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85、妹の結婚式。
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「姉様、立ったまま寝るなんて凄いよね。流石だよ」
「……」
隣で笑う弟に、苦虫を噛み潰したような顔を向ける私。
嫌味でなく本気で凄いと弟は思っているようなので、何も言えないでいた。
今朝は気付けば侍女達に「妹殿下のめでたい日にいつまで寝ていらっしゃるのですか!準備に取りかからないと間に合いませんよ!」と叩き起こされた。
全く寝た記憶がない身としては、昨日の夜から今日の朝までタイムワープしたのではないかと疑ってしまう程だが、「エーベルハルト様がヴァーリア殿下をお部屋まで運んで下さいました」と言われて納得するしかなかった。
で、「私が主役じゃないんだから狼型でも良くない?」という訴えは無視されて朝からずっと人型を取らされ、また一人じゃ着れないドレスや装飾品を身に纏わされて、あれよあれよという間にもう妹の結婚式に参列している。
私達王族は最前列で並んでいるのだが、エーベルや次兄の婚約者はそこから三列ほど後ろに並んでいた。
うーん、エーベルが隣にいないと落ち着かない気分になる自分は、もう昔の自分とは違うのだと改めて感じる。
「そんな話より、今は目の前の綺麗過ぎる妹を愛でようよ」
「あはは、まぁ今日位は確かに」
妹の結婚式は、王城内の祭事の間で行われた。我が国は基本的に自然崇拝の国なので、結婚式での誓いは神の元ではなく、人前による宣誓となる。
結婚式自体はとてもシンプルで、新郎新婦入場、誓いの言葉、指輪の交換、結婚証明書への署名、が済めば参列者が承認の意味を込めて拍手をするだけで、後は退場して終了だ。
妹は、新郎となる騎士と並んで最後の結婚証明書への署名をしている最中だった。
この結婚式が終われば、妹は居を王城ではなく、騎士との新居に移すこととなる。
私の脳裏に、妹との思い出がいくつも蘇る。
泥だらけで部屋の中に入って一緒に怒られたよね。長兄や次兄と喧嘩して負けて泣いたり、初めて城下町にお忍びで出掛けた時はドキドキしながら犬の振りして寄り添って歩いた。中央の森では二人一緒に闘って何とか倒した猛獣もいたし、森の中の毒草を誤って食べた私のピンチに慌てて助けを呼びに行ってくれた。
私のお世話をするのが何故か大好きだった妹。
何処に行くにも一緒だった。
なのに初恋をした時、弟には相談しておきながら私には話してくれずにいたのを知って、私は拗ねて一週間口を効かなかった。
全部全部、愛しくて、大切で。
私の大好きな妹が、私以上に大切にしてくれる人のお嫁さんになるんだ。
幸せに、なってね。
署名を済ませた結婚証明書を参列者に掲げて見せる二人に、私は目一杯拍手を送る。
ぬぅ、手が痛い。愛しい妹をしっかり目に焼き付けたいのに、目の前がぼやけて仕方ない。
「……姉様、泣きすぎ」
「だってぇ……私の妹がぁ……っっ!!」
「今生の別れじゃないんだから。二人の新居なんて、王城から徒歩十分なんだし、いつでも会えるよ」
「そうなんだけどぉ……っっ!!」
「ほんっとに、姉様は感情表現がストレートだよね。ほら、人型なんだからこれで涙を拭いて」
私は、弟が差し出したハンカチで涙をゴシゴシと拭く。
「うわ、そんな拭き方しちゃ駄目だよ!押さえるように……こう」
「こう?」
「そう。うん、上手」
昼間に人型を取らない私は、ハンカチを使うこと自体稀だ。
「ありがとう」
私が弟に笑ってそう言えば、弟とは逆側に立つ次兄がため息を吐く。
「おいお前ら、後ろから殺気がするからイチャイチャするなよ」
苦情を言われて後ろを見る。
そこにはまた、正装姿で髪型もバッチリ決まった、昨日とはまた違った装いに磨かれたエーベルが佇んでいた。
うーん、こうして変態要素を抜いたエーベルは、端から見ると恐ろしい程にイケメンだ。
エーベルが私を見ながらニコリと笑い、私は小さく手を振って笑い返した。
……確かに何やら機嫌が悪そうだ。
実の弟にまで嫉妬しちゃうなんて、我が番は可愛いねぇーっっ!なんてニマニマしていたら、しっかりとそれもエーベルに伝わってしまったみたいで、その夜散々ゴメンナサイさせられるとはこの時の私は思ってもいなかった。
