溺愛カルテット

イセヤ レキ

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いち・アンサンブル

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純白のドレスに身を包んだ小柄な女性と、その横に寄り添うシルバーのタキシードをスマートに着こなすスラリとした男性。

緑の香りや石に当たっては弾ける水の音、高さ10メートルの天窓からは自然光が降り注ぐという癒しの空間そのものが演出されたチャペル。
そんなチャペルのロードをゆっくりと歩む二人。
都会のど真ん中だというのに、その光景は息を呑むほど壮大で神秘的だった。

その神秘的な雰囲気を現実に引き戻すかの様に、呼ばれたゲストは二人に向かってクラッカーを鳴らし、美しいキラキラとした紙吹雪を降らせるコンフェッティシャワーに参加する。


「おめでとう!!」
るなさん本当に綺麗ねぇ」
「おめでと~~~」
穂希ほまれさん、また一段と格好いい!」

私は、幼なじみの美しい花嫁姿に感動するばかりで、先程から滝のように流れる涙が邪魔をして良く見えない。

「すげー化粧崩れてる」
「うっさい」

私と一緒に式から参列させて貰っている、この失礼な事を言う真横に立つ男もまた幼なじみだ。
無言で差し出された男物のハンカチをこれまた私も無言で掴み、遠慮なく涙と鼻を拭った。

「うわお前、今鼻水まで……」
「うっさい」

洗って返すから許して。今日位は許して。
ずびずびしながら、新郎新婦の姿を目に焼き付ける。

「……ま、失恋記念だ。たっぷり泣いとけ」
「うっさい」

新婦の腰に手を回し、いとおし気な様子を微塵も隠そうとしない新郎もまた、私の幼なじみだった。

私は、大好きな親友かつ幼なじみの綺麗な花嫁姿に感動するだけではなく、自分の初恋が最後まで実る事はないのだという事を実感して、その日は一年分の涙を使い果たした。



♪♪♪♪♪



「ふぁ♡ん、んんっっっ」
私は、少しでも気を緩めればあっさりと飛ばしそうになる意識を必死で手繰り寄せながら、相手にすがりついた。
るな、可愛い」
掠れた低いバリトンが、熱い吐息に変換されながら私の耳朶を震わす。

「可愛いよ……っく、凄い締まった、今すぐ中に出しそう」

何で、こんな状況になっているんだっけ……
貴方は、誰?
少なくとも、私の大好きなヒトではないよね?
だって、私の大好きなヒトは、私にそんな事を言わないだろうから……
滲んだ視界と微睡む意識をハッキリさせたい様な、ハッキリさせたくない様な、そんな宙ぶらりんな気分。

誰だか知りたい。けど、知りたくないよ。

ぎゅ、と眼を瞑れば、嫌でも下半身に意識が集中してしまう。
ううん、下半身と、耳かな。
下半身からは、痺れる様な変な感じが波の様に押しては引いている。
耳は、相手と私の、はぁはぁという息切れの音と、下半身からぐちゅぐちゅという水音が絶え間なく拾い上げる。

初めての、エッチ。

この、痺れる様な変な感じは未知のものだったけど、間違いなく快感だと思う。
さっきから、私の声は自分でわかる位に甘ったるいものへと変わっているから。
相手の胸と私の胸があたって、そこからどちらのものかわからない鼓動の速さを感じる。
ドクドクドクドクいってる。

「あん♡ふぁ、あぁん♡」
私の身体のそんな奥まで穴が空いているのか、と驚く程深く、相手の物が膣に出入りしていて。
初めての私を気遣う様なゆったりとした動きは、私の水音が激しくなるにつれて、直ぐに獣の様に猛々しいものへと変化した。
それでも、私を揺する腕も施される愛撫も全身への舌使いも、全てが愛されていると勘違いしそうな優しさで。
奥深くまで突かれれば突かれる程、私の足は勝手にピンと伸びて、泥濘が増した。

ぬちゅぬちゅ、ぐちゅぐちゅ
そんな音が、自分の股の間から鳴り響いているのが恥ずかしくて、鳴らしたくなくて、股間そこに力を入れる。

「~~~っっ!そんなに、締めたら……っっ!!」

相手は慌てて、自らの物を私の入り口ギリギリまで引き抜いた。
少しの安心感と、物足りなさが、同時に胸中に渦巻く。

早く、埋めて欲しい。気持ち良いから。
もう、やめて欲しい。貴方は私が好きな人じゃないから。

ぐるぐるぐるぐる想いは交互に入れ替わって。
酔った頭は正解を弾き出してはくれなくて。

「……そんな顔を、しないで」

少し哀しそうな声が鼓膜を震わせたかと思えば。

ずちゅん!!!

