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「じゃあ、ちょっとお出かけに行ってきますね。皆、年長者の言う事をよく聞いて良い子にしているのよ?」
「は~い!」
「シスター、僕も行きたい!」
「私も!」
「俺も!!」
「こら、シスターを困らせないのーっ」
「ふふ、帰りは遅くなるし、大人数で押し掛けは相手も迷惑だからね、今日だけは我慢してね?」

シスターが優しく一人ひとりの頭を撫でると、子供達はしょんぼりしながらも頷き、大人しく見送ってくれた。
この、街外れにポツンと佇む受け入れ可能な孤児院には子供が15人程おり、シスター二人で何とか管理していた。老齢のシスターは通いで、若いシスターはこの孤児院に一緒に住まい、子供達と生活を共にしている。



戦争が始まる前まではきちんと領主から運営費を補助金として頂いていたのに、戦争が始まった事を理由に予算がくまれなくなってしまった。

寄付を募っても他人に施しを出来る程の余力は領民にはなく、結果、若いシスターが一人、領主様の下まで出向いて慈悲を請い、何とか皆が1ヶ月分食べられる位の施しを個人的に受けている。



シスターは、唇をぐっと噛み締めて領主の屋敷へと向かう。
その表情は暗く、足取りは重たい。


ヴェラという名前のこのシスターは、20歳。元々、孤児院で育てられていた。この孤児院は、16歳で全員孤児院を退院……卒業しなければならない。ヴェラは幸いな事に、元々はお金持ちの屋敷に使用人として雇って貰える事が決まっていたが、その直前、お世話になっていたシスターが一人、亡くなってしまった。
戦争が始まるか否かという世情的に、ボランティアに近い仕事である新しいシスターが簡単に見つかる訳もなく、結局ヴェラは孤児院に留まり、子供達を育てていく事にしたのだ。


ヴェラが住まう地域は、戦争が起きている地域とは反対の位置にある。その為命の危険が常にある訳ではなく、そこはまだ救いであるが、逆に戦争が我が国で起きているという実感もない。
ただ、ヴェラと同時に孤児院を卒業したグラエムという若者は、戦争に参加したきり帰って来ない。それだけが、戦争は確かに終わっていないのだと感じさせてくれた。


『ヴェラ、必ず偉くなって、帰って来るからな!』


グラエムは、ヴェラにそう約束して、旅立って行った。
偉くならなくて良い。だから、ただ無事に帰って来て欲しい……そう思い続けて、四年が経過していた。
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