私を虐げてきた妹が聖女に選ばれたので・・・冒険者になって叩きのめそうと思います!

れもん・檸檬・レモン?

文字の大きさ
上 下
33 / 42

31

しおりを挟む

 ファイリングを終えて、ノートとペンを片手に先輩が待つテーブルへ向かうと、さっき話をしたA級冒険者のグループに加えてロッテとセルジまでいた。

「ロッテにセルジまで?」

 ……いや、ロッテはさっきから組合内にいたけど……セルジはいなかった! 確かにセルジは、フィリップから私の面倒を見るようにと言われているからか、日中はよく組合一階の飲食スペースに顔を出しているのは見かけていた。
 でも今日はいなかったはず!

「セルジ、どうしてここに?」
「冒険者組合に教会から仕事の依頼が入ったって聞いたんで」

 ちらっとこちらに視線を向けてくるセルジ。彼の少ない動作から、なんとなく私を案じているような気がしてならない。知らないところで私のことを心配してくれてるような気がする。
 この間会ったばかりなのに、離れている間も何かと気遣ってくれるセルジ。常識のない私に必要な知識を教えてくれるようとする先輩。彼女以上にもっと接点がないのに私を守り、必要とあらば導いてくれようとする冒険者の皆様。人付き合いに慣れない私と共同生活をしてくれるロッテ。

 ……私は本当に恵まれている。

「『アンデッド』について勉強って聞いたけど、ホント?」
 ロッテが確認を求めてきた!
「う、うん!」
 この年齢でアンデッドを知らないって、やっぱりおかしいのかな? 珍しくロッテが真面目に考え込んでる。お菓子を食べながら。

「聖教師様に話を聞いたことないんだっけ?」
「うん」
「もーもー! あたしに聞いてくれれば良いのに! お教えしましょう! 『アンデッド』って言うのはね……」

 ロッテの説明によると――『アンデッド』というのは、生命活動が終了しているのに、生体反応を示す存在のことらしい。蘇る死体に類する者、幽体に類する者など様々な種類がいるそうだ。

「どんな立派な貴族のお屋敷も、ゴーストの一体や二体はいるもんなんだけど、お嬢さ――マイラは気づかなかった?」
「うん、全然」

 アンデッドは聖女にしか倒すことができない。
 マリアは過去にアンデッドを倒したことがある。ファイネンの屋敷で、どこにでもいると噂のアンデッドを見たことはない……。
「気分のいいもんじゃないから、気づかないならそれに越したことはないと思うよ!」
「うん……ありがと」
「そいつのその説明で大体合ってますけど、正確には正体不明なんすよ」

 セルジの補足説明によると――『アンデッド』は正体不明で倒し方が分かっていない。唯一、魔法属性『奇跡』と分類される聖女の秘術以外には。聖女の秘術は意図的に隠されているわけではない。本人たちにも説明のしようがなく、口頭で伝承できるものではないと言われている。

 聖女が対処できないアンデッドについては、『封印』という処置が施される。封印の術が使えるのは、魔法の光属性を扱える者に限られる。魔法が使えるか、どの属性が使えるか、それは生まれついての適正でほぼ決まる。適性がなくても努力によって手に入れることはできるけど、とても効率が悪く苦痛を伴うのだそうだ。
 そういった事情もあって、光属性が扱える魔法使いは必然的に教会に召し上げられ、職を与えられることになるらしい。


 ここまで聞いて血の気が引いた。
 教会はそんな倒し方も分からない敵を倒すために、冒険者に討伐依頼を出してきたの? 受託しない方が良かったんじゃ?!
 
「なんかおかしなこと考えてない?」
 先輩鋭い。

「気にすんなってお嬢ちゃん。俺たちは慣れてるし全部分かってる。承知の上で自分でそれを選んで受けた。それだけの話だ」

 A級冒険者の彼は気にするなと言って笑うけど……。そういう裏事情ってどうやったら効率的に手に入れることができるようになるかな? 受付って本来、そういう知識が必要なんじゃない?!

「しかも、封印は経年劣化でいずれは解けちまう。聖女に頼りたくなるのも分かるんだけどねぇ」

 色っぽい冒険者のお姉さんは、肘を付きながら甘酸っぱい飲料水を一気に喉に流し込んだ。鬱憤が溜まっているのかと思ってたけど、茶髪青年によると、いつものことらしい。彼女はお酒が好きで、高収入の仕事を受諾できると、祝い酒と称し昼から飲み明かす趣味があるのだそうだ。

「聖女も万能じゃないってのに、ねぇ?」



しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。 しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。 さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。 聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。 しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。 それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。 だがその後、王国は大きく傾くことになった。 フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。 さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。 これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。 しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。 レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。 邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。 しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。 章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。 どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。 表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...