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 アーヘル領の関所にほど近いこの街の名前は『バルドラギ』。
 通称――冒険者の街。繊細な装飾が施された建物より、無骨だけれど強度を重視しているような、石造りの建物が多い。前の町は木造建築が多かったけど。
 関所の周りがずいぶんとカラフルだったから、なんとなくそんな街を想像していたけど全然違った。道は、舗装されている道もあるけれど、されていない道の方が多い。舗装されている道の端には可愛い花の咲いているプランターが置かれてる。……誰がお世話をしているんだろう?

 一つの大きな建物の前で荷台から降りた。大きいけど、外観からは何の建物なのかが分からない。建物の前に荷車を置きぱなしにするわけにもいかないらしく、セルジはそのまま違う場所へトゥルゲを走らせて行った。

「彼はどこへ?」
「荷車置き場だよ。ここから数キロも離れていない所にあるから直ぐに合流するだろう。道の真ん中に荷車を駐めていたら、さすがに迷惑になるからね」

 安心しているような落ち着いた口調……もしかしなくても、この建物が冒険者組合なのかな? どの建物も似たり寄ったりで、外観からは区別がつかない――わけでもなかった。
 扉の上に大きな看板があり、きちんと『冒険者組合』と書かれてた! 文字の上にはさらに盾の上に剣が斜めに置かれているような円形のレリーフが飾られている。これは家紋――ではなく組合紋……のようなものかな?

「じゃあ行こうか」
「は、はい!」
「……初々しいぃ~」

 フィリップに手を引かれて組合内へ入った。中が少し暗く感じるのは、外が明るすぎたからかな? 中は前の街と同じように、一回階は食堂になっているみたい。二階は宿泊施設でいいのかな?
 それにしても……ここにも沢山の人がいるなぁ。みんなとても個性的な格好をしてる。動きやすくて頑丈そうな服。

「あっ! 『曙光』だ!」
「えっ?! うそ、どこ――きゃあ!」
「『曙光』来てるって? なんだなんだ、何事だ?」
「なんかあった――『曙光』?! どこだ!」
「『曙光』来てるってホントかー?!」

 室内をぼーっと見まわしている間に、なんだか凄い騒ぎになってきた。『曙光』ってフィリップのことだよね? ……有名人なんだ。全然知らなかった。騎士は全員こんなに有名なのかな?

 それとも……フィリップは特別?

 フィリップに手を引かれて自分が尻込みをしていたことに気づく。
「大丈夫だよ。さあ、行こう」
「う、うん……」
 予想以上に優しい顔でそう促されてしまった。私を守ろうという意思を感じる。参った。彼にそういう顔をされる度に、頬が熱くなってしまう自覚はある。冷静になりたい…………そうだ! ロッテはどこ――

「あたしが『暁』だから!」

 ……ロッテはあれが普通なのかな?
 ところで、ロッテは自分のどこを『暁』と呼称しているんだろう? 今度聞いてみよう。

 ロッテがみんなの視線を集めている間に、フィリップに手を引かれて店の奥へ向かう。人目を避ける方法について、ロッテとフィリップは予め打ち合わせでもしていたのかな? 向けられていた視線がなくなってちょっと安心した。慣れない緊張感が付き纏っていたからか、精神的にちょっと疲れていたから。

 フィリップが向かったのは、店の一番奥にあるカウンターの端っこ。両端に衝立のようなものが立てられていて、隔離されているような場所。

「すまない、緊急事態だ」
「了解しました、こちらへ」

 フィリップの低く小さい呟きに、受け付け内部にいた男性が素早く反応を見せた。予想外に早い反応に、ちょっとして飛び退きそうになった。なんでかな? 動きが速かったから?
 彼がカウンターの下でのスイッチを入れると、カウンターが跳ね上がり通り抜けることができるようになった。

「おいで」
「はいっ!」
 何が起こってるのかよくわからないけど、フィリップはここで保護申請をすると言っていた。これからその手続きをするのかな?
 カウンターを抜けたさらに先に、赤い絨毯が敷かれた階段が見える。係員と思しき男性が、そっちにフィリップを誘導している。二階で話をするのかな?



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