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75、怒れる侍女長。
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私が無条件で頷くと、エーベルは何かを第四皇子に告げた。
むむむ、いつの間に東国語なんて話せるようになったのだろうか?ちょっとカッコいいとか思ってしまう。
王女の癖に、私が話せるのはこの国の言葉と精々帝国語位だ。
「私の責任で第四皇子殿下とドラゴンをパーティー会場へご案内致します。誰か先に陛下へご説明をお願い出来ますか?」
エーベルが周りの兵士に言うので、「私が伝えとくよ」と言って身体の向きを変え、父がいる会場へと先に走ろうとした。兵士からは言いにくいだろうし、私の方が断然足が速い。
けれども、会場の方から兵士の一人が「陛下の許可が下りました!」と息を切らせながら走り寄ってきたので、その場で足を止める。
第四皇子は満足そうに頷き、「さっさと案内しなさい」的な何かを言っていた。
私とエーベルは、第四皇子の大行列を見送りながら言葉を交わす。
「エーベル、どう思う?」
「瞳の色がしっかりしていますし、何かの薬物が使われた形跡はありませんね」
「じゃあ、本当に第四皇子が手懐けたってこと?」
あんな、ドラゴンを見世物にして自分の立場を誇示しようとする人間が?
エーベルは直ぐ様否定した。
「それはないですね。あのドラゴンは、第四皇子を直ぐにでも殺したい程憎んでそうですし……何か理由がありそうですが」
「ふーん」
大行列の最後尾にさしかかると、私の耳がコツ、コツ、という堅いものを叩くような聞き慣れない音を拾った。
……ん?
左右の耳を動かして音の出どころを探るが、もう音はしない。
「エーベル、今の聞こえた?」
「いえ、すみません」
「そっか」
でも、私がその音を拾った時、明らかにドラゴンがこちらを向いたのだ。
「貴賓がいる中、陛下がドラゴンを確認もせずに入れたとなると……何かご存知かもしれませんね」
「……うん」
私達の誕生日はまだしも、明後日には妹の結婚式だ。
何事もなければ良いなぁ、と思ったけれども……そんな訳にはいかないのだった。
***
「ヴァーリア殿下っ!どちらに行ってらしたのですか!!」
「必ずダンスの御披露目二時間前までにはお戻り下さいとあれだけ言いましたよね!!」
「ごめんー!ごめんー!!」
すっかり忘れてました。
侍女に見つかり、文字通り首根っこを掴まれた私はずるずると侍女長の前に引きずり出され、自分の部屋でお説教を食らっている最中だ。
誕生日パーティーは、公式的なものは夕飯の前に終了する。
その後は立食でもテーブル席でも自由に食事をとって談笑して貰い、食後は完全にホールを開放して好きに踊って食べて飲んで語って頂く時間となる。
私は夕飯食べたらいつも引っ込んでいたから、よく知らないけど。
「このままでは間に合いません!さっさと人型になって下さいませ!!」
「今さー、丁度ドラゴンの……」
「今日はヴァーリア様のお誕生日なのですよっ!!」
怖いー!怖いよー!!
ドラゴンがどんな芸を見せるのか、気になっただけなのにぃ……すっかり忘れていたことは棚上げしとく。
「そんな、耳や尻尾を垂れて反省をお示しになられても……まぁ、多少は……可愛らしいとは思いますが、許しません。今日はヴァーリア様の人型を初めて御披露目する大事な日なのです……!!私達でさえ滅多に見ることが出来ないのに……っっ!」
「さぁ、ヴァーリア様!早く人型に!」
「わかったよ~~」
お昼からの人型は疲れるのだけど、仕方ない。
私は「こちらにどうぞ」と言われた風呂の洗い場で伏せをする。私が伏せるとすかさずタオルケットが私の身体に掛けられ、私が人型になるのを今か今かと待ち構えられる。
……こんなに大勢の前で集中なんて出来るか!
