投了するまで、後少し

イセヤ レキ

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86.急な連絡と帰宅(side修平)

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俺がその連絡を受けたのは、保先輩が実家に帰省した翌日の、午前中のことだった。

“今から帰る。修平に会って、顔見て話したい”

そんな短い文面に、心がざわついた。

話せなかったのだろうか?
話しても、拒否されたのだろうか?
話して大丈夫だったなら、気まずくもならないだろうし、年始までいる筈だ。
いや、もしかして、母親といい感じだという男性に気を利かせて早く帰宅することにした、とか?
しかし、それなら保先輩を母親が引き留めるんじゃないか?

……保先輩は、一人で辛い気持ちを抱えてないだろうか。泣いてないだろうか。


気になってしまえば、もうどうしようもなくて。
「ごめん、今日はやっぱ帰るわ。これ、俺の分の金だけ払っておいて」
「え?」
「おい、修平!」
昼からホテルの会場で、高校の同窓会の予定だったが、急遽キャンセルした。

元々、保先輩がいないから、出席に丸を付けたのだ。
俺が幹事をしている訳じゃないし、いてもいなくても大差ない。
幹事をした奴にはまた別口で謝罪しておこう。

──それよりも、保先輩のことだ。

“迎えに行きます。何時着ですか?”
“十三時三十六分みたい”
“了解です”

新幹線の改札の外の待ち合わせ場所で、俺は缶コーヒーを飲みながら保先輩を待った。
気持ちがソワソワして、落ち着かない。

もし。
もし、新幹線から降りてきた保先輩が、余所余所しかったら。

嫌な考えばかりがグルグル回って、頭を占領していく。
大丈夫、大丈夫だ。
保先輩だって、何度も掛け合うって、約束してくれた。

でも、万が一、保先輩が離れていったら。
俺は、どうするんだろうか?


「──修平?」
その時、保先輩の声が聞こえた。バッと振り返ると、想像していたような暗い顔ではなくて、むしろ明るくて晴れやかな表情だった。
「保先輩、急に帰宅して、どうしたんですか!?何かありましたかっ!?」
「ちょ、修平、落ち着いて」

気付けば、俺は保先輩に今にも襲い掛かるかのごとく詰め寄っていて、周りの人達がチラチラとこちらに視線を投げているのがわかった。

「……すみません」
「ううん、急だったから驚いたよね。修平の今日の予定は大丈夫だったの?」
「はい、大丈夫です」
即答する。
今の俺に、保先輩ほど大事な用はない。 

「えと、少しゆっくり二人で話せるところに行きたいんだけど」
「そうですね。保先輩の家か……」
俺は、保先輩の耳に口を寄せて囁いた。
「ホテル、行きます?」
「……っ」
保先輩は、うっすらと頬を染めて……けれどもしっかりと、頷いてくれた。
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