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時間の向かう先。
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息を繋いだもの、息を継げなかったもの、息を止めているものを含めた都心からほど近いこの商店街を人は流れていく。
立ち止まれば人の流れは川。いつだって時間の上流からやってきて、低いほうへ流れていった。
まばたきひとつで明日になり、ふたつで明後日。
目を軽く閉じれば昨日が見え、ぎゅっとつむれば一昨日がよみがえる。
人は前に進みながら、後ろを振り返る。
後ろは踵を返すことのできない過去。
そこに見えるているのに、阻むガラスが手が止める。
立ち入ってはいけない、とガラスが口を開く。
見えているの、手を伸ばすことはできない。決してにつかむことはできない。
そこに、あるのに。
爪がガラスに当たると、歯がゆさが生理をさかなでる音をたてる。神経にさわる甲高い擦過音だ。
時間に逆流はない。
「そんなものなのさ」と冷たく言い放てる者にこそ、もしかしたらひとかたならぬ過去への未練が胸中で渦巻いているのだと、真理が見えた。
無関心でいられるのなら、心の隙間に突き刺さったセピアに色褪せた写真に納まったものに、すでに失ってしまったものに、痛みは感じない。
上海楼という街いちばんの中華料理店が商店街から姿を消すことになった。
蟹のしょうゆ漬けが絶妙だった。辛みを効かせた麻婆豆腐は右にでるものがなかった。
この商店街は暗渠の上に成立している。足元には絶えず水が流れている。
時間もまた水流にさらわれるように、逆流することなく広い海原に向かっている。
時間の向かう海原とはどこなのだろう?
地下を流れる水流は、決して大きなものではない。かつては小川程度のかわいらしさ。上海のthe bundと比すれば塵みたいなものなのだろうが、たうたう時間の流れは共有されている。
時間の向かう海原が、とてつもなく寛容なものに思われてきた。
もしかして、人によってはそいつを天国と呼ぶのかもしれない。
時間の向かう先は。
意識下でとらえられるうちは、生きているということになる。
立ち止まれば人の流れは川。いつだって時間の上流からやってきて、低いほうへ流れていった。
まばたきひとつで明日になり、ふたつで明後日。
目を軽く閉じれば昨日が見え、ぎゅっとつむれば一昨日がよみがえる。
人は前に進みながら、後ろを振り返る。
後ろは踵を返すことのできない過去。
そこに見えるているのに、阻むガラスが手が止める。
立ち入ってはいけない、とガラスが口を開く。
見えているの、手を伸ばすことはできない。決してにつかむことはできない。
そこに、あるのに。
爪がガラスに当たると、歯がゆさが生理をさかなでる音をたてる。神経にさわる甲高い擦過音だ。
時間に逆流はない。
「そんなものなのさ」と冷たく言い放てる者にこそ、もしかしたらひとかたならぬ過去への未練が胸中で渦巻いているのだと、真理が見えた。
無関心でいられるのなら、心の隙間に突き刺さったセピアに色褪せた写真に納まったものに、すでに失ってしまったものに、痛みは感じない。
上海楼という街いちばんの中華料理店が商店街から姿を消すことになった。
蟹のしょうゆ漬けが絶妙だった。辛みを効かせた麻婆豆腐は右にでるものがなかった。
この商店街は暗渠の上に成立している。足元には絶えず水が流れている。
時間もまた水流にさらわれるように、逆流することなく広い海原に向かっている。
時間の向かう海原とはどこなのだろう?
地下を流れる水流は、決して大きなものではない。かつては小川程度のかわいらしさ。上海のthe bundと比すれば塵みたいなものなのだろうが、たうたう時間の流れは共有されている。
時間の向かう海原が、とてつもなく寛容なものに思われてきた。
もしかして、人によってはそいつを天国と呼ぶのかもしれない。
時間の向かう先は。
意識下でとらえられるうちは、生きているということになる。
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