上 下
15 / 116

蜘蛛の糸s。

しおりを挟む
 The Spider's Threads(複数の蜘蛛の糸)
---芥川龍之介作『蜘蛛の糸』より---




「地獄の沙汰(裁判)にオレひとり。
おいおい、ほかに裁かれるものは誰もいないのかよ。
こんなんじゃ、閻魔様にケツの穴までのぞかれちまうじゃないか」

暗黒の法廷は、右も左も、上も下も色を抜かれた暗黒世界。
裁かれるその時を、今か今かと冷汗流して待っている。


その時、一条の光るものが差し伸べられるように天からするすると降りてきた。

蜘蛛の糸?

含むように読み聞かせてもらった芥川竜之介のあの物語はよく知っている。
欲をかくことなく、誰も足蹴にすることもなく。
そうすれば、オレは救われるかもしれない。

幸い、オレ以外に罪人はいない。
我先に助かりたい利己の亡者がいっせいにたかることはないのだから、糸が重さみで切れてしまうことはない。

オレは降りてきた蜘蛛の糸にすがろうと手を伸ばした。
手の先にあるのは、一条の糸のはずだった。

ところが隣にもう1本。いや、1本どころじゃない。見まわすと蜘蛛の糸はそこにもここにも無数に救いの手を差し伸べていた。


どれを選べばいい?

オレは迷った。
状況からすれば、オレは試されているのかもしれないと思った。
池に落としたのが金の斧なのか銀なのか、正直に答えたあの男みたいに。
でも、オレが正直に答えなければならない真実って何?
ひとつも思い浮かばなかった。

オレは無数の糸に手を差し伸べられるほどの男じゃない。これだけの数の善行はしていない。
どれも、よかれと思ってやったことを含めて、何ひとつ人を救うことはできなかった。


その時、天からの声。

「そのことに思いを巡らせられるなら、あなたには良心が灯っているということですよ」

糸はハシゴになり、さらに階段に化身した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

日曜小説広報本部

大門美博
大衆娯楽
日曜小説の予告等を流します。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...