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87、疲労困憊。

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「疲れた~疲れたよ~」
「本当にお疲れ様でした、ヴァーリア様」
昨日ドラゴンと闘っておきながら、エーベルは疲労を見せる様子もなく正装の詰襟を寛げて私を労った。
すまんね、エーベルの方が本当はきっと疲れているだろうに。

私達は早めにパーティー会場を抜け出し、早々にエーベルの家に帰宅した。既に私は狼型に戻っており、日が暮れるまではずっと楽な狼型でダラダラする気満々だった。

因みにもう夜にこっそりお忍びで遊びに来ることはない。
名実ともに私達は婚約者として発表されたので、城内の自分の部屋でも、エーベルの部屋でも、私は結婚するまで好きに行き来していいらしいのだ。

「ヴァーリア様、城の厨房から夕食になるものを詰め合わせて頂いてまいりましたが、少し召し上がられますか?」
エーベルの問いに、私のお腹の虫がぐうううう、と返事をする。
「何か良い匂いがすると思ったら!流石エーベル、お腹ペコペコだよ~!」
私は羞恥で顔を赤くしながら、エーベルの家の戸棚を鼻先で開けて、自分用の皿をパクっと咥えてすすっと取り出した。

「私がやりますので、ヴァーリア様は休んでいらして下さい」
「うん、ありがとう~」
人型になれば手伝えるのだが、不思議と手伝えば手伝う程、食事の量や皿の枚数が減っていくのだ。私が不器用なのではなく、単に人型で手を細かく動かすのに慣れていないのだと信じている。うん。
ともかくエーベルのお言葉に甘えて、私は『ヴァーリア様専用ソファ』に座らせて貰った。
エーベルの家でもお手伝いさんの女性を一人雇った筈だが、今日はお休みのようだ。外はお祭り騒ぎでドンチャンやっているのだから、お手伝いさんもお休みを貰って遊びに行くには丁度良かっただろう。

何処かへ行って戻ってきたエーベルは手際良く食事を並べてくれる。ちょっとお皿に盛るだけなのに、料理がとても美味しそうに見えてそんなところにもエーベルのセンスが光った。
料理を詰め合わせたバスケットをひっくり返して皿に移すつもりだった私、反省。

「ヴァーリア様、お待たせ致しました」
「うん、ありがとう。では、いーただーきまーす!」
お腹の空いた私が行儀悪くはぐはぐ食べているのを、エーベルはニコニコしながら見ている。
あまりに見られ過ぎて顔に穴が空きそうだ。

「エーベル、どうしたの?」
「いえ、自分の幸せを噛みしめておりました」
「そうかそうか、私も幸せだよ」
速攻で皿を空にした私は、ペロリと口の周りを舐めて欠伸をひとつする。あー、美味しかった。
「ヴァーリア様、今『ヴァーリア様専用湯浴み』にお湯を溜めておりますので、後で入られますか?」
「ありがとう~」
「では私がヴァーリア様の身体を全身隈無く清めさせて頂きますね」
「うん……」
エーベルがゆっくり食事をしているのを、前足に顎をのせてぼーっと眺めた。
一昨日の誕生日からこの三日間、バタバタとしていて気も張って中々寛げなかったので、ゆったりと時間が流れていく今がとても貴重な時間に思える。
カチャ、カチャ、とたまに鳴る食器の音を心地好く聞きながら、私は瞼を閉じた。



***



身体をフワフワした感触に包まれ、私は気持ち良くてそれに頭を擦り付けた。
「お目覚めですか、ヴァーリア様」
「……んー……あれ?エーベル?」
「ヴァーリア様がお眠りになられている間に、勝手とは思いましたが湯浴みさせて頂きました」
「……」
エーベルが鼻の下を伸ばしてハァハァ言いながら私の全身を拭いているところを見ると、いつもの変態ストーカーっぽくて安心する。
イケメンエーベルも素敵だけど、狼型の私に欲情するのは世界中を探してもきっとこの目の前の変態さん位だろう。

「……エーベル……する?」
そう聞けば、エーベルは目をクワッと見開いて私を見た。
今は発情期ではない。けれども、エーベルが今までどれだけ身体を繋げることを我慢してくれていたのかを、私は知っている。
私の身体を洗い清めてくれたエーベルの股間は、今日も元気に布地を押し上げていた。なんなら、鼻先まで先走りの匂いが漂ってくる程だ。
こくり、と唾を飲み込んだエーベルは、
「それは……勿論」
と言ってベッドからおり、イソイソと全裸になった。
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