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宿題で描いたハリストス教会の思い出。

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父は随分前に他界してしまったけれども、思い出のひとつひとつは、白も黒も甘いも酸っぱいも苦いもすべてひっくるめて大切なものばかりです。
そのひとつが絵にあります、

転勤族だった父の関係で函館から仙台へ引っ越した小学6年の夏休み、宿題でハリストス教会の絵を書きました。
白い画用紙に鉛筆で描いたものですから、白と黒で繰り広げられるシンプルだけれども力強い(あとになったから何でも言える)作品に仕上げました。

その自称力作を見て絵にひとかたならぬ自信を持つ父は、色を付けると教会が浮き立ってより良くなると色鉛筆を持ちだし、太陽が放つ光線よろしく教会を中心に放射状に線を、人の了解も得ずにシュッシュと描き込み始めてしまいました。
ひととおり描いては測量士が鉛筆を立てて目標物を確かめるように吟味し、違うかなという顔して、さらに線を描き足します。

できあがったのは放射線の絵でした。
ハリストス教会は、絵の真ん中にあるにもかかわらず、しょぼくれて見えました。


最初は「どうだ」とばかりに鼻を高くしていた父も、強者どもが夢の跡。描線の熱中は冷めた目で見れば、ただの幻だったことに気づいたようでした。顔から精彩を落としていった父は、苦い顔まで急落したことを覚えています。そのあと何も言わずに絵を置いて、立ち上がってしまいました。バツが悪かったのでしょう。

かくして僕の力作は、自他ともに認める父のいたずら書きに変わってしまいました。

線画といっても、丁寧に愛おしむように時間をかけて仕上げたものです。描き直す気力が湧いてくることはありませんでした。
絵は結局夏休みの宿題としてそのまま学校に提出しましたが、展示期間が終わって戻ってきてからの行方はしれません。
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