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2、一言文句を言わねば気がすまない!!……けど。
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「……どこのどいつだ……!!」
クビになった元凶である奴を殺せはしなくとも、一言文句を言ってやらねば気が済まないと考えた私は、翌日尋ね人を掲載した依頼人の屋敷に忍び込んでいた。
それにしても、警備薄。
何なんだ、この忍び込んで下さい、襲って下さいと言わんばかりの警備の緩さは。他人事なのに、心配になってくる。
「……っと」
ひょいっとバルコニーに入り込み、目的の人物を探す。
私をクビに追いやった人物の名前は、イシュト。
名前に全く覚えはない。そいつは何で私の事を知っているんだ?とにかく少し脅して、あの人相書を取り下げて貰えば……仕事復帰、出来ないかな?……出来ないだろうなぁ、やっぱ。
少しメソメソしながら、慎重に狙いの部屋の前までやってきた。
この屋敷の見取り図は既に頭に入っている。絶対に殺さないから、というのを条件に、フォルトナ経由で情報を入手した。
あいつ相手に貸しを作ってしまったようで腹が立つ。フォルトナの意中の相手の好きな物を何か一つ見つけて来いって言われたけど、職場を去る同僚への配慮とかは皆無なのか、奴は!!餞別という言葉を知らないのか、奴は!!
──ともかく、私はするりと鍵すらかかっていない部屋に侵入した。
部屋のベッドの上で、分厚い本をペラリと捲る男の首にナイフを突き付け、低い声で声をかける。
「……お前、私に何か用があるのか」
ナイフは突き付けたけど、当然殺すつもりはなかった。オスターウォルド様に逆らっても良い事はないし。でも、こいつのせいでクビになった事は現実だし、少し位脅したって良いだろ、という気分だった。
なのにだ。
「……シェーラさん!?」
男はナイフなんてない物だとばかりに、何も気にせずこちらをぐいん!と振り返って見る。私は慌てた。
ちょ!!ナイフ当たるじゃん!!間違えてサクっと殺ったら私が怒られるじゃんっっ!!
冷や汗をかきながら、慌ててナイフを下げる私。
オカシイナ、昨日まで確かにあの悪党どもから恐れられる『シャドウ』の一員だった筈なのにナー?
こちらを振り向いた顔はこの世のものとは思えない程……というのは言い過ぎだけど、何と言うか……美人だった。性別を超えた美しさ、みたいな感じで、世に言う美少年とか美青年とかって感じ。
その顔に傷なんてつけようものなら、世の中の女性やら下手したら神様からも恨まれそう!!……ってな訳で私はナイフを下げたのに、空気を読まないその(多分)男は私の両手をぎゅっと握りしめて「……お会いしたかったです……!!」と神に祈りでも捧げるかのように、頭を下げる。
「……はぁ?」
いやもう、こっちはポカーンだ。
こんな美人に会った事あったっけな?いや、ないよなぁ。会ったら流石に覚えているだろうし。私より若い……とは言え、大差ない年頃の男をまじまじと見る。
「……そうだ、こちらシェーラさんのお忘れものです。お返し致します」
男はばっと身を翻してベッドからおり、宝石箱の様な箱の中から黒地の布を取り出した。
「……あ」
それを見た時、私は5年前の初仕事を思い出した──
クビになった元凶である奴を殺せはしなくとも、一言文句を言ってやらねば気が済まないと考えた私は、翌日尋ね人を掲載した依頼人の屋敷に忍び込んでいた。
それにしても、警備薄。
何なんだ、この忍び込んで下さい、襲って下さいと言わんばかりの警備の緩さは。他人事なのに、心配になってくる。
「……っと」
ひょいっとバルコニーに入り込み、目的の人物を探す。
私をクビに追いやった人物の名前は、イシュト。
名前に全く覚えはない。そいつは何で私の事を知っているんだ?とにかく少し脅して、あの人相書を取り下げて貰えば……仕事復帰、出来ないかな?……出来ないだろうなぁ、やっぱ。
少しメソメソしながら、慎重に狙いの部屋の前までやってきた。
この屋敷の見取り図は既に頭に入っている。絶対に殺さないから、というのを条件に、フォルトナ経由で情報を入手した。
あいつ相手に貸しを作ってしまったようで腹が立つ。フォルトナの意中の相手の好きな物を何か一つ見つけて来いって言われたけど、職場を去る同僚への配慮とかは皆無なのか、奴は!!餞別という言葉を知らないのか、奴は!!
──ともかく、私はするりと鍵すらかかっていない部屋に侵入した。
部屋のベッドの上で、分厚い本をペラリと捲る男の首にナイフを突き付け、低い声で声をかける。
「……お前、私に何か用があるのか」
ナイフは突き付けたけど、当然殺すつもりはなかった。オスターウォルド様に逆らっても良い事はないし。でも、こいつのせいでクビになった事は現実だし、少し位脅したって良いだろ、という気分だった。
なのにだ。
「……シェーラさん!?」
男はナイフなんてない物だとばかりに、何も気にせずこちらをぐいん!と振り返って見る。私は慌てた。
ちょ!!ナイフ当たるじゃん!!間違えてサクっと殺ったら私が怒られるじゃんっっ!!
冷や汗をかきながら、慌ててナイフを下げる私。
オカシイナ、昨日まで確かにあの悪党どもから恐れられる『シャドウ』の一員だった筈なのにナー?
こちらを振り向いた顔はこの世のものとは思えない程……というのは言い過ぎだけど、何と言うか……美人だった。性別を超えた美しさ、みたいな感じで、世に言う美少年とか美青年とかって感じ。
その顔に傷なんてつけようものなら、世の中の女性やら下手したら神様からも恨まれそう!!……ってな訳で私はナイフを下げたのに、空気を読まないその(多分)男は私の両手をぎゅっと握りしめて「……お会いしたかったです……!!」と神に祈りでも捧げるかのように、頭を下げる。
「……はぁ?」
いやもう、こっちはポカーンだ。
こんな美人に会った事あったっけな?いや、ないよなぁ。会ったら流石に覚えているだろうし。私より若い……とは言え、大差ない年頃の男をまじまじと見る。
「……そうだ、こちらシェーラさんのお忘れものです。お返し致します」
男はばっと身を翻してベッドからおり、宝石箱の様な箱の中から黒地の布を取り出した。
「……あ」
それを見た時、私は5年前の初仕事を思い出した──
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