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20、満を持してへーんしん。
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次の町に到着したのは、お昼過ぎという結構早めの時間帯だった。
まだまだ先を目指してもいい時間なんだけど、連日テント泊という事で軍隊の疲労も溜まっている為、疲労回復の意味も込めてそこで一泊する事になった。
「では本日も、デートにいらっしゃいませんか?」
いやだから、どっから見ても散歩ね?
エーベルがまたあの首輪とリードを持って、満面の笑みで誘ってくる。
しかしまぁ、専任の侍女を連れていない私がこの数日エーベルの世話になりっぱなしだというのは事実だし、エーベルが望んでいるなら叶えてあげるのも悪い事ではないだろう。
……と言い訳をして、好奇心が抑えきれない私はこくりと頷いた。
「エーベル、あれって前の町にもあった、芝居小屋じゃない?」
私が聞けば、エーベルは「おっしゃる通りですよ」と笑い掛けてくれる。
「ああ、ちょうど演目が陛下と皇后陛下のお話ですね」
「……はい?」
「ご存知ないですか?狼王である陛下と、伯爵令嬢だった皇后陛下の恋物語は、有名なラブロマンス物として脚本化されているのですよ」
いやご存知ありません。
そもそも、うちの両親は知っているのだろうか?芝居なんか全く興味なさそうだから、恐らくノータッチだろうけど。
子供としては、純粋に気になる。
見れば全身こそばゆくなりそうだけど、気になる。
「エーベル、今はまだ昼間だし、次からの時間に入れないかなぁ?」
私が聞けば、エーベルは「少々お待ち下さいませ」と言って芝居小屋に向かった。
しばらくすると、エーベルは困り顔で戻ってくる。
「……ヴァーリア様。正体を明かせば恐らく中には入れて貰えるかと思いますが、そのお姿で、正体を明かさず入室するのは難しそうです。如何致しますか?」
「そっかぁ」
うーん。ちょっと芝居小屋の立場で物を考えて見よう。こっそりお忍びで王女が見に来るのは避けようもないし、通常通りに開催出来る。けど、最高級ランクの劇場でもない町の単なる娯楽場に王女が王女でーす!と言いながらやってきたらどうだろう?しかも、人型だったらまだもてなしようもあるだろうけど、しっかり狼型。
王女が立ち寄ったというネームバリューよりも先に、途方に暮れるスタッフさん達しかイメージ出来ない。
「……残念だけど、今回は諦めるよ」
仕方ない……と口では言いつつ、私の頭はそう考えてはいなかった。
「じゃあね、エーベル」
私が宿屋の自室に引きこもろうとすれば、エーベルは食い下がる。
「ヴァーリア様、本日はもう町をまわらないのですか?まだ外は十分明るく夕飯までお時間がございますが」
「いや、久しぶりのベッドだから、休みたい」
私がそう返すと、「では疲労回復の為に暖かいお茶でも……いや、全身マッサージとかは如何でしょうか?」とエーベルは提案する。
前半はキリッとした顔をしているのに、後半は手をワキワキ動かして鼻の下が伸びているのが非常に残念だ。
「ありがとう、大丈夫。エーベルもたまには私に構わず休んで?」
「えっ!?そんな、私はヴァーリア様のお供をさせて頂くのが何よりの至福……っっ」
パタン。
私は遠慮なく扉を閉める。
エーベルを今回、私の部屋の隣にしたのは理由がある。それは、1日目の町で、部屋が離れていたエーベルが私の部屋の窓下を陣取っていた事だ。
今回は、あえての隣。壁に耳を当てたりはしそうだけど、隣なのだから窓下にはいかないだろう。
エーベル、ごめんよ。
私は、身体に意識を集中して人型になった。
まだまだ先を目指してもいい時間なんだけど、連日テント泊という事で軍隊の疲労も溜まっている為、疲労回復の意味も込めてそこで一泊する事になった。
「では本日も、デートにいらっしゃいませんか?」
いやだから、どっから見ても散歩ね?
エーベルがまたあの首輪とリードを持って、満面の笑みで誘ってくる。
しかしまぁ、専任の侍女を連れていない私がこの数日エーベルの世話になりっぱなしだというのは事実だし、エーベルが望んでいるなら叶えてあげるのも悪い事ではないだろう。
……と言い訳をして、好奇心が抑えきれない私はこくりと頷いた。
「エーベル、あれって前の町にもあった、芝居小屋じゃない?」
私が聞けば、エーベルは「おっしゃる通りですよ」と笑い掛けてくれる。
「ああ、ちょうど演目が陛下と皇后陛下のお話ですね」
「……はい?」
「ご存知ないですか?狼王である陛下と、伯爵令嬢だった皇后陛下の恋物語は、有名なラブロマンス物として脚本化されているのですよ」
いやご存知ありません。
そもそも、うちの両親は知っているのだろうか?芝居なんか全く興味なさそうだから、恐らくノータッチだろうけど。
子供としては、純粋に気になる。
見れば全身こそばゆくなりそうだけど、気になる。
「エーベル、今はまだ昼間だし、次からの時間に入れないかなぁ?」
私が聞けば、エーベルは「少々お待ち下さいませ」と言って芝居小屋に向かった。
しばらくすると、エーベルは困り顔で戻ってくる。
「……ヴァーリア様。正体を明かせば恐らく中には入れて貰えるかと思いますが、そのお姿で、正体を明かさず入室するのは難しそうです。如何致しますか?」
「そっかぁ」
うーん。ちょっと芝居小屋の立場で物を考えて見よう。こっそりお忍びで王女が見に来るのは避けようもないし、通常通りに開催出来る。けど、最高級ランクの劇場でもない町の単なる娯楽場に王女が王女でーす!と言いながらやってきたらどうだろう?しかも、人型だったらまだもてなしようもあるだろうけど、しっかり狼型。
王女が立ち寄ったというネームバリューよりも先に、途方に暮れるスタッフさん達しかイメージ出来ない。
「……残念だけど、今回は諦めるよ」
仕方ない……と口では言いつつ、私の頭はそう考えてはいなかった。
「じゃあね、エーベル」
私が宿屋の自室に引きこもろうとすれば、エーベルは食い下がる。
「ヴァーリア様、本日はもう町をまわらないのですか?まだ外は十分明るく夕飯までお時間がございますが」
「いや、久しぶりのベッドだから、休みたい」
私がそう返すと、「では疲労回復の為に暖かいお茶でも……いや、全身マッサージとかは如何でしょうか?」とエーベルは提案する。
前半はキリッとした顔をしているのに、後半は手をワキワキ動かして鼻の下が伸びているのが非常に残念だ。
「ありがとう、大丈夫。エーベルもたまには私に構わず休んで?」
「えっ!?そんな、私はヴァーリア様のお供をさせて頂くのが何よりの至福……っっ」
パタン。
私は遠慮なく扉を閉める。
エーベルを今回、私の部屋の隣にしたのは理由がある。それは、1日目の町で、部屋が離れていたエーベルが私の部屋の窓下を陣取っていた事だ。
今回は、あえての隣。壁に耳を当てたりはしそうだけど、隣なのだから窓下にはいかないだろう。
エーベル、ごめんよ。
私は、身体に意識を集中して人型になった。
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