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時代の呼吸。
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自分を出すっていうことがよくわかっていなかった。
かつて上司から「そろそろ自分を出してもいいんじゃないの?」と言われたことがある。
これ以上どうやって自分を出せばいいの? と思った。精一杯自分なりに考え、狭量ながらも最善と思われる解答で臨んでいるのに、さらなる余韻など絞り出せるはずがない。だからそれ以上意味に含まれた何かを深堀りしようとは思わなかった。
無理なものは、所詮無理。
限界。
これ以上、何を望むっていうのさと、さっさと投げられた課題を放り投げた。
なにせ意識したことのない領域を「振り返れ」と言われたのと同じなのだ。
無から何かを生み出すことはできるだろうが、虚無しかないところに有は見つからない。
飛行機を見たこともない人々に「空を飛ぶものを作れ」と課すのと同義。与えられた宿題はライト兄弟の出現を考えるまでもなく空を切るだけで、カタチになることはない。それと同じだ。
それがどういう風の吹きまわしで、閉じてしまった過去をこじ開ける気になったのか?
それは、気づいたことによる。
そういえば。
と思い当たる節にひっかかったのだ。
思い浮かんだアイデアは、いずれカタチにしてみせる。
紡いで練り上げた独自の表現は、きっと世間を驚かせることができる。
そうやってこれまで出し惜しみしてきたのだ。とっておいて溜めてあたため育てあげ、しかるべき時に解き放つ!
ところが、なのさ。時間が経てば、素敵なアイデアも色褪せてしまう。腐っても鯛と思えるのは、鯛というものが名ばかりだとしても絶対的価値を見いだす人に支えられるからで、腐ったらそれでおしまいさ、と思われたらさしもの鯛でさえ「はい、さようなら」。
とっておく、という行為は、自分の思い出にとどめておくのがよいようで。
他者の目を意識した出し惜しみは、花が咲く前に枯らしてしまう枯れ葉剤。
だから。
洗剤意識のほうで渦巻いていた、これまで「時が熟してから」と思う奢りをかなぐり捨てて出してしまおうと思った。
これまで出してこなかったのは、出したはいいものの酷評が強かったからではない。
仮に社会が認めてくれたら、世の望むニーズの速度に応えられるだけのレスポンスができないことを知っていたからだ。
息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。
その強制呼吸に追いつかない。
追いつかなければいずれ息ができなくなる。
そんな辛いこと、したくはないし、できない。そう思っていたからだ。
だけど今は違う。呼吸を求められれば、あの手この手で応えられるだけの抽斗がいっぱいできた。
だから今、出し惜しみしない表現に身を置ける。
どんとまかせておけ!
そんなきぶん。
だいじょうぶ。今のぼくになら、出し惜しみしなくたって、次の呼吸をゆとりでこなせる。
かつて上司から「そろそろ自分を出してもいいんじゃないの?」と言われたことがある。
これ以上どうやって自分を出せばいいの? と思った。精一杯自分なりに考え、狭量ながらも最善と思われる解答で臨んでいるのに、さらなる余韻など絞り出せるはずがない。だからそれ以上意味に含まれた何かを深堀りしようとは思わなかった。
無理なものは、所詮無理。
限界。
これ以上、何を望むっていうのさと、さっさと投げられた課題を放り投げた。
なにせ意識したことのない領域を「振り返れ」と言われたのと同じなのだ。
無から何かを生み出すことはできるだろうが、虚無しかないところに有は見つからない。
飛行機を見たこともない人々に「空を飛ぶものを作れ」と課すのと同義。与えられた宿題はライト兄弟の出現を考えるまでもなく空を切るだけで、カタチになることはない。それと同じだ。
それがどういう風の吹きまわしで、閉じてしまった過去をこじ開ける気になったのか?
それは、気づいたことによる。
そういえば。
と思い当たる節にひっかかったのだ。
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そうやってこれまで出し惜しみしてきたのだ。とっておいて溜めてあたため育てあげ、しかるべき時に解き放つ!
ところが、なのさ。時間が経てば、素敵なアイデアも色褪せてしまう。腐っても鯛と思えるのは、鯛というものが名ばかりだとしても絶対的価値を見いだす人に支えられるからで、腐ったらそれでおしまいさ、と思われたらさしもの鯛でさえ「はい、さようなら」。
とっておく、という行為は、自分の思い出にとどめておくのがよいようで。
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だから。
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仮に社会が認めてくれたら、世の望むニーズの速度に応えられるだけのレスポンスができないことを知っていたからだ。
息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。
その強制呼吸に追いつかない。
追いつかなければいずれ息ができなくなる。
そんな辛いこと、したくはないし、できない。そう思っていたからだ。
だけど今は違う。呼吸を求められれば、あの手この手で応えられるだけの抽斗がいっぱいできた。
だから今、出し惜しみしない表現に身を置ける。
どんとまかせておけ!
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