9 / 94
9、一方通行の熱視線。
しおりを挟む
父の代になってから、銀狼の治める国、と他国から畏怖や尊敬、皮肉を込めて呼ばれる様になった我が国はそんなに大きな国ではない。
ただ、5つも森があるお陰か猛獣調教師が他国に比べて非常に優れていた。この世界では戦争にも参入して戦況を覆す程の猛獣達であるが、我が国は猛獣達を巧みに操る事に長けているので今のところ建国した当初の国土を守り続ける程には堅牢な防御力のある国である。
また、我が国は基本的に周りの国とは不可侵条約を結んでおり、こちらからは猛獣達をけしかける事なくそれを忠実に今まで守っているからこそ他国から信頼を得ている。むしろ、猛獣関係でトラブルが起きた時に秀でた猛獣調教師を派遣する等隣国同士の関係はなかなか良好であった。
で、そんなに大きくはない国ではあるが、中央から北の森まで馬を常歩で進ませて二週間程はかかる。
「じゃ!お先に失礼しま~す!!」
集団行動は足並みを揃える事が大事だ。しかし、馬の常歩に着いていくのは暇すぎて辛い。暇すぎというより、森以外の平地を駆けたくて堪らないのだ。風をきって思いきり走りたい!!
旅路を先行して危険がないかを確認しないとね!……と私は軍を率いる隊長に一声掛け、そそくさと一人、全速力で駆けてはじめの休憩地点へ向かう。
うほー!!気持ちィーー!!サイコー!!
見晴らしの良い平地に続くカントリーロードは、地面はちょっと凸凹しているけれども、森よりはずっと足場が良い。
少し走ると、左右の草の背丈が変わった。道を外れて、草っぱらに身体ごと突っ込む。ザザザザサ、と草を薙ぎ倒しながら進めば、驚いた虫達や小鳥が皆跳ねて行った。
たーのしーい!!
「ヴァーリア様、毒蛇もいるので危険ですよ」
え?
私は、ついてこられる筈のないエーベルの声を聞いた気がして、立ち止まってキョロキョロと辺りを見回す。
どこを向いても、草、草、草。
んん?
私が首を傾げた時、何かが太陽の光を遮った。
「エーベル……マジかー」
「絶対ヴァーリア様は先に行かれてしまうと思いまして」
エーベルは、非常に希少価値の高い猛獣ペガススに跨がり、上空から私を見下ろしていたのである。
***
「ふ、二人っきりですね、ヴァーリア様……」
「そうだな。エーベルは入らないのか?気持ち良いぞ」
私が休憩地点の小川でザブザブと水浴びしていると、エーベルは何故かもじもじしながらじーっとこちらを見ている。
ペガススは調教済みの様で、大人しく川の水を飲んだり、周りの草をモグモグとしていた。肉食ではないが、ペガススは縄張り意識や仲間意識が強い為、ひとたび敵と認定されるとその頭の一角を使って威嚇や攻撃を仕掛けてくる。よって、人体に対して危険な大型動物という立ち位置で、猛獣指定を受けていた。
うーむ、私も一度乗ってみたい。空飛んで欲しい。羽とかもう一度広げてくれないだろうか。水浴びしながらチラチラと熱視線を送ってみるが、ペガススは知らん顔だ。どうやら狼とは関わり合いになりたくないらしい。まぁ、賢い選択だ。
ペガススに熱視線を送る私に、エーベルが熱視線を送ってくる。
ええい、鬱陶しいわ!!
自分の事は棚にあげて、エーベルに聞いた。
「どうしたの?さっきから。何か言いたい事あるなら言ってよ」
「いやぁ……神々しいお姿だと、思っていただけです」
「ふーん」
水浴びに満足して、川縁に移動し、全身をブルブルと振るわせて水気を取る。こんな暑い日に水浴びしないなんて、勿体ない。
私は悪戯心で、エーベルを驚かせようと彼を呼ぶ。
「エーベル、きてきてーこっち、小魚いるよ」
嘘は言ってない。足元に、食糧にすらならない三センチ程の小魚がうろちょろしているのは事実だ。良かったな、お前達。私が鳥だったら、食われてるぞ。
「はい、ヴァーリア様!今直ぐ参りますっ」
エーベルは、靴すら脱がずにばっしゃばっしゃと水を蹴散らし真っ直ぐこちらに向かって走ってきた。
ただ、5つも森があるお陰か猛獣調教師が他国に比べて非常に優れていた。この世界では戦争にも参入して戦況を覆す程の猛獣達であるが、我が国は猛獣達を巧みに操る事に長けているので今のところ建国した当初の国土を守り続ける程には堅牢な防御力のある国である。
また、我が国は基本的に周りの国とは不可侵条約を結んでおり、こちらからは猛獣達をけしかける事なくそれを忠実に今まで守っているからこそ他国から信頼を得ている。むしろ、猛獣関係でトラブルが起きた時に秀でた猛獣調教師を派遣する等隣国同士の関係はなかなか良好であった。
で、そんなに大きくはない国ではあるが、中央から北の森まで馬を常歩で進ませて二週間程はかかる。
「じゃ!お先に失礼しま~す!!」
集団行動は足並みを揃える事が大事だ。しかし、馬の常歩に着いていくのは暇すぎて辛い。暇すぎというより、森以外の平地を駆けたくて堪らないのだ。風をきって思いきり走りたい!!
