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怒りの構造。
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ラベット・ラ・ダ・オチアイのリーズナブルなのに驚かされっぱなしのイタリアン・コース・ディナー。
川沿いに並び建つ旅館群はまさに温泉街のイメージそのものの銀山温泉の露天風呂。
ウィンザーホテルから見下ろす洞爺湖は、眼下に浮かぶ別世界。
あの人との時間。
楽しかったこと、美しかったこと、美味しかったことは凪のように心に残り風化しない。
でも、人生山あり谷あり。
ときに悲しいことに出くわすこともあれば、烈火のごとく怒ることもある。
悲しいことは、後ろから飛んでくるボールみたいなもの。
避けようがない。
悲しいことに出会ったら、受け止めるしかない。
どんと受け止め、両腕でがしっと抱きしめてあげる。
そうしているうちに、少しずつ少しずつ悲しさの痛みは溶けるように和らいでいく。
裏切られたり、騙されたり、謂われなく責められたりすると穏やかだった気持ちにさざ波がたち、にわかに騒ぎ出す。
ダークサイドのアドレナリンが勢い余って、脳天から噴き出してしまうこともある。
吸う息が怒りで震え、吐く息が憎悪に燃える。
「あんっちくしょー!」
思わぬ絶叫を誘うことさえある。
怒りは地表を大火で包む。地球を煌々と火を放つ恒星に変えてしまうほどの勢いだ。
「一生忘れないゾ!」
負の感情は、人を変える。かつてダースベイダーがそうだったように。
ところが、だ。
怒りははしかみたいなもの。
かかってもしばらくすればすっと消えていく。
綿菓子を口に含んだみたいに。
広島県三次の朝霧みたいに。
周りに散らすだけ散らした怒りが見えなくなると、取り残されるのは自分ひとり。
広い大地に見世物みたいにひとりだけ取り残される。
もしかして、浮足立って怒っていたのは自分だけ? という疑問がにわかに湧いて出る。
ほかの誰もが冷たいもので、放置プレイで知らんぷり。
焚火の燃えカスを木枯らしが蔑んでいくように、勝負など最初からしていないのになぜか敗者の無念を抱え込む。
怨憎会苦は確かに残る。
残るけれども、接触しないようにすればすむだけのこと。
怒りは帳のように現れ、陽炎のように消えていく。
悲しみに構造があるように、怒りにも構造がある。
このことを知ってから、不思議と怒らなくなった。
ただただ、いつまでも風化しない過去の記録が心地よく揺れているだけだ。
川沿いに並び建つ旅館群はまさに温泉街のイメージそのものの銀山温泉の露天風呂。
ウィンザーホテルから見下ろす洞爺湖は、眼下に浮かぶ別世界。
あの人との時間。
楽しかったこと、美しかったこと、美味しかったことは凪のように心に残り風化しない。
でも、人生山あり谷あり。
ときに悲しいことに出くわすこともあれば、烈火のごとく怒ることもある。
悲しいことは、後ろから飛んでくるボールみたいなもの。
避けようがない。
悲しいことに出会ったら、受け止めるしかない。
どんと受け止め、両腕でがしっと抱きしめてあげる。
そうしているうちに、少しずつ少しずつ悲しさの痛みは溶けるように和らいでいく。
裏切られたり、騙されたり、謂われなく責められたりすると穏やかだった気持ちにさざ波がたち、にわかに騒ぎ出す。
ダークサイドのアドレナリンが勢い余って、脳天から噴き出してしまうこともある。
吸う息が怒りで震え、吐く息が憎悪に燃える。
「あんっちくしょー!」
思わぬ絶叫を誘うことさえある。
怒りは地表を大火で包む。地球を煌々と火を放つ恒星に変えてしまうほどの勢いだ。
「一生忘れないゾ!」
負の感情は、人を変える。かつてダースベイダーがそうだったように。
ところが、だ。
怒りははしかみたいなもの。
かかってもしばらくすればすっと消えていく。
綿菓子を口に含んだみたいに。
広島県三次の朝霧みたいに。
周りに散らすだけ散らした怒りが見えなくなると、取り残されるのは自分ひとり。
広い大地に見世物みたいにひとりだけ取り残される。
もしかして、浮足立って怒っていたのは自分だけ? という疑問がにわかに湧いて出る。
ほかの誰もが冷たいもので、放置プレイで知らんぷり。
焚火の燃えカスを木枯らしが蔑んでいくように、勝負など最初からしていないのになぜか敗者の無念を抱え込む。
怨憎会苦は確かに残る。
残るけれども、接触しないようにすればすむだけのこと。
怒りは帳のように現れ、陽炎のように消えていく。
悲しみに構造があるように、怒りにも構造がある。
このことを知ってから、不思議と怒らなくなった。
ただただ、いつまでも風化しない過去の記録が心地よく揺れているだけだ。
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