セフレ、のち、旦那

イセヤ レキ

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「シャワー、先に使って良いの?」
私が聞けば、士楼は即答した。
「一緒がいい」
「……まぁ別に、良いけど」


普段は私が身体を起こす英気を養っている間に士楼はさっさとシャワーを済ませていることが多い。

何時もとは違う様子の士楼に戸惑う私は、少し反応に遅れた。



何だろ?
今日の士楼は甘えん坊モードなのだろうか?

保護した動物の貰われ先が決まって、一緒に過ごす最終日、的な感じで感傷的にでもなっているようだ。



士楼に支えられながら、私達はお風呂に入った。

私達向かい合って立ったまま頭からシャワーを浴びながら、舌を絡めて口付ける。

「ん、……ふ……」

水滴が流れて、顔を濡らす。

薄目を開ければ、全身を濡らして壮絶な色気を纏った男が、その瞼を落として夢中で私の口内を隅から隅まで探索している。

うん、悪くない。だから胸を揉み出した士楼の手を払おうかどうか悩んで、これで最後だからと見逃してあげた。



「お見合いって、いつ頃なん?」
「えーと、1ヶ月後位だったかな?」
「ふーん……まぁ、振られたらまた連絡くれよ」
「ああ、そのパターンもあったね」

そうだ、お見合いとは相手から断られることだって当然あるんだ。

お見合いの話をされた時、士楼との関係を清算しておかなきゃということばかりに頭が回って、上手くいかなかった時のことを考えてなかった。



「見合いって、地元ですんの?」
「ん?そう、地元」
「じゃあ結婚したら、引っ越しか」
「そうだね」
「仕事はどうすんの?」
「続けたいけど、ひとまず今のところは辞めざるを得ないよね。……って、お見合い相手の職場が何処かわからないから何とも言えないけど」
「そっかー」



お見合い相手の職場どころか、まだお見合い相手の顔すら知らない。

私がお見合いの話を受けたのが昨日で、来週末に相手の釣書を見せて貰えるらしい。で、私はその時におめかしした写真を撮るらしい。



釣書という言葉を初めて知ったし、このデジタル化の時代にまだそんなのあるんだ……何て思ってたら、私写真はそのまま相手に転送されるらしいんだけど。



わざわざ地元に戻るの面倒だし、私にも釣書の内容写メで送ってくれれば良いんだけどな、と思っていたら、妹に「たまにはお姉ちゃんの顔を見たいんだよ」と言われたので行かざるを得なくなってしまった。



「さ、出ようか。逆上せちゃいそうだし、時間そろそろじゃない?」
「そうだった、やべ」



別れを惜しんではいるけれども、私達の別れに涙は似合わない。

私は私服を、士楼はスーツを着てラブホから外へ出る。

そのまま変わらず最近のニュースを話題にしながら、徒歩数分の駅に着いた。



「そんじゃ、ま……元気でね、士楼。今までお付き合いありがとう」
危ない、いつもの癖で「またね」と言いそうになった。
「おう。ありかも、元気でな」
私は手を振って士楼と別れ、土曜日朝の、人がまだまばらなホームを心の中で鼻歌を歌いながら歩いた。



……普通なそぶりをしてたけど、痛い。
胸じゃなくて、尻がめっちゃ痛い。
しばらくお尻を労らなければ、と心から私は思った。
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