5 / 6
5
しおりを挟む
アルリカは驚きに目を見張って顔を上げる。
ああ、まだ私の心配をする程の気持ちは残っているのか。
「ブラッド様っ!!手に血が─」
「大丈夫だ」
「駄目です、手当てが先ですわ」
メイドがテキパキと手を処置している間中、駆け寄ってきたアルリカを抱き締めるのを我慢する。
そして、処置が終わったことを確認したアルリカが自分の席に戻ろうとするのを、業と怪我をした方の手で腕を掴んで妨害した。
優しいアルリカは、私の怪我をした手を振り払うことは、出来ない。
「──私は、極力アルリカの言うことは何でも叶えてきたが、離縁は話が別だ。何故そんなことを言い出したのか、聞いて良いか?」
相手の男を殺したら、アルリカは泣くだろうか?怒るだろうか?
……私から逃れることを諦めてくれないだろうか?
じっとアルリカを見つめながら、そう問い掛けた。
アルリカは、少し緊張したように頬を染めて、「……人払いを」と言った。
やはり、人には聞かせられない理由なのか。
愛人がいるのか。
「ああ」
私は意気消沈しながら使用人全員を下げ、逃げられないようにアルリカを膝の上に乗せた。
アルリカは、意を決したように深呼吸して、話し出した。
「……ブラッド様はお気付きになられていらっしゃらないでしょうが、私には願いを口にすると、それが叶ってしまうという能力がございます」
「そうなのか。……それで?」
それが愛人とどう関係してくるのだろうと、先を促す。
「私が悪いのです。私がブラッド様にあの日、間違えて、結婚をして下さいと願ってしまったから……っっ」
アルリカの、声が震える。
泣かないで欲しいのに。
私と結婚したことを後悔するアルリカを見たくなくて、冷たい声が出た。
「……それが何故、離縁に繋がるんだ?」
「ですから……っ、ブラッド様の意志ではなく、私がブラッド様に呪詛を掛けてしまったが為に、私と結婚することになってしまったのです……」
……?
何を言っているのか、理解出来なかった。
話が飛躍しすぎている。
とにかくわかるのはアルリカが勘違いをしていることだけだ。
あんなにも恋焦がれた女性と結婚した私なのに?
「つまり、アルリカは……私が、自分の意志で君に求婚したのではないと、考えているのか?」
「考えているのではございません。事実なのです」
いや、どう考えても自分の欲求のみで動いたが。
「……では、私が嫌いになったとか、飽きたとかではなく?」
「まさか!ブラッド様は、私がこの人生において、ずっと愛するただ一人のお方ですわ。……二十年も奪ってしまいましたが、愛するからこそ、今こそ自由になって頂きたいのです」
アルリカに愛していると二回も言われ、私は地獄から一気に天国へと引き上げられた。
まだ心臓は動いているが。
ひとまず話は、
「……わかった」
「……っ」
アルリカの瞳が潤み、涙がポロリと溢れた。
ああ、まだ私の心配をする程の気持ちは残っているのか。
「ブラッド様っ!!手に血が─」
「大丈夫だ」
「駄目です、手当てが先ですわ」
メイドがテキパキと手を処置している間中、駆け寄ってきたアルリカを抱き締めるのを我慢する。
そして、処置が終わったことを確認したアルリカが自分の席に戻ろうとするのを、業と怪我をした方の手で腕を掴んで妨害した。
優しいアルリカは、私の怪我をした手を振り払うことは、出来ない。
「──私は、極力アルリカの言うことは何でも叶えてきたが、離縁は話が別だ。何故そんなことを言い出したのか、聞いて良いか?」
相手の男を殺したら、アルリカは泣くだろうか?怒るだろうか?
……私から逃れることを諦めてくれないだろうか?
じっとアルリカを見つめながら、そう問い掛けた。
アルリカは、少し緊張したように頬を染めて、「……人払いを」と言った。
やはり、人には聞かせられない理由なのか。
愛人がいるのか。
「ああ」
私は意気消沈しながら使用人全員を下げ、逃げられないようにアルリカを膝の上に乗せた。
アルリカは、意を決したように深呼吸して、話し出した。
「……ブラッド様はお気付きになられていらっしゃらないでしょうが、私には願いを口にすると、それが叶ってしまうという能力がございます」
「そうなのか。……それで?」
それが愛人とどう関係してくるのだろうと、先を促す。
「私が悪いのです。私がブラッド様にあの日、間違えて、結婚をして下さいと願ってしまったから……っっ」
アルリカの、声が震える。
泣かないで欲しいのに。
私と結婚したことを後悔するアルリカを見たくなくて、冷たい声が出た。
「……それが何故、離縁に繋がるんだ?」
「ですから……っ、ブラッド様の意志ではなく、私がブラッド様に呪詛を掛けてしまったが為に、私と結婚することになってしまったのです……」
……?
何を言っているのか、理解出来なかった。
話が飛躍しすぎている。
とにかくわかるのはアルリカが勘違いをしていることだけだ。
あんなにも恋焦がれた女性と結婚した私なのに?
「つまり、アルリカは……私が、自分の意志で君に求婚したのではないと、考えているのか?」
「考えているのではございません。事実なのです」
いや、どう考えても自分の欲求のみで動いたが。
「……では、私が嫌いになったとか、飽きたとかではなく?」
「まさか!ブラッド様は、私がこの人生において、ずっと愛するただ一人のお方ですわ。……二十年も奪ってしまいましたが、愛するからこそ、今こそ自由になって頂きたいのです」
アルリカに愛していると二回も言われ、私は地獄から一気に天国へと引き上げられた。
まだ心臓は動いているが。
ひとまず話は、
「……わかった」
「……っ」
アルリカの瞳が潤み、涙がポロリと溢れた。
92
お気に入りに追加
488
あなたにおすすめの小説

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。


【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)


あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる