セフレ、のち、旦那

イセヤ レキ

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私は夜に食べる予定だったコンビニ弁当の消費期限が翌日の朝八時までもつことに小さく喜び、軽く化粧を施して、デート用ではなく私服のラフな格好で外に出る。
時刻はまだ十九時を回ったところで、秋の夜風が気持ち良かった。


先に着いた方がスマホに店内で待ってる、という旨の連絡を寄越すのが私達の暗黙のルールで、ファミレスに着いた私がスマホを覗けば既に士楼から連絡が来ていた。
仕事上がりのスーツの男を探して、私は声を掛ける。
「士楼」
私が声を掛けると、士楼はパッと顔を上げて、ばつが悪そうな……そしてホッとしたような表情を浮かべた。
「おう、……悪かったな、急に」
「ははは、今日で良かったよ。明日は実家に行っててこっちにいなかったからさ」
「ん。そうだな」

私はメニューを見ずに、お冷やを運んでくれた店員さんにドリンクバーとタコスサラダとフライドポテトを注文する。
目の前の男の席には、私が注文したものプラス海老ドリアが並んでいた。

タコスサラダの美味しさを士楼に教えたのは私で、士楼が初めて食べた時は「頼んだこと一度もなかったけど、美味いなコレ」と言って今では二人の注文の定番となっている。

「で?どうしたの?」
ドリンクバーで飲み物を取りに行って戻ってきた私は、極力明るく士楼に訊ねた。

「俺、ありかと別れてからしばらく胸がもやもやしててさぁ。その原因は、最高に相性の良いセフレを失ったからだと思ってたんだけど」
「うん」
「でもやっと最近、それが違うって気づいて」
「うん」
そのタイミングで、私の注文したフライドポテトが運ばれて来たので、士楼は一旦口を閉ざす。

「ごめん、食べながら聞いても良い?」
私が聞くと、士楼は「勿論」と言って、笑った。
私はフライドポテトをモグモグと口に運びながら、士楼に先を促す。

ただ、先に運ばれてきたのは士楼の言葉ではなくタコスサラダだった。
相変わらず、美味しい。味の変わらないファミレスに感謝だ。

「俺さぁ、ありかには結婚願望がないって思い込んでたんだよな。だから、このままの関係がずっと続くと思ってた」

結婚願望に関しては本当はちょっと違うけど、私はモグモグと口を動かしたまま頷く。
決して口がタコスサラダでいっぱいだったから説明しなかった訳ではない。……多分。

「いや違う、逆だ。ありかとこのままの関係が続くなら、今の関係のままでも良いと思ってたんだ。ありかは結婚願望がないと思ってたし、俺もそうだったから」


うん?どういうこと?意味がわからず、私は士楼の言葉を待つ。

「ありかに結婚願望があるなら、それってお見合い相手じゃなくて、俺でも良いんじゃないかって思った。だから、ありかに直接会って、確認したかったんだ」

そう言われた私は、さぞかし目を真ん丸にさせていたと思う。
目の前のイケメンに真っ直ぐ見据えられて、私は口の中のものを飲み込むタイミングを失った。
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