「……」
隣で笑う弟に、苦虫を噛み潰したような顔を向ける私。
嫌味でなく本気で凄いと弟は思っているようなので、何も言えないでいた。
今朝は気付けば侍女達に「妹殿下のめでたい日にいつまで寝ていらっしゃるのですか!準備に取りかからないと間に合いませんよ!」と叩き起こされた。
全く寝た記憶がない身としては、昨日の夜から今日の朝までタイムワープしたのではないかと疑ってしまう程だが、「エーベルハルト様がヴァーリア殿下をお部屋まで運んで下さいました」と言われて納得するしかなかった。
で、「私が主役じゃないんだから狼型でも良くない?」という訴えは無視されて朝からずっと人型を取らされ、また一人じゃ着れないドレスや装飾品を身に纏わされて、あれよあれよという間にもう妹の結婚式に参列している。
私達王族は最前列で並んでいるのだが、エーベルや次兄の婚約者はそこから三列ほど後ろに並んでいた。
うーん、エーベルが隣にいないと落ち着かない気分になる自分は、もう昔の自分とは違うのだと改めて感じる。
「そんな話より、今は目の前の綺麗過ぎる妹を愛でようよ」
「あはは、まぁ今日位は確かに」
妹の結婚式は、王城内の祭事の間で行われた。我が国は基本的に自然崇拝の国なので、結婚式での誓いは神の元ではなく、人前による宣誓となる。
結婚式自体はとてもシンプルで、新郎新婦入場、誓いの言葉、指輪の交換、結婚証明書への署名、が済めば参列者が承認の意味を込めて拍手をするだけで、後は退場して終了だ。
妹は、新郎となる騎士と並んで最後の結婚証明書への署名をしている最中だった。
この結婚式が終われば、妹は居を王城ではなく、騎士との新居に移すこととなる。
私の脳裏に、妹との思い出がいくつも蘇る。
泥だらけで部屋の中に入って一緒に怒られたよね。長兄や次兄と喧嘩して負けて泣いたり、初めて城下町にお忍びで出掛けた時はドキドキしながら犬の振りして寄り添って歩いた。中央の森では二人一緒に闘って何とか倒した猛獣もいたし、森の中の毒草を誤って食べた私のピンチに慌てて助けを呼びに行ってくれた。
私のお世話をするのが何故か大好きだった妹。
何処に行くにも一緒だった。
なのに初恋をした時、弟には相談しておきながら私には話してくれずにいたのを知って、私は拗ねて一週間口を効かなかった。
全部全部、愛しくて、大切で。
私の大好きな妹が、私以上に大切にしてくれる人のお嫁さんになるんだ。
幸せに、なってね。
署名を済ませた結婚証明書を参列者に掲げて見せる二人に、私は目一杯拍手を送る。
ぬぅ、手が痛い。愛しい妹をしっかり目に焼き付けたいのに、目の前がぼやけて仕方ない。
「……姉様、泣きすぎ」
「だってぇ……私の妹がぁ……っっ!!」
「今生の別れじゃないんだから。二人の新居なんて、王城から徒歩十分なんだし、いつでも会えるよ」
「そうなんだけどぉ……っっ!!」
「ほんっとに、姉様は感情表現がストレートだよね。ほら、人型なんだからこれで涙を拭いて」
私は、弟が差し出したハンカチで涙をゴシゴシと拭く。
「うわ、そんな拭き方しちゃ駄目だよ!押さえるように……こう」
「こう?」
「そう。うん、上手」
昼間に人型を取らない私は、ハンカチを使うこと自体稀だ。
「ありがとう」
私が弟に笑ってそう言えば、弟とは逆側に立つ次兄がため息を吐く。
「おいお前ら、後ろから殺気がするからイチャイチャするなよ」
苦情を言われて後ろを見る。
そこにはまた、正装姿で髪型もバッチリ決まった、昨日とはまた違った装いに磨かれたエーベルが佇んでいた。
うーん、こうして変態要素を抜いたエーベルは、端から見ると恐ろしい程にイケメンだ。
エーベルが私を見ながらニコリと笑い、私は小さく手を振って笑い返した。
……確かに何やら機嫌が悪そうだ。
実の弟にまで嫉妬しちゃうなんて、我が番は可愛いねぇーっっ!なんてニマニマしていたら、しっかりとそれもエーベルに伝わってしまったみたいで、その夜散々ゴメンナサイさせられるとはこの時の私は思ってもいなかった。
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