でもやらねば、侍女長が再び鬼の形相になるだろう。
私は目を瞑り、頑張って身体に意識をして人型になった。
視界に無事自分の腕が見え、銀の髪がサラサラとその腕に掛かった時には心から安堵する。
「ヴァーリア殿下……何て、お美しいのかしら……!!」
「お誉めの言葉ありがとー」
私はタオルケットを身体に引っ掛けたまま二足歩行で立ち上がった。
「……皆さん!感嘆感激感涙するのはヴァーリア殿下の準備が全て整った後になさい!さぁ、ヴァーリア殿下をぴっかぴかに磨き上げて完璧な淑女に致しますよ!!」
もうもうと湯気の上がる風呂が、侍女やメイドのやる気を鼓舞していた。
むむむ、いつの間に東国語なんて話せるようになったのだろうか?ちょっとカッコいいとか思ってしまう。
王女の癖に、私が話せるのはこの国の言葉と精々帝国語位だ。
「私の責任で第四皇子殿下とドラゴンをパーティー会場へご案内致します。誰か先に陛下へご説明をお願い出来ますか?」
エーベルが周りの兵士に言うので、「私が伝えとくよ」と言って身体の向きを変え、父がいる会場へと先に走ろうとした。兵士からは言いにくいだろうし、私の方が断然足が速い。
けれども、会場の方から兵士の一人が「陛下の許可が下りました!」と息を切らせながら走り寄ってきたので、その場で足を止める。
第四皇子は満足そうに頷き、「さっさと案内しなさい」的な何かを言っていた。
私とエーベルは、第四皇子の大行列を見送りながら言葉を交わす。
「エーベル、どう思う?」
「瞳の色がしっかりしていますし、何かの薬物が使われた形跡はありませんね」
「じゃあ、本当に第四皇子が手懐けたってこと?」
あんな、ドラゴンを見世物にして自分の立場を誇示しようとする人間が?
エーベルは直ぐ様否定した。
「それはないですね。あのドラゴンは、第四皇子を直ぐにでも殺したい程憎んでそうですし……何か理由がありそうですが」
「ふーん」
大行列の最後尾にさしかかると、私の耳がコツ、コツ、という堅いものを叩くような聞き慣れない音を拾った。
……ん?
左右の耳を動かして音の出どころを探るが、もう音はしない。
「エーベル、今の聞こえた?」
「いえ、すみません」
「そっか」
でも、私がその音を拾った時、明らかにドラゴンがこちらを向いたのだ。
「貴賓がいる中、陛下がドラゴンを確認もせずに入れたとなると……何かご存知かもしれませんね」
「……うん」
私達の誕生日はまだしも、明後日には妹の結婚式だ。
何事もなければ良いなぁ、と思ったけれども……そんな訳にはいかないのだった。
***
「ヴァーリア殿下っ!どちらに行ってらしたのですか!!」
「必ずダンスの御披露目二時間前までにはお戻り下さいとあれだけ言いましたよね!!」
「ごめんー!ごめんー!!」
すっかり忘れてました。
侍女に見つかり、文字通り首根っこを掴まれた私はずるずると侍女長の前に引きずり出され、自分の部屋でお説教を食らっている最中だ。
誕生日パーティーは、公式的なものは夕飯の前に終了する。
その後は立食でもテーブル席でも自由に食事をとって談笑して貰い、食後は完全にホールを開放して好きに踊って食べて飲んで語って頂く時間となる。
私は夕飯食べたらいつも引っ込んでいたから、よく知らないけど。
「このままでは間に合いません!さっさと人型になって下さいませ!!」
「今さー、丁度ドラゴンの……」
「今日はヴァーリア様のお誕生日なのですよっ!!」
怖いー!怖いよー!!
ドラゴンがどんな芸を見せるのか、気になっただけなのにぃ……すっかり忘れていたことは棚上げしとく。
「そんな、耳や尻尾を垂れて反省をお示しになられても……まぁ、多少は……可愛らしいとは思いますが、許しません。今日はヴァーリア様の人型を初めて御披露目する大事な日なのです……!!私達でさえ滅多に見ることが出来ないのに……っっ!」
「さぁ、ヴァーリア様!早く人型に!」
「わかったよ~~」
お昼からの人型は疲れるのだけど、仕方ない。
私は「こちらにどうぞ」と言われた風呂の洗い場で伏せをする。私が伏せるとすかさずタオルケットが私の身体に掛けられ、私が人型になるのを今か今かと待ち構えられる。
……こんなに大勢の前で集中なんて出来るか!
でもやらねば、侍女長が再び鬼の形相になるだろう。
私は目を瞑り、頑張って身体に意識をして人型になった。
視界に無事自分の腕が見え、銀の髪がサラサラとその腕に掛かった時には心から安堵する。
「ヴァーリア殿下……何て、お美しいのかしら……!!」
「お誉めの言葉ありがとー」
私はタオルケットを身体に引っ掛けたまま二足歩行で立ち上がった。
「……皆さん!感嘆感激感涙するのはヴァーリア殿下の準備が全て整った後になさい!さぁ、ヴァーリア殿下をぴっかぴかに磨き上げて完璧な淑女に致しますよ!!」
もうもうと湯気の上がる風呂が、侍女やメイドのやる気を鼓舞していた。
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