Magic DOLL

涼風 蒼

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第1章

1-1.旅立ち

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 シリウスが暮らす世界は小さな村だった。田舎ともいえるその村には魔法使いたちが数多く暮らす村の一つである。
 魔法使いたちが暮らす村や街はそれほど多くなく、また魔法使いそのものも数少ない人種だ。
 魔法とは魔力によって使える不思議な力のことであった。その魔法は古来より一部の人間にしか使うことができず、それは現在でもあまり変わらない。
 しかし、世界には魔力を蓄えた宝石があった。その宝石により、魔力を持たない人間でも魔法を使えることができる。
 だからこそ、世界は絶妙なバランスのもとに成り立っていた。魔法使いたちが実権を握れていないのは宝石という存在があってこそだった。けれど、宝石は高価な代物であることに変わりはなく、宝石を持っているのは主に貴族や王族といった特級の者たちだ。
 
「なるほど。つまり、王族や貴族といった者たちが宝石を集め、それを自分達の部下に与えている。さらにその宝石を与えられる者たちは己の首に爆弾を仕込まれた首輪をさせられ、奴隷のごとき扱いを受けている、と」
「そ。こういった魔法使いがいる村や鉱山地帯で宝石がよく掘られている場所でなければ、民衆は特級のやつらからしか宝石をもらえない。けど、宝石をもらえばそれは自分の魂を特級のやつらに差し出すようなもの。主に兵士がその宝石を持たされているんだよ」
「宝石はその特級という者たちでは扱えないのですか?」
「いいや。宝石はどんな人間にも力を与える。けど、基本的にその力は人間が到底支配できるような力じゃない。魔法に魅せられ宝石集めばかりしている奴もいれば、魔法によって精神を壊され理性という概念を失い、果てには虐殺を行う者さえ出てくる。だから、本来宝石は魔法使いによって管理されるもので普通の人間たちがどう足掻いたって手に入れるべきものではないんだ」
「ふむ……しかし、宝石がなければ魔法使いたち……つまり貴方様のような方々がこの世界を支配する世の中になる。そういうことですか?」
「まさか。僕らはそんなことはしないさ。というか、そんなことに興味はない。魔法使いの大半は知識欲が強い者ばかりだ。だから目先の権力だとか武力だとか富や名声なんてものには一切の欲がわかない。魔法使いが目指すのはなぜかみんな一つなんだ」
「それはなんなのですか?」
「この世の真理さ。魔法とはなにか、魔法使いとはなにか。なぜ魔法を使える人間は限られているのか。宝石はなんのために存在しているのか。なぜ魔法使いは人間とは違い、知識欲を満たすことで権力や武力などを欲したりしないのか。そういったありとあらゆる真理を知りたい。それこそが魔法使いたちの欲求なのさ」
「不思議なものですね。宝石を持った人間はあらゆる欲に縛られ、その理性を失う。逆に貴方様や魔法使いたちは知識欲を満たすことで満足感を得られる。それ以上のことを欲しない、というのは何とも不可思議なことですね」
「まぁね。だからこそ、そこも真理の一つなのさ。不可思議なこと、矛盾していること。疑問に思うことは何でも追求する。何でも探求する。それが魔法使いだ」
「では、私もその興味対象の一つとなり得るのでしょうか?」
「他の魔法使いはそうだろうね。でも、僕はそんなことを求めて君を作ったんじゃないよ。僕の友達であり味方でいてくれること。これさえ満たしてくれればいいのさ」
「貴方様のお心のままに」
 
 彼の髪に櫛を通していたウィズはその手を止め、主に忠誠を誓った。
 現在は朝の刻限。学校へ行く準備をしようとしていたシリウスを、ウィズは手取り足取り彼の身支度を手伝った。てきぱきと動く彼に抵抗する気が失せたシリウスはウィズのなすがままに体を委ねていた。制服も着替え、あとは髪を整えるだけとなってから、先程の会話が浮上したのである。
 ほんの些細な会話のつもりだった。ウィズにとって質問は質問としての意味をなさない。彼が質問を投げ掛けたのは単なるシリウスの退屈凌ぎのつもりだった。けれど、意外と彼は色々と喋ってくれた。
 おかげで彼の身支度を整える間、暇をもて余すことはなかったようだ。
 ウィズにとって、質問とは興味を引いたことへの関心ではなく、ただ単にシリウスの暇潰し相手の会話だった。しかし、そんなウィズの心中を知るよしもなくシリウスは不思議そうに彼を見る。
 
「君は本当に不思議だね? これは僕の血肉を混ぜた結果なんだろうか」
「どうでしょうか。しかし、貴方様の血肉を分けていただけたからこそ、私はここにいるのです」
「まぁ、僕が欲しくて作ったからね。それに対する代償はどんなものでも払うつもりだけど」
「それもまた世の理というものですか?」
「そうだね。理をねじ曲げるようなことをしたからにはそれなりに大きな代償が必要だと思うよ。今は特になんともないけど、お気楽には構えてられないかも」
「その時は、私が貴方様の味方で居続けられる絶好の機会というわけですね。もっとも、私はいつでも貴方様のご意向に背く気はありませんが」
「そだね。どんな代償がくるかわからないけど……君が味方としていてくれるんだもの。なにも怖くないよ」
 
 ウィズの存在を確かめるように腕を掴み、シリウスは安心したような表情を浮かべた。
 彼が望むのなら微笑む。彼が望むのなら傍にいる。彼が望むのなら、全身全霊をもって全ての望みを叶える。
 ウィズにはシリウスが欲するのであればどんなことにも手を染められた。彼を苛める者がいるならばその存在を制裁し、彼を傷つける者がいるならば彼を守るために相手を傷つけることを躊躇わなかった。
 そのため、シリウスは同じ魔法使いたちからさらに敬遠されるようになってしまった。しかし、意外にもシリウスは気にする風もなかった。
 “ウィズ”という味方を傍に置いていたからなのかもしれない。
 どれほど陰口を囁かれても、どれほど傷付けられても、シリウスは平気だった。自分を責める相手など存在していないかのように、シリウスの眼はウィズだけしか映していなかった。そして、ウィズ自身もシリウスにしか眼をくれなかった。それは、シリウスが無意識に望んでいたことだったからだ。
 
「ねぇ、ウィズ。これから旅をしよう」
「貴方様の仰せのままに。どちらへ行かれるのですか?」
「そうだね~。この村にはもう飽きたし、どこか広い街で二人で一緒に住もう。海が見えるとこがいいなぁ。それと山も近い所。特に人間が容易く入れなさそうな山は珍しい薬草だとか動物が生息しているし……って、そんな場所ないかな?」
「貴方様が望むのであれば、それはきっと現実となりましょう。世界は広いのです。きっと、お気に召す街を見つけれますよ」
「そだね。うん、ウィズとなら見つかるかもって思えてきた! ありがとう、ウィズ」
「勿体ないお言葉です」
 
 シリウスが微笑めば、ウィズも彼へと微笑んだ。そうして二人は村から出ていった。彼らは村に挨拶することもなく、また村人も誰一人として彼らを見送らなかった。
 こうしてシリウスとウィズの旅は幕を開けた。
 
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