俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ

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アルリカは驚きに目を見張って顔を上げる。

ああ、まだ私の心配をする程の気持ちは残っているのか。

「ブラッド様っ!!手に血が─」
「大丈夫だ」
「駄目です、手当てが先ですわ」

メイドがテキパキと手を処置している間中、駆け寄ってきたアルリカを抱き締めるのを我慢する。
そして、処置が終わったことを確認したアルリカが自分の席に戻ろうとするのを、業と怪我をした方の手で腕を掴んで妨害した。
優しいアルリカは、私の怪我をした手を振り払うことは、出来ない。

「──私は、極力アルリカの言うことは何でも叶えてきたが、離縁は話が別だ。何故そんなことを言い出したのか、聞いて良いか?」

相手の男を殺したら、アルリカは泣くだろうか?怒るだろうか?
……私から逃れることを諦めてくれないだろうか?

じっとアルリカを見つめながら、そう問い掛けた。
アルリカは、少し緊張したように頬を染めて、「……人払いを」と言った。

やはり、人には聞かせられない理由なのか。
愛人がいるのか。
「ああ」
私は意気消沈しながら使用人全員を下げ、逃げられないようにアルリカを膝の上に乗せた。

アルリカは、意を決したように深呼吸して、話し出した。
「……ブラッド様はお気付きになられていらっしゃらないでしょうが、私には願いを口にすると、それが叶ってしまうという能力がございます」
「そうなのか。……それで?」

それが愛人とどう関係してくるのだろうと、先を促す。

「私が悪いのです。私がブラッド様にあの日、間違えて、結婚をして下さいと願ってしまったから……っっ」
アルリカの、声が震える。
泣かないで欲しいのに。
私と結婚したことを後悔するアルリカを見たくなくて、冷たい声が出た。

「……それが何故、離縁に繋がるんだ?」
「ですから……っ、ブラッド様の意志ではなく、私がブラッド様に呪詛を掛けてしまったが為に、私と結婚することになってしまったのです……」

……?
何を言っているのか、理解出来なかった。
話が飛躍しすぎている。
とにかくわかるのはアルリカが勘違いをしていることだけだ。

あんなにも恋焦がれた女性と結婚した私なのに?

「つまり、アルリカは……私が、自分の意志で君に求婚したのではないと、考えているのか?」
「考えているのではございません。事実なのです」

いや、どう考えても自分の欲求のみで動いたが。

「……では、私が嫌いになったとか、飽きたとかではなく?」
「まさか!ブラッド様は、私がこの人生において、ずっと愛するただ一人のお方ですわ。……二十年も奪ってしまいましたが、愛するからこそ、今こそ自由になって頂きたいのです」

アルリカに愛していると二回も言われ、私は地獄から一気に天国へと引き上げられた。
まだ心臓は動いているが。

ひとまず話は、
「……わかった」
「……っ」
アルリカの瞳が潤み、涙がポロリと溢れた。
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