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「ブラッド様」
それにしても、やはり心地好い──
「……アルリカ、様?」
私が、目の前に現れた妖精に呆然としながら、その名前を呟いた。
やはり、彼女は妖精だったのだ。
でなければ、私が人間の気配に気付かない訳がない。
「──何故こんなところに?具合でも悪いのですか?」
何故彼女は私の名前を知っているのだろう?こんな都合の良いことがあって良いのだろうか?
そう思いながらも、頬を紅潮させた様子が気になり、中へエスコートしようと彼女に近付く。
ふんわりと、甘い香りが鼻腔を擽った。
どうやら、夢ではないらしい。
「いえ、あの、ブラッド様……」
「はい」
変な汗はかいていないだろうか、自分は臭くないだろうか、着衣は乱れていないだろうか──
顔だけはポーカーフェイスを繕いながら、内心挙動不審になる。
「わ、私と……」
まさか、ダンスのお誘いだろうか!?
ああ、貴族のレッスンで一番に削除した過去の自分を殴り倒したい。
「はい」
「私と、結婚して下さいませ」
「……」
私は、ポーカーフェイス顔をそのままに、台風のような感情が胸の内を暴れまわる中、こくりと頷いた。
──人生、何があるかわからないものだ。
***
あれよあれよと、私達の結婚は進められた。
何故、彼女は私を選んだのだろう?
何故、大事な一人娘が元平民に嫁ぐのを公爵は許すのだろう?
何もわからないまま、時は着実に過ぎてゆく。
「まさか、お前がアルリカ嬢と結婚に漕ぎ着けるとはなぁ」
「俺が一番驚いている」
「お前、そろそろその“俺”って言うの、直した方が良いんじゃね?アルリカ嬢に嫌がられるぞ」
「そうか」
その日から、私の一人称は「俺」から「私」に変わった。
「お前、笑うと凄味増すからさー、にっこりスマイルが出来ないならせめて笑うなよ」
「そうか。ところで、アルリカ嬢は何故私を選んだと思う?」
「お前、それは嫌味か?んー、顔?後は……領土とか?」
「成る程」
「お前、少しは怒れよ……」
戦友と話して、やっとアルリカ嬢が、そして公爵が私を選んだ理由がわかった。
国王から褒章として頂いた領土。
それを、恐らく公爵が欲しがっているに違いない。
自分にはその価値がわからないが、例えば肥沃だったり、開発次第でこれから発展が見込めたり、はたまた掘れば何かしらの宝石でも出てくるのかもしれない。
私は……何と、運が良いことか。
たまたま手に入れた領土のお陰で彼女を手に入れることが出来るなんて。
公爵に領土を譲渡するまで、もしくは自分が暗殺されるまでの間かもしれないが、それでもその間だけは、私が彼女の……アルリカの、夫なのだ。
ようやく私は、彼女との結婚に現実味を感じたのであった。
──とは言うものの、妖精との暮らしに慣れる訳もない。
私は戦友であり部下でもある者達と慣れた王城の廊下を歩きながら、何度も聞かれる新婚生活の話を適当に流していた。
「帰ったら、あのアルリカ嬢が家にいる訳ですよね!?いやー、天国ぅ」
「まぁな」
「でも、俺なら家でも気が休まらねーなぁ」
「確かに。彼女がいると、未だに緊張する」
「っか~、3年後はアルリカ嬢の前で鼻ほじってんじゃないすか?」
「どうだろうな」
結婚も初夜も済ませ、毎日顔を合わせて何度この胸に抱いても、一向に彼女を前にした時の胸の昂りは収まることはなかった。
……どころか、彼女を手にしてしまった今となっては、本当に嫌われたくなくて、余計緊張する始末だ。
「ああ、俺はお高く止まった貴族の女よりも、何でも気楽に話せるサバサバした性格の騎士団にいるような女達の方が良いっすね」
「そういう考え方もあるな」
確かに、家は寛ぐところであって、緊張する場所ではない。そういう意味で言えば、そいつの言うことも一理あるなと頷く。
それにしても、やはり心地好い──
「……アルリカ、様?」
私が、目の前に現れた妖精に呆然としながら、その名前を呟いた。
やはり、彼女は妖精だったのだ。
でなければ、私が人間の気配に気付かない訳がない。
「──何故こんなところに?具合でも悪いのですか?」
何故彼女は私の名前を知っているのだろう?こんな都合の良いことがあって良いのだろうか?
