上 下
7 / 8

7 奇跡と失ったもの

しおりを挟む
あの日、確かにルクソスは死ぬ寸前だった。

けれども光に包まれた私は、遺跡調査に行く前日へと時間を遡ったのだ。


ベッドの上で目覚めた私の手の中には、遺跡調査で発見した懐中時計の形をした魔道具が握られており、それに刻まれていた魔法陣は跡形もなく消えていた。



慌ててハルラン様の元を訪ね、ルクソスの無事を確認すると、自身の経験を話した。

ハルラン様は俄に信じ難いとはおっしゃるものの、膨大だった魔力を私が失っていることには当然気付いていたため、最終的には信用して下さった。


翌日からの遺跡調査には、ルクソスをリーダーとするチームを編成してもらい、一週間ではなく二ヶ月以上の調査期間を設けるなど、色々と変更させて貰った。


一般人並みの魔力となった私に、魔道士協会の中で居場所はない。

私は退職を願い出ると荷物を纏め、置き土産として遺跡の地図や出現する魔物や注意点を書いたメモとルクソスへの手紙を置いて、日が昇る前に地元へと帰還したのだ。


「そんな……俺のせいで、師匠が……」

ハルラン様ですら直ぐには信じてくれなかった話を、ルクソスは疑う様子を一切見せずにぐっと唇を噛み締めた。

俯くルクソスの頭をぎゅっと抱き締める。

「違います、私のせいです。それに、魔力を失っただけで愛弟子が戻ってくるなら、こんなに幸運なことはありません」


古代遺跡のシステムで全ての魔道具が壊れたのに、あの古代の魔道具だけは壊れなかった。そして、私の魔力を核として、時間を遡ることができたのだ。

あの魔道具を拾っていなければ。
私の魔力量が魔道具を起動させるほど膨大でなければ。
魔道具の発動を自然と感知し、咄嗟に回路を組まなければ。

どれかひとつ違えば、こんな奇跡は起こることなく、私は一生後悔し、自責の念に駆られる毎日を過ごしていただろう。


「……だからか。俺、古代遺跡を調査中、初めて来た場所なのに、なぜか知っているような気がしたんですよ。遺跡の仕掛けも、どこに何があるかも」
「そうでしたか。今日の新聞で見ましたよ、最高難易度の古代遺跡の攻略に成功したと。二ヶ月お疲れ様でしたね」

落ち着いたらしいルクソスの頭を撫で、私は温かい飲み物を出すために一度台所へ立った。

昔のように、ルクソスは私の真後ろに立ち、ぎゅうと抱き締める。
昔腰に回っていた腕は今や肩に回され、身体的な成長も感じた。


遺跡調査を終えたその足で、私の元へ休むことなくまっすぐ飛行し続けたのだろう。

いくらルクソスには私の魔力量に気付かれたくなく、また追い出されたとはいえ、愛弟子の顔も見ずに去ったことはやはり薄情な行為だったと反省せざるを得ない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民として追放される予定が、突然知り合いの魔術師の妻にされました。奴隷扱いを覚悟していたのに、なぜか優しくされているのですが。

石河 翠
恋愛
侯爵令嬢のジャクリーンは、婚約者を幸せにするため、実家もろとも断罪されることにした。 一応まだ死にたくはないので、鉱山や娼館送りではなく平民落ちを目指すことに。ところが処分が下される直前、知人の魔術師トビアスの嫁になってしまった。 奴隷にされるのかと思いきや、トビアスはジャクリーンの願いを聞き入れ、元婚約者と親友の結婚式に連れていき、特別な魔術まで披露してくれた。 ジャクリーンは妻としての役割を果たすため、トビアスを初夜に誘うが……。 劣悪な家庭環境にありながらどこかのほほんとしているヒロインと、ヒロインに振り回されてばかりのヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID3103740)をお借りしております。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

40歳独身で侍女をやっています。退職回避のためにお見合いをすることにしたら、なぜか王宮の色男と結婚することになりました。

石河 翠
恋愛
王宮で侍女を勤める主人公。貧乏貴族の長女である彼女は、妹たちのデビュタントと持参金を稼ぐことに必死ですっかりいきおくれてしまった。 しかも以前の恋人に手酷く捨てられてから、男性不信ぎみに。おひとりさまを満喫するため、仕事に生きると決意していたものの、なんと41歳の誕生日を迎えるまでに結婚できなければ、城勤めの資格を失うと勧告されてしまう。 もはや契約結婚をするしかないと腹をくくった主人公だが、お見合い斡旋所が回してくれる男性の釣書はハズレればかり。そんな彼女に酒場の顔見知りであるイケメンが声をかけてきて……。 かつての恋愛のせいで臆病になってしまった女性と、遊び人に見えて実は一途な男性の恋物語。 この作品は、小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

内気な貧乏男爵令嬢はヤンデレ殿下の寵妃となる

下菊みこと
恋愛
ヤンデレが愛しい人を搦めとるだけ。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...