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15、早朝の騒動。
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日の出は朝の5時頃で、私が目覚める頃には既に狼型になっている。
起床は6時の予定だったが、外の騒がしさが耳に入ってそれよりずっと前に、目が覚めた。人型の時には聞こえなかった音が狼型になった瞬間に飛び込んでくる事はたまにあるが、大抵早番の侍女のおしゃべりだったり夜警員のトランプ対戦の音だったりする。しかし今回はちょっとした揉め事の様だ。
一瞬王城にいるつもりで二度寝をしようとした私は、普段の自分のシーツの匂いとは違った嗅ぎ慣れない香りでパチリ、と眼を開ける。
そうだ、ここは王城ではない。では、この騒がしさは何だろう?騒がしいとは言っても、私の耳には聞こえるものの、人間の耳には聞こえない距離。この音を聞いて起きる者はいないだろう。
ふぁ~、と欠伸をして、伸び伸び~~!うーん、気持ち良い。
我ながら器用に前足で窓の鍵を開け、いざジャンプ!……と。
「ちょ、エーベル!エーベル!退いてぇぇ!!」
こんな時間に誰もいる筈がない、と信じて飛び降りた先に、何故かエーベルが座り込んでいた。
「……ヴァーリア様!?」
明らかに寝惚けた様子で顔を上げたエーベルを必死で踏むまいと両手両足を目一杯広げ、ムササビの様に着地する私。予期していない格好で着地した足から、じ~~~ん!と痺れが広がる。コントかよ!
「……エーベル、大丈夫?頭打ったりしてない?」
私の身体に押し倒され、仰向けに寝転んだエーベルに恐る恐る問いかける。エーベルは、私の胸の下でスハー、スハー、と鼻息荒く空気を吸い込んでいた。
「……ああ、ヴァーリア様の胸毛の香りが……銀の煌めきが、目の前に……!!」
「大丈夫そうだね」
よし、通常運転だ。安心した。でもうら若き乙女に向かって胸毛呼ばわりは止めようね。まぁ、胸の辺りの毛だから正解なんだけど。
「ちょっと外が騒がしいから、見てくるよ」
私がエーベルの上からひょいと退くと、町の出入口に向かう。
「お待ち下さい、ヴァーリア様!!私もご一緒……」
致しますぅぅぅ……と、エーベルの声がどんどん遠くなっていく。そりゃそうだ。ペガススなしで私に着いてこられる訳がない。えへん。
とはいえ、狭い町だ。出入口近くの宿を取っていた事もあり、直ぐ様その現場にたどり着いた。
「……どうかしましたか?」
町の外、猛獣隔離室。私はその前で、隔離室の関係者と思われる人達が集まっているところに、ちょっと距離を置いて話し掛けた。
猛獣隔離室の人間であれば流石に私の事は知っている筈であるが、必要以上に近付き、間違えて攻撃でもされてしまえば、あちらが罰を受けてしまう。
「これは……ヴァーリア殿下、お騒がせして申し訳ございません」
一瞬こちらを見てギョッとした様だが、直ぐに隔離室の責任者らしき人が敬礼したので、周りの人達もそれに合わせて敬礼してくれた。よしよし、もう近付いても大丈夫かな?
「大丈夫です、それより何かありました?」
「それが……その……」
私が近寄ると、固まっていた集団は私の為に左右にばらけて道を開けてくれた。
その先には、壊そうとしてぎりぎり壊されなかったと思わしき鍵がある。中にいるのは、エーベルのペガスス。ペガススは、夜中だか早朝だかの騒ぎに気が昂っているらしく、前肢を何度も蹴ってこちらを威嚇していた。
起床は6時の予定だったが、外の騒がしさが耳に入ってそれよりずっと前に、目が覚めた。人型の時には聞こえなかった音が狼型になった瞬間に飛び込んでくる事はたまにあるが、大抵早番の侍女のおしゃべりだったり夜警員のトランプ対戦の音だったりする。しかし今回はちょっとした揉め事の様だ。
一瞬王城にいるつもりで二度寝をしようとした私は、普段の自分のシーツの匂いとは違った嗅ぎ慣れない香りでパチリ、と眼を開ける。
そうだ、ここは王城ではない。では、この騒がしさは何だろう?騒がしいとは言っても、私の耳には聞こえるものの、人間の耳には聞こえない距離。この音を聞いて起きる者はいないだろう。
ふぁ~、と欠伸をして、伸び伸び~~!うーん、気持ち良い。
我ながら器用に前足で窓の鍵を開け、いざジャンプ!……と。
「ちょ、エーベル!エーベル!退いてぇぇ!!」
こんな時間に誰もいる筈がない、と信じて飛び降りた先に、何故かエーベルが座り込んでいた。
「……ヴァーリア様!?」
明らかに寝惚けた様子で顔を上げたエーベルを必死で踏むまいと両手両足を目一杯広げ、ムササビの様に着地する私。予期していない格好で着地した足から、じ~~~ん!と痺れが広がる。コントかよ!
「……エーベル、大丈夫?頭打ったりしてない?」
私の身体に押し倒され、仰向けに寝転んだエーベルに恐る恐る問いかける。エーベルは、私の胸の下でスハー、スハー、と鼻息荒く空気を吸い込んでいた。
「……ああ、ヴァーリア様の胸毛の香りが……銀の煌めきが、目の前に……!!」
「大丈夫そうだね」
よし、通常運転だ。安心した。でもうら若き乙女に向かって胸毛呼ばわりは止めようね。まぁ、胸の辺りの毛だから正解なんだけど。
「ちょっと外が騒がしいから、見てくるよ」
私がエーベルの上からひょいと退くと、町の出入口に向かう。
「お待ち下さい、ヴァーリア様!!私もご一緒……」
致しますぅぅぅ……と、エーベルの声がどんどん遠くなっていく。そりゃそうだ。ペガススなしで私に着いてこられる訳がない。えへん。
とはいえ、狭い町だ。出入口近くの宿を取っていた事もあり、直ぐ様その現場にたどり着いた。
「……どうかしましたか?」
町の外、猛獣隔離室。私はその前で、隔離室の関係者と思われる人達が集まっているところに、ちょっと距離を置いて話し掛けた。
猛獣隔離室の人間であれば流石に私の事は知っている筈であるが、必要以上に近付き、間違えて攻撃でもされてしまえば、あちらが罰を受けてしまう。
「これは……ヴァーリア殿下、お騒がせして申し訳ございません」
一瞬こちらを見てギョッとした様だが、直ぐに隔離室の責任者らしき人が敬礼したので、周りの人達もそれに合わせて敬礼してくれた。よしよし、もう近付いても大丈夫かな?
「大丈夫です、それより何かありました?」
「それが……その……」
私が近寄ると、固まっていた集団は私の為に左右にばらけて道を開けてくれた。
その先には、壊そうとしてぎりぎり壊されなかったと思わしき鍵がある。中にいるのは、エーベルのペガスス。ペガススは、夜中だか早朝だかの騒ぎに気が昂っているらしく、前肢を何度も蹴ってこちらを威嚇していた。
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