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21、一人で遊……視察するぞ。
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最初の町と同じで、狼の姿で町中を歩けばそれは散歩になってしまう。言葉は話せるけど、町民とは畏まった会話しか出来ないだろう。
第一王女のヴァーリアは、昼間は「狼型」しか取れないと思われているが、正確には取れないのではなくて取らないのだ。弟が昼間に狼型も取れる様になった頃から、私も昼間に人型が取れる様になった。
あまり気が抜けなくて疲れるし、人型を取ったところでメリットを感じないので普段は取らない。人型が知れ渡る事の方がデメリット多い気がするし。そして逆に、私は夜も狼型になれる。ただ、やっぱり気の抜けた瞬間……例えば寝てしまったりすると、夜は人間になってしまうのだ。
今回は仕事なんだけど!それはわかっているんだけど!!
人生で初めて家族と離れた旅行の様で、とても気分が高揚してしまう。やっぱりしたいのよ、観光とやらも。もぞもぞと、滅多に使わないお忍び用の平民服を着る。銀髪は目立つから、鞄の一番下に忍ばせていた茶髪のカツラを装着した。
……よし、OK。
私は王女だけど、護衛とかは皆無だ。だって狼型の私の方が強いんだもん。だから、この部屋から出ても誰もいない筈。
ただ、この部屋から廊下に出ると、軍隊貸し切り状態のこの宿屋で私の姿は流石に目立ってしまうだろう。
エプロンなんかすればまだ宿屋のお手伝いに見えなくもないが、残念ながらそこまでの準備はしていなかった。
可能であれば、昨日のように窓から出るか。
私はエーベルに聞こえないように、そーっと上げ下げ窓を開けた。幸いにも窓は軋む事なく開き、外を覗き込めば窓の下には一階部分の屋根が続いている。そもそも私の身体能力的には人型であってもこれ位の高さなら二階から飛び降りる事は出来るし、一番端の方まで行けば木にも飛び移れそうだった。
鞄の中の物を一旦全部出して、フード一枚とお財布を詰めて背負う。少し悩んで、「今日の夕食はいりません。少し出掛けてきます。ヴァーリア」と置き手紙を書く。これで多分、狼型で町の外をうろちょろして来たのだろうと思って貰える筈。そして部屋の鍵を開けてから、窓の外に躍り出る。
遊ぶぞー!!……いや違った、視察するぞー!!
私はウキウキしながら、町中探検に一人で出掛けた。
***
外に出た私の目的。先ずは芝居小屋だ。
お金を払えば入れて貰える筈だと思い、小屋の出入口にいるおじさんに「いくらで入れますか?」と聞けば、その人は小屋の横にいた人を指差して「お嬢ちゃん、あっちでチケットを買うんだよ。座る席によって値段が違うから、聞いてみな」と言われた。ドキドキしながらチケットを買い、再び出入口まで戻ってチケット売り場を教えてくれたおじさんにチケットを渡す。
そのおじさんは「お嬢ちゃん、今は公演中で入れないから、後30分程待てるかな?」と笑って出入口の横にある看板を指差し、「ほら、ここに公演時間が書いてあるだろう?」と教えてくれた。
「では、また戻ってきます。ありがとうございました」
私はその人に御礼を言って、芝居小屋を後にした。
初めてお嬢ちゃんとか言われた!何だかお忍びっぽくて楽しすぎるー!!
