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北の天声、今を経て先へと言ふ。

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そこは、大地の怒りを刻み込んだ北の孤島だった。大小のカルデラを始め、最たるは噴火湾、それは海域を巻き込んだ大地流動の生き証人。

怒りは烈火で、ひとたび逆鱗げきりん憤怒ふんぬを生めば、地は燃え海が拳を振り上げる。

虫けらほどの人間に戦う術はなく、ただただ逃げ惑うか、踏みにじられるか、食うか、飲まれるか。
だから、必死で願う。
鎮まれ、怒り。
収まれ、腹の虫。
このようにして天変地異をあらぬ者の仕業と信じ、恐怖とおそれにひれ伏し、頭上で合わせた手をひたすらすり合わせる。

そんなことがたびたび繰り返されるものだから、人の恩情への焦がれはますます増大していった。

人肌より濃く、縋りに近く。
鉄より冷徹な手強さに抗う手立ては、それしかなかった。


時は経て現代。
北の孤島は北海道とされ、取り込まれた。
人は、かつて起こった天変地異のことなど、すっかり忘れている。

誰が夏の裂く陽射しと炒る厳寒が同じ者の仕業と知っているだろう。
熱でも寒でもどちらか一方が寝返り程度に息を荒げれば、地では荒れ狂う者の地団駄、近代を経た現在でもたちまちのうちにやられてしまう。

そうなると、先で待つものは死。
未だ生き絶えてしまうことなど誰ひとりとして理解していないというのに。

人の移り気は、いつだって都合と惑わしに翻弄ほんろうされる。
なぜ、渦の中心を見ようとせず、暴風雨のどうでもよくなった枝葉末梢えだはまっしょうに気を削がれるのか。
過ぎ去ればよしと上辺の結果に納得してしまうのはなぜか。

落ち着け、魂よ。
惑わされるでない、人の心よ。
我々は、今を生きているのではない。過去から続く今を未来に渡しているだけだ。
己が傲り高ぶれば、今だけしのいで未来が消える。

次にどう動く? 
烏合うごうに逆らいはみだせば、主流に戻れぬ。戻れなければ飢えて倒れて絶えるのみ。

長流は、跳ねた水のことなど気にかけない。

物事の流れを引いて導く者、人心を惹いて説く者に耳を傾けよ。
表層に惑わされてはならぬ。
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