異世界では口を開かぬが吉。

イセヤ レキ

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Ⅰ、神より与えられし伴侶

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「……君が、神の贈り物か?」
「……दांत?」
「私の伴侶か?」
「……」
彼は、何を思ったのか自分の顔をペタペタと触っている。
「……दांत?चित्र??」
どうやら、我々は言語が通じない様だ。しかし、そんな事はどうでも良かった。パチパチと瞬きを繰り返し、自分の身体をペタペタと触る彼の全てが愛しく感じる。
「चित्र?…क्यों…क्यों?」
間違いない。神は私の願いを聞き届け、彼を私に届けてくれた。
彼は私の……妻だ。そう思った時には、口にしていた。
「君は私の、妻だ」
「चित्र?यह सही है、妻!」
どうやら、「そうです妻です」と言っている様だ。妻、という言葉だけはしっかりと彼も頷いてくれて、胸が暖かくなる。なんて可愛い妻を授かったのだろう。一生大事にする。

「一旦、家に帰ろう」
彼を立ち上がらせて、祭壇を後にしようとした。
しかし、「दर्द होता है!」彼の悲鳴に振り向けば、「यह दुखदायक है~……」彼は足を傷つけてしまったらしく、涙目になっている。
なんて繊細な妻なんだ!!私が彼を慌てて横抱きにすると、彼は「ओह!」と叫んで少し暴れたが、直ぐに大人しくなって私の首にすがりついた。
その可愛らしい様子を見て、下半身にずくんと熱が溜まる。
……早く、夫婦の営みをしたいな。

「ここが、あなたの家だ」
私がそのまま家の中に入ると、彼は少し怯えた様な表情でキョロキョロと辺りを見回した。蛇が出ると思っているのかもしれない。まぁ、しばらく暮らせば安全だと気付いて貰えるだろう。
私はそっと彼を一番座り心地の良い毛皮の上に座らせた。
「धन्यवाद」
相変わらず彼が何を言っているのかはわからないが、声のトーンは落ち着いていて、私好みだった。
彼の足をまず処置しようと思い、木桶を持ってきて、怪我をした方の足をその中に入れる。そして、洞窟の奥の方へ行って、水を汲んできた。
その水を彼の足に掛けて傷口を清めていると、何だか美味しそうに見えてきた。線の細い、ほっそりとした足。直ぐに折れてしまいそうで大事にしたい一方、噛み付きたくなる衝動。私はそのままぺろりと彼の足を舐める。
「अरे!」
彼はびっくりして足を引っ込めようとしたが、私が掴んでいたからびくともしない。そのまま気にせず舐め続けていると、彼は叫んだ。
「बहुत हो गया!कोई えっち है!!」
耳を疑う。
「私の妻は、もうベッドに行きたいのか?」
まだ日も高いが、彼がそう言うならば私は大歓迎だ。
「यह सही है、妻、चाटो मत、えっち」
彼が力強く頷いて、早く寝床でえっちしようと誘ってくる。私は手早く怪我をした足の処置をした。
「आपको धन्यवाद」
何を言っているのかはわからないが、恐らく御礼を言われたのだと思って笑みがこぼれる。私の妻は礼儀正しい。
「मेरा नाम सिया है।」
彼が何かを言っているが、わからない。
「今、何と言った?」
わからないが、もう一度聞く。何回も聞けば、いつかはわかるかもしれない。
妻は、自分を指差した。そして一言、「セイヤ」と言う。
「セイヤ?」私はおうむ返しに繰り返した。
どういう意味だろう?もしかして……と思った時、彼はもう一度頷いて、「妻、セイヤ」と言う。
私が「妻、セイヤ」と繰り返せば、彼は満足そうに笑った。彼が笑うだけで、胸が高鳴る。
そうか、やはり妻の名前はセイヤというらしい。
「हां।。तुम्हारा नाम क्या हे?」
セイヤは今度は、私を指差した。
「アルバール」
「アルバール?」
今度はセイヤが私の名前を初めて口にし、私は嬉しくなって彼に抱き付いた。



***



私がいつから、この場所にいるのかはわからない。
わかるのは、自分の使命。
私に与えられた役目は、1日二回、日の昇る時間と日の暮れる時間に祭壇に供物を備えに行き、祈りを捧げる事だ。
それを行えば、祭壇に捧げる供物も生きていく為の食糧も、必ず毎日家の洞窟の泉の横に現れる様になっている。
話す相手もおらず、私はいつも決められた時間に決められた事をし、生きていく為に食事をしては夜になれば眠った。
もうひとつの簡単な役割は、たまに祭壇に訪れる人間に、次に行くべき場所を指し示す事だ。それは森の中に続く、獣道だった。そして彼らとはどんなに近付いても、触れる事はない。

私が儀式をしなければ、供物は提供されても食糧は削られてしまう。
案内した人間と一緒に私も森の中に入った事はあるが、私が先に進もうとすると木々が邪魔をしてきた。他の人間はそのまま進めるのに、私だけはいくらナイフで切っても切っても襲ってくるので、諦めた。

この場所を訪れるのは、色んな人間だった。1人の人間もいたが、友人達とつるんで来る者が多かった。

ある日、私はふと思った。……何故私は、独りなのだろう?
誰も見ることのない儀式を捧げるだけの人生。話し相手も友達もおらず、誰にも気にとめられない人間。
私は様々な祈りを捧げていたが、そう考えた時から「私に伴侶を下さい」と祈る事が増えた。
私と人生を共にし、笑いあってくれる相手。男でも女でも、私を受け入れ、愛してくれる相手。
その日は珍しく、私の長い長い儀式を飽きもせずにじっと見ている1人の人間がいた。

視線が合って、ドキリとする。……願わくば、綺麗で欲のない瞳をした彼の様に綺麗な人間が私の傍にいてくれたなら。
儀式の間中、ずっとそれだけを願っていた。それが現実になるとも知らずに。
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