「んはぁ♡!」
「……っ」

腰の打ち付けが激しさを増し、私のなかを掻き回す。
ピンと伸びていた両足を高く抱え上げられ、更に深いところを集中的に攻められ、私は頭頂部までジンジンと這い上がる感覚を受け取るのに精一杯。

ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ、
ずちゅん、ずちゅん、ずちゅん、ずちゅん

膣と耳が犯されて。

何も、考えられなくなって。

頭が、真っ白になって━━━━。




「……本気だから責任はとらせて。本当に悪かった」
「……私も、酔っちゃって……ごめんなさい……」
「月は悪くない。月が酩酊してるのを良い事に、ゴムも付けず中に出した」
「……」
もぞりと動けば、お尻より少し前からドロリとした何かが流れるのを感じる。


私は、裸でベッドに腰掛け、上半身だけこちらを向く幼なじみをチラリと見た。
スラリと高い身長、理知的な瞳。
トレードマークの縁なし眼鏡がない姿を見るのなんていつぶりだろう?
普段は綺麗に整えられた少し長めの髪が、今は乱れている。
彼の寝癖なんて、修学旅行に行った時ですら見た事ないのに。


彼は私の幼なじみだから、性格は十分わかっている……つもり。
少なくとも、本来なら酔っている女性を無理矢理抱く様な人ではない、と思う。
ましてや、避妊をしないなんて考えられない。
それはつまり……あの紙が、それだけ本気だと訴えてくれているのだろう。
私にとことん嫌われるかもしれない覚悟を持って。

「……あの、穂希ほまれ君。私、大丈夫、だから……」

本当は泣きそう。
バージンは、好きなヒトに捧げたかった。
勿論、穂希君の事が嫌いな訳じゃないの。
ただ、私は古臭い考えだとわかっていても、将来を誓いあったヒトが、最初で最後の人……という事に憧れを抱いていた。

泣いたら、穂希君に失礼だ。
そんな事は、相手ばかりが加害者みたいで凄く嫌。
私は昨日、自分自身で酩酊するまで飲んだのだから。
好きだと言ってくれる人とホテルの一室にいる時にすべき行為じゃなかったのに。



私、牧田まきたるなには、彼、小ノ宮こみや穂希ほまれ君以外に、仲の良い幼なじみが二人いる。
一人は、美人でしっかり者。情に厚い、梶谷かじや瑠衣るいちゃん。
もう一人は、無口だけど優しい、私の想い人。渡瀬わたせ昌也まさや君。


穂希君のお家は剣道の道場をやっていて、昌也君はそこに幼稚園時代から通っていたらしく、私と瑠衣ちゃんは、別の保育園で知り合った。
保育園では平仮名で名前を書くから、「るい」「るな」という名前が少し似てるね、というところから仲良くなったみたい。
記憶にはないけど、親が言うところによるとね。

小学校にあがって、穂希君と瑠衣ちゃんが同じクラスになり、席が隣同士という事もあって、よく話す様になった。
同じ小学校だった昌也君と私も、クラスは違うものの、よく4人で一緒に遊ぶ様になった。

私は当時人見知りが激しくて。
三年生になった時のクラス替えで昌也君と同じクラスになったんだけど、保育園からの知り合いがいないクラスだった。
自分から話し掛ける事も出来なくて、けど昌也君があれこれ仲間に入れてくれたから何とかクラスで浮かずに済んだ。

その時から、私は昌也君に片思いをし続けている。
そんなに背は高くないけど、昔から小さな私と並ぶと目線が丁度良くて、スポーツ万能。
穂希君は妹さんの方がよっぽど才能があるとかで剣道をさっさと止めたんだけど、昌也君は穂希君の妹さんと一緒にインターハイまでいく才能があった。
それを応援しに行くのも、凄く楽しかった。
少し三白眼で目付きが厳しく、茶色い髪を少し逆立てているから周りの女の子は怖がっていたけど、凄く優しくて誰よりも気遣いやさんだということを私達は知っている。

