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14 ひた隠しの情欲 *

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「――キスをしても?」
ウォリスに請われ、はい、と言う代わりに、こくりと頷く。

ウォリスの大きく分厚い掌がシアナの頬にそっと添えられ、精悍な顔がゆっくりと近づく。
シアナが瞳を閉じれば、そのふっくらとした唇に、ウォリスの唇が重なった。


「きょ、今日するのですか?」
レストランから場所を移し、シアナはウォリスに手を引かれるまま、高級宿に足を踏み入れた。
「嫌だったら、今すぐこの手を振り払ってください。医療院までお送り致します。嫌でなければ、シアナのご両親に、今日はシアナは帰らない旨を知らせます」
ウォリスは案内された部屋の前で足を止め、くるりと振り向いて、繋いでいた手を持ち上げる。
「い、嫌じゃない、です」

シアナが小さな声でそう返事をしてから、きゅ、とその繋いだ手を握り返すと、いつになく強い力で引っ張られて、部屋の中へと引き込まれる。
「ウォリ……んんっ」

言葉は紡げなかった。
ウォリスから、レストランでしたキスとは違う、激しい口付けを受け続けたシアナは、空気を吸い込むための息継ぎで精一杯だった。

「あっ……、ん、ふぅん」
「場所も選ばずシアナに口付けてしまい、すみません……限界でした」
ようやく口を離したウォリスがそうシアナに懺悔したが、頬を上気させ、とろんとした瞳と艶めいた唇でウォリスを見上げるシアナは、無自覚にウォリスを煽っていた。

「いいえ……その、嬉しかったです」
きちんと自分に欲情して貰えることを知ったシアナは、少しホッとする。
「シアナ、どうぞこちらへ」

ウォリスに再び手を引かれて、大きな部屋を横切って窓際まで移動すると、そこからは辺境伯領が一望できて、街と国境沿いの城壁にはいくつもの灯りがゆらゆらと揺らめき、とても幻想的で美しかった。
「まぁ……こんな景色は、初めて見ました」
「そうですか、喜んでいただけたようで良かったです」
じっと夜景に魅入られているシアナを、ウォリスは後ろから抱き締める。
「私が世界で二番目に美しいと感じる光景です」
一番目はなんだろう、と思ったシアナの顎に手を添え、上を向かせた唇にウォリスはキスを落とす。

「十年蓄積された欲ですから、大変だと思いますが……誘ったのはシアナですから、頑張って受け止めてください」
にこ、と笑うウォリスの瞳の奥に燃え盛る炎を見た気がして、シアナは自分の選択に一抹の不安を覚えた。
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