投了するまで、後少し

イセヤ レキ

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68.墜ちた天使(side修平)【*】

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「保先輩!」
「っ、修平……っっ!!」
帰宅時間から逆算して保先輩の乗って来る電車を改札前で待っていると、まともに前を見ずに保先輩が駆けて来るのが見えた。
手を上げても気付かれないので、通り過ぎようとする保先輩の腕を掴んで声を掛ける。

早く会いたくて改札まで来てしまったのだが、何かを我慢しているような保先輩の顔を見て、改札ではなくバイト先で待っていれば良かった、と後悔した。

振り返った保先輩は、泣きそうで、でも俺を見て安堵したようで、そしてここが改札前だということに気付いて直ぐに笑顔を取り繕った。


「修平、わざわざ迎えに来てくれたんだ。ありがと」
「……保先輩、何かありました?」
「んー、後で話す。早く帰ろ!」
保先輩が、俺に引っ付いてきてドキっとする。
いつも距離感を詰めるのは俺の方で、それすら棋譜を見たり、色々工作した結果で。

保先輩の距離感の変化に、平静を装いながら心の中でほくそ笑む。
今日だって、どう考えても俺に下心があるのはバレバレだろうに、何の抵抗も示さず、好意的な返事がきたのだ。

もう絶対に墜ちてるだろ、これ。
ただ、本音を言えば言葉も欲しい。
ああ、最初は身体だけでも良い、次にやっぱり心も欲しい、そして最後は言葉でも示せ、なんて。

自分を改めて強欲な奴だと思いながら、保先輩の家への家路を急いだ。


「ただいまー」
「お邪魔します」
「修平はご飯食べて来たんだよね?」
「はい、部活終わりに皆で寄ってきました」
保先輩も、バイト先の居酒屋で賄いが出ると聞いたので、今日の夕飯はバラバラだ。

「じゃあ、その……」
「はい」
「……シて、欲しい」
保先輩が、俺の無骨な手を取り、その掌にちゅ、とキスをした。

「……っ」
それより先に、保先輩に何があったのか聞いた方が良い、とはわかっているけれども、俺の息子は馬鹿正直で。

一気に硬度を増し、ジーパンの生地を押し上げる。
地味にすげー痛い。

「……保先輩が来てくれないから、俺が押し掛けたんですよ?我慢出来なくて」
こくん、と先輩が頷きながら、上着を脱ぎ、そのままトレーナーも脱いだ。

目の前に現れた白い肌に、ドキリとする。

「なのに、俺の部屋に来なかった保先輩が、俺を誘うんですか?」
ここで頷かれてしまったら、手加減なんて出来ずに滅茶苦茶にしてしまうかもしれない、と思いながら尋ねる。

なのに。
保先輩は、躊躇なく頷いてしまって。

ズガン、と頭に何かが落ちた気がする。
いや、恥じらいながらもこうしておねだりしてくれる保先輩に、俺こそがまた墜とされた音なのかもしれない。

でも確かに、保先輩こそが今、俺の手の中に墜ちたのだ。

……絶対、離さない。


「嬉しいです。今日もたっぷり、気持ち良いことしましょう」
俺はその細腰に片手を回して勃起した下半身を擦り付けながら、保先輩と貪り食うような口吻を交わした。
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