2 / 20
2、甘美な誘い
しおりを挟む
「お姉様」
姉妹だけが使う特別な個室部屋に入ってドアを閉めるなり、クローチェはその美しい顔に湛えていた微笑をすぅ、と潜めてたった一人の姉を呼ぶ。
「な、何でしょう?」
マリーエは、少し上擦った声で返事をした。
「今日、知らない男に声を掛けられていませんでしたか?」
「……え?」
クローチェに言われて、マリーエは今日あったことを思い出す。
(知らない男……知らない男……?)
けれども、マリーエが思い出す限り、男に話し掛けられた記憶はない。
「拾ってあげていたでしょう?」
そう重ねて言われて、マリーエはやっと思い出した。
道端にいた男の子の落とした果物を拾って、渡してあげたのだ。
確かに「ありがとうございます」とは言われたけれども、そもそもその男の子が果物を落とした原因は、クローチェに見惚れたからである。
御礼を言いながらも、男の子の視線はクローチェに向けられていた。
「あれは、声を掛けられた範囲に入りませんし……何より、あの子は男というより男の子だと思いますよ?」
クローチェ以外の他人とマリーエが話すことを、妹が極端に嫌がることを知っているので、マリーエはあえてその事実を告げたのだが。
「あの歳になれば、既に精通もありますし性行為についての知識もあります。いえ、むしろ性行為に興味関心しかない年頃です」
クローチェは淡々と答えて、最後にこう付け足した。
「そんな調子ですと、お姉様なんて簡単に騙され犯されてしまいます。そんなこともわからないなんて……今日は躾なおし、ですね」
そしてニッコリと笑う。
その途端にマリーエは顔を真っ赤にさせて、一歩後退った。
そんなマリーエの様子に気付かない訳もなく、
「お姉様、先程のご様子ですと……私に、他のことで声を掛けられるのだと期待したのではございませんか?」
と言いながらマリーエが後退った分以上に、詰め寄った。
「そ、そんなこと──」
「ない、とおっしゃるのなら、さっさと修道服を脱いで下さい」
「……っ」
そう言われたマリーエは、今度は俯く。
修道女は本来、清貧・貞潔・従順の誓願の下に生活するものであるから、本当に神がいるのであれば、いつかは二人に天罰が下るのであろう。そうとわかっているけれども、マリーエがクローチェに抵抗を見せたのは最初だけだった。
クローチェを拒否するには、マリーエは彼女を愛し過ぎていたから。
「……何を躊躇されているのです?早く寝間着に着替えましょう?」
いつの間にそんな傍に来たのか、クローチェはマリーエの耳元で囁く。
それは甘美な誘いであることを、マリーエは知っていた。
クローチェは修道服を脱ぎ、畳んで自分のベッドの脇の籠にそっと入れた。麻布で出来た寝間着には目もくれず、裸のままベッドに座って姉を誘う。
「お姉様、こちらに」
「……クローチェ……」
マリーエは、上擦った声で名前を呼びながらクローチェに一歩ずつ、近付いた。
姉妹だけが使う特別な個室部屋に入ってドアを閉めるなり、クローチェはその美しい顔に湛えていた微笑をすぅ、と潜めてたった一人の姉を呼ぶ。
「な、何でしょう?」
マリーエは、少し上擦った声で返事をした。
「今日、知らない男に声を掛けられていませんでしたか?」
「……え?」
クローチェに言われて、マリーエは今日あったことを思い出す。
(知らない男……知らない男……?)
けれども、マリーエが思い出す限り、男に話し掛けられた記憶はない。
「拾ってあげていたでしょう?」
そう重ねて言われて、マリーエはやっと思い出した。
道端にいた男の子の落とした果物を拾って、渡してあげたのだ。
確かに「ありがとうございます」とは言われたけれども、そもそもその男の子が果物を落とした原因は、クローチェに見惚れたからである。
御礼を言いながらも、男の子の視線はクローチェに向けられていた。
「あれは、声を掛けられた範囲に入りませんし……何より、あの子は男というより男の子だと思いますよ?」
クローチェ以外の他人とマリーエが話すことを、妹が極端に嫌がることを知っているので、マリーエはあえてその事実を告げたのだが。
「あの歳になれば、既に精通もありますし性行為についての知識もあります。いえ、むしろ性行為に興味関心しかない年頃です」
クローチェは淡々と答えて、最後にこう付け足した。
「そんな調子ですと、お姉様なんて簡単に騙され犯されてしまいます。そんなこともわからないなんて……今日は躾なおし、ですね」
そしてニッコリと笑う。
その途端にマリーエは顔を真っ赤にさせて、一歩後退った。
そんなマリーエの様子に気付かない訳もなく、
「お姉様、先程のご様子ですと……私に、他のことで声を掛けられるのだと期待したのではございませんか?」
と言いながらマリーエが後退った分以上に、詰め寄った。
「そ、そんなこと──」
「ない、とおっしゃるのなら、さっさと修道服を脱いで下さい」
「……っ」
そう言われたマリーエは、今度は俯く。
修道女は本来、清貧・貞潔・従順の誓願の下に生活するものであるから、本当に神がいるのであれば、いつかは二人に天罰が下るのであろう。そうとわかっているけれども、マリーエがクローチェに抵抗を見せたのは最初だけだった。
クローチェを拒否するには、マリーエは彼女を愛し過ぎていたから。
「……何を躊躇されているのです?早く寝間着に着替えましょう?」
いつの間にそんな傍に来たのか、クローチェはマリーエの耳元で囁く。
それは甘美な誘いであることを、マリーエは知っていた。
クローチェは修道服を脱ぎ、畳んで自分のベッドの脇の籠にそっと入れた。麻布で出来た寝間着には目もくれず、裸のままベッドに座って姉を誘う。
「お姉様、こちらに」
「……クローチェ……」
マリーエは、上擦った声で名前を呼びながらクローチェに一歩ずつ、近付いた。
13
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
スカートの中、…見たいの?
サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。
「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる