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9 夢見た日

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――それから更に半年後。
シアナの願っていた時が、ようやく訪れようとしていた。
シアナの治癒力があと僅かであると判定されたのである。

そして護衛騎士の任命日の一週間ほど前、シアナは四年間自分の護衛騎士であり続けてくれたウォリスに頭を下げた。

「ウォリス、今迄本当にありがとうございました。私はもう護衛騎士を指名できる立場ではなくなるので聖女による護衛騎士の任命日にはおりませんが、お元気で」
「四年の間、シアナ様と時間を共にすることが出来て幸せでした」
ウォリスも丁寧に頭を下げる。

「ところでシアナ様、治癒力が枯渇したら、どうなさるおつもりですか?」
「勿論、医療院に戻ります」

シアナの脳裏に、自分を育ててくれた二人の医師が浮かんだ。
二人はこの四年の間に、辺境伯から直に頼まれる形で結局辺境伯領に再び医療院の場所を戻したと聞いている。

シアナの帰る場所は育ての親である二人がいる場所でしかなく、シアナの容姿がどんなにとある侯爵家の行方を晦ました令嬢に似ていようとも、訳あってその令嬢の亡骸が見つかり、娘がどこかに生み落した子供をその侯爵家が探していようとも、その門を叩く気にはなれなかった。

シアナは庶民の自分を気に入っており、特に神殿に所属してからは貴族に対して苦手意識の方が強くなったのだ。
シアナに流れる血が仮に貴族のものであったとしても、シアナは自分が庶民であること、とりわけ医療院の二人の子供として育てられたことをアイデンティティとして重視していた。

「今のシアナ様でしたら、私が神殿から落籍させることも可能ですが、もし差し支えなければ神官に話を通してもよろしいでしょうか?」
ウォリスの続けた言葉に、シアナは目を丸くする。

「それは、どういう意味ですか?」
「シアナ様の治癒力が枯れるまでのお金を私が支払い、今すぐ神殿から解放させるという意味です」
「ウォリスが私のお金を立て替えてくれるのですか?護衛騎士の仕事はどうするのです?私は貴族ではありませんから、騎士団に斡旋できませんよ」
「問題ありません。そもそも私は、シアナ様の護衛をするために護衛騎士を希望したのですから」

聞けばウォリスは辺境伯領の兵を束ねる騎士団長の、ひとり息子であるという。
過去にシアナから負傷した部下や自身の手当をして貰った経緯があり、辺境伯領の騎士団を抜けて聖女になってしまったシアナを追い掛け、護衛騎士候補生に名乗りを上げたそうだ。

ウォリスの他にも、辺境伯からシアナを守るように言われた騎士たちが何人か候補生に紛れ込んだらしいが、シアナが選んだのはウォリスだったという。
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