芝居小屋に面したメインストリートは、お店が立ち並んでいてとても賑やかだ。外から眺めているだけでも十分に楽しめるし、屋台もあって、立ち歩きしながら串焼きを食している者もいた。
屋台の前を通る度に良い匂いがして足が止まりそうになるが、私の鼻はその中でも一際美味しそうな店を紹介してくれる。
「おじさん、これひとつ下さい」
「あいよ~」
甘辛味に仕上げた鶏の皮をカラッと上げたもの。それを香味草で包んだ軽食をひとつ買い上げ、広場の階段を陣取り、ハフハフとその熱さにやられながらも平らげた。
第一王女のヴァーリアは、昼間は「狼型」しか取れないと思われているが、正確には取れないのではなくて取らないのだ。弟が昼間に狼型も取れる様になった頃から、私も昼間に人型が取れる様になった。
あまり気が抜けなくて疲れるし、人型を取ったところでメリットを感じないので普段は取らない。人型が知れ渡る事の方がデメリット多い気がするし。そして逆に、私は夜も狼型になれる。ただ、やっぱり気の抜けた瞬間……例えば寝てしまったりすると、夜は人間になってしまうのだ。
今回は仕事なんだけど!それはわかっているんだけど!!
人生で初めて家族と離れた旅行の様で、とても気分が高揚してしまう。やっぱりしたいのよ、観光とやらも。もぞもぞと、滅多に使わないお忍び用の平民服を着る。銀髪は目立つから、鞄の一番下に忍ばせていた茶髪のカツラを装着した。
……よし、OK。
私は王女だけど、護衛とかは皆無だ。だって狼型の私の方が強いんだもん。だから、この部屋から出ても誰もいない筈。
ただ、この部屋から廊下に出ると、軍隊貸し切り状態のこの宿屋で私の姿は流石に目立ってしまうだろう。
エプロンなんかすればまだ宿屋のお手伝いに見えなくもないが、残念ながらそこまでの準備はしていなかった。
可能であれば、昨日のように窓から出るか。
私はエーベルに聞こえないように、そーっと上げ下げ窓を開けた。幸いにも窓は軋む事なく開き、外を覗き込めば窓の下には一階部分の屋根が続いている。そもそも私の身体能力的には人型であってもこれ位の高さなら二階から飛び降りる事は出来るし、一番端の方まで行けば木にも飛び移れそうだった。
鞄の中の物を一旦全部出して、フード一枚とお財布を詰めて背負う。少し悩んで、「今日の夕食はいりません。少し出掛けてきます。ヴァーリア」と置き手紙を書く。これで多分、狼型で町の外をうろちょろして来たのだろうと思って貰える筈。そして部屋の鍵を開けてから、窓の外に躍り出る。
遊ぶぞー!!……いや違った、視察するぞー!!
私はウキウキしながら、町中探検に一人で出掛けた。
***
外に出た私の目的。先ずは芝居小屋だ。
お金を払えば入れて貰える筈だと思い、小屋の出入口にいるおじさんに「いくらで入れますか?」と聞けば、その人は小屋の横にいた人を指差して「お嬢ちゃん、あっちでチケットを買うんだよ。座る席によって値段が違うから、聞いてみな」と言われた。ドキドキしながらチケットを買い、再び出入口まで戻ってチケット売り場を教えてくれたおじさんにチケットを渡す。
そのおじさんは「お嬢ちゃん、今は公演中で入れないから、後30分程待てるかな?」と笑って出入口の横にある看板を指差し、「ほら、ここに公演時間が書いてあるだろう?」と教えてくれた。
「では、また戻ってきます。ありがとうございました」
私はその人に御礼を言って、芝居小屋を後にした。
初めてお嬢ちゃんとか言われた!何だかお忍びっぽくて楽しすぎるー!!
芝居小屋に面したメインストリートは、お店が立ち並んでいてとても賑やかだ。外から眺めているだけでも十分に楽しめるし、屋台もあって、立ち歩きしながら串焼きを食している者もいた。
屋台の前を通る度に良い匂いがして足が止まりそうになるが、私の鼻はその中でも一際美味しそうな店を紹介してくれる。
「おじさん、これひとつ下さい」
「あいよ~」
甘辛味に仕上げた鶏の皮をカラッと上げたもの。それを香味草で包んだ軽食をひとつ買い上げ、広場の階段を陣取り、ハフハフとその熱さにやられながらも平らげた。
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