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60、心に突き刺さる矢。
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「ねぇエーベル、なんで今回エーベルは怪我したの?」
エーベルの前で泣いてしまった事が恥ずかしく、ずびずびと鼻を鳴らしながら話を逸らす。
あんな子供の猛獣に後れを取るなんて、本当にらしくない。
普段のエーベルなら、確実に怪我なんてしない筈だ。
「ああ……、私が未熟だっただけですよ」
「ふーん……恋人なのに、私に本音で話せないの?」
「そういう訳では……!」
エーベルは、撫で撫でしていた手を止め、慌てて私と視線を合わせた。
「ヴァーリア様、抱き締めさせて頂けませんか……?」
「うん?いーよ」
話を逸らさなきゃね!
エーベルは私の首に自分の腕を絡め、ふわふわの毛にその顔を埋めた。そしてそのまま、ポツリと言う。
「……正直、昨日からヴァーリア様のお姿が……頭から離れないのです」
「ああ、発情した時の?」
そう言えば、すっきり目覚めた私とは対照的にエーベルは睡眠不足っぽかったっけ?
「はい。ですので、あの女が入ってきた時に気付くのが遅れて……」
「お嬢様を助けるのも遅れたって事?」
「いえ、最初は助ける気もしなかったのですが。私には猛獣の方が大事ですし」
はい!?私はぎょっとして尻尾と耳をピンと立てる。その様子に気付いたエーベルが教えてくれた。
「ヴァーリア様、猛獣隔離室は管理者と私のように資格を持った者と、許可を持った者しか入室出来ない、と法律で定められているのですよ。管理者の責任外で万が一それ以外の人間が入ったとしても、その者がどんな目に合っても云わば自業自得となります」
「へ、へ~~」
知りませんでしたけど、私!?まぁ、隔離室に入ったら迷惑だと思っていたから、知らなくても入るような事はしなかったけどね。
「ですから、見捨てるのも合法的に問題ないのですが……もし、このまま私がいる場で事故が起これば、折角両陛下が認めて下さったヴァーリア様との関係にケチがついて破談になってしまうかも、と思いまして。そう思ったら、勝手に身体が動いていました」
「……お、おぉ……良かったよ。考えを改めてくれて」
次回からは考えなくても助けてあげてね、って思ったからそれをストレートに伝えてみた。
「助けるって決めておけば、逡巡しないですぐ動けるからエーベルもこんな怪我しなかったと思うんだよね!!」
「まぁ……確かにそうかもしれませんね。ヴァーリア様がそれをお望みであれば、以後気を付けます」
「でも、私にとってはエーベルが何より大事って言うのも忘れないでね!」
「……はい」
ヴァーリア様は私にどうして欲しいんですか、と笑いながら言うエーベルを見てホッとした。大分体調も戻ってきたみたいだし、そろそろ医師にも診て貰った方が良いかもしれないと思い、エーベルに話して一旦部屋を後にする。
私が廊下に出ると、ロビーにいる隊長達の声が耳に入って来た。
「あのなぁ、長生きしたけりゃ口を慎めよ、お前」
いつも剽軽な隊長がかなりイライラしているみたいで、怒っているような声色をここにきて初めて聞く。
「は!?私はあくまで一般常識的なお話をしているつもりでございますわ。ヴァーリア殿下とエーベルハルト様が恋人同士って、何の冗談ですの!?エーベルハルト様は、何か弱味を握られているに違いありません。でなきゃ、誰が狼なんかと恋人になります!?……誰が、自分の子供も、狼が生まれてくる可能性のある女なんかと結婚する気になりますの!?」
お嬢様の言葉は、私の心に雨のような矢を放ってぐさぐさと突き刺さった。
エーベルの前で泣いてしまった事が恥ずかしく、ずびずびと鼻を鳴らしながら話を逸らす。
あんな子供の猛獣に後れを取るなんて、本当にらしくない。
普段のエーベルなら、確実に怪我なんてしない筈だ。
「ああ……、私が未熟だっただけですよ」
「ふーん……恋人なのに、私に本音で話せないの?」
「そういう訳では……!」
エーベルは、撫で撫でしていた手を止め、慌てて私と視線を合わせた。
「ヴァーリア様、抱き締めさせて頂けませんか……?」
「うん?いーよ」
話を逸らさなきゃね!
エーベルは私の首に自分の腕を絡め、ふわふわの毛にその顔を埋めた。そしてそのまま、ポツリと言う。
「……正直、昨日からヴァーリア様のお姿が……頭から離れないのです」
「ああ、発情した時の?」
そう言えば、すっきり目覚めた私とは対照的にエーベルは睡眠不足っぽかったっけ?
「はい。ですので、あの女が入ってきた時に気付くのが遅れて……」
「お嬢様を助けるのも遅れたって事?」
「いえ、最初は助ける気もしなかったのですが。私には猛獣の方が大事ですし」
はい!?私はぎょっとして尻尾と耳をピンと立てる。その様子に気付いたエーベルが教えてくれた。
「ヴァーリア様、猛獣隔離室は管理者と私のように資格を持った者と、許可を持った者しか入室出来ない、と法律で定められているのですよ。管理者の責任外で万が一それ以外の人間が入ったとしても、その者がどんな目に合っても云わば自業自得となります」
「へ、へ~~」
知りませんでしたけど、私!?まぁ、隔離室に入ったら迷惑だと思っていたから、知らなくても入るような事はしなかったけどね。
「ですから、見捨てるのも合法的に問題ないのですが……もし、このまま私がいる場で事故が起これば、折角両陛下が認めて下さったヴァーリア様との関係にケチがついて破談になってしまうかも、と思いまして。そう思ったら、勝手に身体が動いていました」
「……お、おぉ……良かったよ。考えを改めてくれて」
次回からは考えなくても助けてあげてね、って思ったからそれをストレートに伝えてみた。
「助けるって決めておけば、逡巡しないですぐ動けるからエーベルもこんな怪我しなかったと思うんだよね!!」
「まぁ……確かにそうかもしれませんね。ヴァーリア様がそれをお望みであれば、以後気を付けます」
「でも、私にとってはエーベルが何より大事って言うのも忘れないでね!」
「……はい」
ヴァーリア様は私にどうして欲しいんですか、と笑いながら言うエーベルを見てホッとした。大分体調も戻ってきたみたいだし、そろそろ医師にも診て貰った方が良いかもしれないと思い、エーベルに話して一旦部屋を後にする。
私が廊下に出ると、ロビーにいる隊長達の声が耳に入って来た。
「あのなぁ、長生きしたけりゃ口を慎めよ、お前」
いつも剽軽な隊長がかなりイライラしているみたいで、怒っているような声色をここにきて初めて聞く。
「は!?私はあくまで一般常識的なお話をしているつもりでございますわ。ヴァーリア殿下とエーベルハルト様が恋人同士って、何の冗談ですの!?エーベルハルト様は、何か弱味を握られているに違いありません。でなきゃ、誰が狼なんかと恋人になります!?……誰が、自分の子供も、狼が生まれてくる可能性のある女なんかと結婚する気になりますの!?」
お嬢様の言葉は、私の心に雨のような矢を放ってぐさぐさと突き刺さった。
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