書庫『宛先のない手紙』

中村音音(なかむらねおん)

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彼だけは特別だった。

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 年をとると、嘘っぽい物語には興味がだんだんなくなってくる。どうにも心に響いてこないのだ。かえって人を感動させたり泣かせたりしようとするあざとさが鼻につき、鼻をつまみたくなるほどだ。

 ゲームをしなくなったのと、同じ経路をたどっている。

 まさか本にそんな感情を抱くとは露にも考えていなかった。

 飽食のゲームの次に熱が冷めたのが映画だった。ハリウッドの壮大で爆発的な圧倒的迫力も、張りぼてに思えてしかたがなくなった。
 では、映画を観なくなったかといえば、観る。
 観たくて観るというよりは、ほかにすることがないから観る。
 でも、作品を選ぶ。
 実話に基づいた話、涙を流さなければ忘れてしまいそうだから、心に沁みそうな作品を選んで観る。

 SFやアクション、ヒーローものにいたっては、食傷気味。あまりにも遠すぎて、だめ。近くに寄れば作り物が透けてしまうから、やだ。

 そんななか、娯楽映画で忘れられない作品がある。

『スーパーマン』
 
 スーパーマン役のひとりであったクリストファー・リーブ氏は事故で脊椎を痛め、半身不随の身となった。
 もはや役者生命はそこまで。
 確かに彼の役者姿は以来、拝むことができなかった。

 ところがある日、歩けないはずの彼が松葉杖をついて、民衆の前に姿を現したのだった。

 そのとき私は思った。
 なんだ、スーパーマンは実在していたんじゃないかってね。
 クリストファー・リーブは空は飛べなかったけど、可能性の翼を大きく開いて見せたのさ。

 涙が出て止まらなかったよ。

 わたしが今でもスーパーマンを特別視するのは、こうした事情があるからだ。
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