そう思いながらも、頬を紅潮させた様子が気になり、中へエスコートしようと彼女に近付く。
ふんわりと、甘い香りが鼻腔を擽った。
どうやら、夢ではないらしい。
「いえ、あの、ブラッド様……」
「はい」
変な汗はかいていないだろうか、自分は臭くないだろうか、着衣は乱れていないだろうか──
顔だけはポーカーフェイスを繕いながら、内心挙動不審になる。
「わ、私と……」
まさか、ダンスのお誘いだろうか!?
ああ、貴族のレッスンで一番に削除した過去の自分を殴り倒したい。
「はい」
「私と、結婚して下さいませ」
「……」
私は、ポーカーフェイス顔をそのままに、台風のような感情が胸の内を暴れまわる中、こくりと頷いた。
──人生、何があるかわからないものだ。
***
あれよあれよと、私達の結婚は進められた。
何故、彼女は私を選んだのだろう?
何故、大事な一人娘が元平民に嫁ぐのを公爵は許すのだろう?
何もわからないまま、時は着実に過ぎてゆく。
「まさか、お前がアルリカ嬢と結婚に漕ぎ着けるとはなぁ」
「俺が一番驚いている」
「お前、そろそろその“俺”って言うの、直した方が良いんじゃね?アルリカ嬢に嫌がられるぞ」
「そうか」
その日から、私の一人称は「俺」から「私」に変わった。
「お前、笑うと凄味増すからさー、にっこりスマイルが出来ないならせめて笑うなよ」
「そうか。ところで、アルリカ嬢は何故私を選んだと思う?」
「お前、それは嫌味か?んー、顔?後は……領土とか?」
「成る程」
「お前、少しは怒れよ……」
戦友と話して、やっとアルリカ嬢が、そして公爵が私を選んだ理由がわかった。
国王から褒章として頂いた領土。
それを、恐らく公爵が欲しがっているに違いない。
自分にはその価値がわからないが、例えば肥沃だったり、開発次第でこれから発展が見込めたり、はたまた掘れば何かしらの宝石でも出てくるのかもしれない。
私は……何と、運が良いことか。
たまたま手に入れた領土のお陰で彼女を手に入れることが出来るなんて。
公爵に領土を譲渡するまで、もしくは自分が暗殺されるまでの間かもしれないが、それでもその間だけは、私が彼女の……アルリカの、夫なのだ。
ようやく私は、彼女との結婚に現実味を感じたのであった。
──とは言うものの、妖精との暮らしに慣れる訳もない。
私は戦友であり部下でもある者達と慣れた王城の廊下を歩きながら、何度も聞かれる新婚生活の話を適当に流していた。
「帰ったら、あのアルリカ嬢が家にいる訳ですよね!?いやー、天国ぅ」
「まぁな」
「でも、俺なら家でも気が休まらねーなぁ」
「確かに。彼女がいると、未だに緊張する」
「っか~、3年後はアルリカ嬢の前で鼻ほじってんじゃないすか?」
「どうだろうな」
結婚も初夜も済ませ、毎日顔を合わせて何度この胸に抱いても、一向に彼女を前にした時の胸の昂りは収まることはなかった。
……どころか、彼女を手にしてしまった今となっては、本当に嫌われたくなくて、余計緊張する始末だ。
「ああ、俺はお高く止まった貴族の女よりも、何でも気楽に話せるサバサバした性格の騎士団にいるような女達の方が良いっすね」
「そういう考え方もあるな」
確かに、家は寛ぐところであって、緊張する場所ではない。そういう意味で言えば、そいつの言うことも一理あるなと頷く。
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