穂希君とは、小中高と同じ学校に通ったけど、同じクラスになった事は一度もなかった。
だからかな?瑠衣ちゃんや昌也君程、穂希君と親しい感じはしない。
穂希君は、瑠衣ちゃんのお兄さん達程ではないけど、昔から格好いいと評判だったから、他の女の子が怖くてあまり近寄りたいとも思わなかった。
穂希君が真っ直ぐにこちらを見るのが苦手……という事も、実はある。
ただ、4人でいる分には凄く楽しくて、そんな時は穂希君がいないとまた違和感を覚える位ではあったんだ。


私が昌也君に片思いをしてから2年も経てば、昌也君が誰に想いを寄せているかは必然的にわかってしまう。
昌也君は、真っ直ぐに瑠衣ちゃんだけを見ていた。

瑠衣ちゃんは、美人で、スタイルも良くて、モデルさんの様な女の子だった。
けど、家にお父さんがいなくてシングルマザーだとかで、6人兄妹力を合わせて家事分担をしてきた。
だから、家事全般何でもできる。お料理も上手だし、「作った方が安い」と言って、よく手作りのお菓子も持って来てくれた。
一人っ子で甘やかされて育てられた私とは大違い。

昌也君は、瑠衣ちゃんの見た目だけじゃなくて、情に厚いところも、サバサバしているところも、弟妹の面倒をよく見るところも、「将来は保育士になるんだ♪」と子供大好きで夢を現実にするところも、怖がりでホラー映画が見られないところも、とにかく全部ひっくるめて好きだった。
ううん、好き、じゃ足りないかも。
昌也君は、瑠衣ちゃんを愛してる。
昌也君は誰にでも優しくて気遣いをする人だけど、瑠衣ちゃんだけは別格だった。
瑠衣ちゃんは、中学生の頃から彼氏がいたりいなかったりしたけど、4人で遊ぶ時には必ず参加してくれたから、あまり寂しくはならなかった。
瑠衣ちゃんに彼氏がいようといまいと、昌也君は瑠衣ちゃんだけを見つめていたから、それが少し苦しかったかな、と言えば苦しかったかな。

じゃあ、私は昌也君を忘れられたかと言うと、そうでもなくて。
他の人を探そうとも思わなかった。
昌也君のさりげない優しさに触れてはやっぱり好きだなぁ、って思ったり。
昌也君が真っ直ぐに瑠衣ちゃんだけを愛しているところが好きだなぁ、って思った。
あんな風に、真っ直ぐ想われてみたいなぁって。


瑠衣ちゃんは、「家にお金ないから」と言って、高校を卒業して直ぐに働くつもりだったみたいなんだけど、気付けば一番上のお兄さんが沢山お金を稼いで、瑠衣ちゃんを大学に行かせてくれたらしい。
ついでに家も賃貸から持ち家を建ててローンなしというのだから、どんなお兄さんなのかと思う。
小学校でも中学校でも高校でも知らない人はいない(皆会った事ないのに名前位は知っている)レジェンドらしいのだけど、私が実際にお会い……というか、お見かけしたのは一度だけ。

穂希君でイケメンに耐性がついてるかと思ったけど、そうでもなかった。腰が砕けるかと思ったな。


瑠衣ちゃんに、「好きな人いないの?」と聞かれた時に答えた事はない。昌也君の事が好きだといったら、瑠衣ちゃんはとても気を遣うだろうし、それがまた昌也君を傷付けるだろうから。
「うーん、まだ誰かと付き合うとかはピンとこないの。4人でいるのが楽しすぎて」
そう答えれば瑠衣ちゃんは「わかるー!」といって、何度も聞いてきたりはしなかった。


そんなこんなで私は片思いを引きずったまま、私達4人は何だかんだで花火とか花見とかクリスマスとか正月とか誰かの誕生日だとかにかこつけて飲んだり祝ったりする仲をキープし続けていたの。

昨日は、穂希君のお誕生日を祝う会だった。
だから、友達相手にしてはそれなりに奮発して高価なプレゼントを買って、4人でよく利用するレストランに駆け付けた。

……けど、そこには瑠衣ちゃんも昌也君もいなくて。
後少ししたら二人とも来るかな?と思って、穂希君と先に飲んでた。
二人は来てないけど、穂希君にせがまれて私がプレゼントを渡したら、ニッコリ笑って喜んでくれて。
そしたら、穂希君が急に言い出したんだ。

「ね、月。俺のお嫁さんにならない?」

私は目が点になった。


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