旅路を先行して危険がないかを確認しないとね!……と私は軍を率いる隊長に一声掛け、そそくさと一人、全速力で駆けてはじめの休憩地点へ向かう。
うほー!!気持ちィーー!!サイコー!!
見晴らしの良い平地に続くカントリーロードは、地面はちょっと凸凹しているけれども、森よりはずっと足場が良い。
少し走ると、左右の草の背丈が変わった。道を外れて、草っぱらに身体ごと突っ込む。ザザザザサ、と草を薙ぎ倒しながら進めば、驚いた虫達や小鳥が皆跳ねて行った。
たーのしーい!!
「ヴァーリア様、毒蛇もいるので危険ですよ」
え?
私は、ついてこられる筈のないエーベルの声を聞いた気がして、立ち止まってキョロキョロと辺りを見回す。
どこを向いても、草、草、草。
んん?
私が首を傾げた時、何かが太陽の光を遮った。
「エーベル……マジかー」
「絶対ヴァーリア様は先に行かれてしまうと思いまして」
エーベルは、非常に希少価値の高い猛獣ペガススに跨がり、上空から私を見下ろしていたのである。
***
「ふ、二人っきりですね、ヴァーリア様……」
「そうだな。エーベルは入らないのか?気持ち良いぞ」
私が休憩地点の小川でザブザブと水浴びしていると、エーベルは何故かもじもじしながらじーっとこちらを見ている。
ペガススは調教済みの様で、大人しく川の水を飲んだり、周りの草をモグモグとしていた。肉食ではないが、ペガススは縄張り意識や仲間意識が強い為、ひとたび敵と認定されるとその頭の一角を使って威嚇や攻撃を仕掛けてくる。よって、人体に対して危険な大型動物という立ち位置で、猛獣指定を受けていた。
うーむ、私も一度乗ってみたい。空飛んで欲しい。羽とかもう一度広げてくれないだろうか。水浴びしながらチラチラと熱視線を送ってみるが、ペガススは知らん顔だ。どうやら狼とは関わり合いになりたくないらしい。まぁ、賢い選択だ。
ペガススに熱視線を送る私に、エーベルが熱視線を送ってくる。
ええい、鬱陶しいわ!!
自分の事は棚にあげて、エーベルに聞いた。
「どうしたの?さっきから。何か言いたい事あるなら言ってよ」
「いやぁ……神々しいお姿だと、思っていただけです」
「ふーん」
水浴びに満足して、川縁に移動し、全身をブルブルと振るわせて水気を取る。こんな暑い日に水浴びしないなんて、勿体ない。
私は悪戯心で、エーベルを驚かせようと彼を呼ぶ。
「エーベル、きてきてーこっち、小魚いるよ」
嘘は言ってない。足元に、食糧にすらならない三センチ程の小魚がうろちょろしているのは事実だ。良かったな、お前達。私が鳥だったら、食われてるぞ。
「はい、ヴァーリア様!今直ぐ参りますっ」
エーベルは、靴すら脱がずにばっしゃばっしゃと水を蹴散らし真っ直ぐこちらに向かって走ってきた。
11
お気に入りに追加
761
あなたにおすすめの小説
ドS彼氏と上手にお付き合いする方法
イセヤ レキ
恋愛
釣った魚はドS彼氏でした──。
女子高生の梶谷蘭(かじやらん)は、兄の結婚式で出会った兄の親友、凱逘(かいじ)に交際を申し込まれるが、その場ではお断りをする。
その凱逘との出会いから付き合いはじめるまで、付き合いはじめてから明らかになった、彼の性癖に翻弄される蘭のお話。
全6話完結済み。
ギャグ /ほのぼの /女主人公 /現代/ 日常/ スライム/ハッピーエンド/ 溺愛 /ヤンデレ /ドS /緊縛 /ローター/ ノーパン /目隠し/ 猿ぐつわ /バイブ
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる