合いもなしに……いや、デートとかは沢山したけど、ともかく一足跳びでいきなり結婚!?

「……急すぎやしませんか」
「だって、明日もう実家行くんだろ?何となくだけど、ありかがお見合いして、先方がOKしたら、ありかの好み云々じゃなくて普通に話を進めそうな気がする」

それは確かに間違っていない。

「……つまり、私のお見合いを止めたい?」
「いや、違う。ありかが他の奴と結婚する位なら、俺が立候補したいだけ。……親御さんには、そのお見合いの人と結婚しろって言われてんの?」
私は素直に首を振った。
そういう訳ではない。
親はただ、前に進めていない私を心配してくれているだけだ。
一時いっとき大変な目にあった妹が最近漸く一歩踏み出して幸せを掴んだから、尚更なのだろう。
そして私は、当時のまま成長していない私を見かねて見合い話を持ち掛けた、そんな親を安心させたいだけ。

そう、私は別に結婚願望がある訳ではない。
ただ、親を安心させたいだけなのだ。

そこで、やっと目の前の吉備永士楼という男を改めて見てみた。
彼を連れて行ったら、親はどんな反応をするだろうか?

……喜ぶだろうな。

それは、士楼じゃなくてもそうだろう。
親は、私の……私達娘の幸せを願っている人だから、私が誰かを選んだ時点でそれを尊重し、また祝福してくれる筈だ。


「じゃあ、俺が明日一緒にありかの実家に行って、結婚を前提に付き合ってるって話してもいい?」
「……明日!?」
「ああ。その方が、ご両親も安心するんじゃないか?」

そう言われて、私は思考を巡らせる。
確かに、昨日今日「付き合っている人がいる」と言ったとしても、まともに親に紹介して来なかった私を親は信じるだろうか?
むしろ、お見合い話を出したから私が気を遣った、若しくは嫌がったと考えるのが妥当だろう。
「なら近々連れて来なさい」と期待をしていなくても言われるだろうし……なら、確かに連れて行った方が早いは早いのだけど。


セフレとしか見ていなかったこの男と、私は結婚出来るのだろうか。
答えは簡単だ、勿論イエスである。

親が紹介するならどんな人でも私からは断らないと、決めていた。
親が話を持ち掛けるにはそれなりに吟味してくれたのだろうが、見も知らない相手よりは士楼の方が何倍も安心出来る。

顔良し、性格問題なし、身体の相性良し。
……あれ?想像以上に優良物件な気がしてきた。

「じゃあ、これから親に話してみるから……明日、一緒に顔だしてくれる?」

誰かが言っていた。
結婚は、タイミングなのだと。  
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