25 / 42
24
しおりを挟むアーヘル領の関所にほど近いこの街の名前は『バルドラギ』。
通称――冒険者の街。繊細な装飾が施された建物より、無骨だけれど強度を重視しているような、石造りの建物が多い。前の町は木造建築が多かったけど。
関所の周りがずいぶんとカラフルだったから、なんとなくそんな街を想像していたけど全然違った。道は、舗装されている道もあるけれど、されていない道の方が多い。舗装されている道の端には可愛い花の咲いているプランターが置かれてる。……誰がお世話をしているんだろう?
一つの大きな建物の前で荷台から降りた。大きいけど、外観からは何の建物なのかが分からない。建物の前に荷車を置きぱなしにするわけにもいかないらしく、セルジはそのまま違う場所へトゥルゲを走らせて行った。
「彼はどこへ?」
「荷車置き場だよ。ここから数キロも離れていない所にあるから直ぐに合流するだろう。道の真ん中に荷車を駐めていたら、さすがに迷惑になるからね」
安心しているような落ち着いた口調……もしかしなくても、この建物が冒険者組合なのかな? どの建物も似たり寄ったりで、外観からは区別がつかない――わけでもなかった。
扉の上に大きな看板があり、きちんと『冒険者組合』と書かれてた! 文字の上にはさらに盾の上に剣が斜めに置かれているような円形のレリーフが飾られている。これは家紋――ではなく組合紋……のようなものかな?
「じゃあ行こうか」
「は、はい!」
「……初々しいぃ~」
フィリップに手を引かれて組合内へ入った。中が少し暗く感じるのは、外が明るすぎたからかな? 中は前の街と同じように、一回階は食堂になっているみたい。二階は宿泊施設でいいのかな?
それにしても……ここにも沢山の人がいるなぁ。みんなとても個性的な格好をしてる。動きやすくて頑丈そうな服。
「あっ! 『曙光』だ!」
「えっ?! うそ、どこ――きゃあ!」
「『曙光』来てるって? なんだなんだ、何事だ?」
「なんかあった――『曙光』?! どこだ!」
「『曙光』来てるってホントかー?!」
室内をぼーっと見まわしている間に、なんだか凄い騒ぎになってきた。『曙光』ってフィリップのことだよね? ……有名人なんだ。全然知らなかった。騎士は全員こんなに有名なのかな?
それとも……フィリップは特別?
フィリップに手を引かれて自分が尻込みをしていたことに気づく。
「大丈夫だよ。さあ、行こう」
「う、うん……」
予想以上に優しい顔でそう促されてしまった。私を守ろうという意思を感じる。参った。彼にそういう顔をされる度に、頬が熱くなってしまう自覚はある。冷静になりたい…………そうだ! ロッテはどこ――
「あたしが『暁』だから!」
……ロッテはあれが普通なのかな?
ところで、ロッテは自分のどこを『暁』と呼称しているんだろう? 今度聞いてみよう。
ロッテがみんなの視線を集めている間に、フィリップに手を引かれて店の奥へ向かう。人目を避ける方法について、ロッテとフィリップは予め打ち合わせでもしていたのかな? 向けられていた視線がなくなってちょっと安心した。慣れない緊張感が付き纏っていたからか、精神的にちょっと疲れていたから。
フィリップが向かったのは、店の一番奥にあるカウンターの端っこ。両端に衝立のようなものが立てられていて、隔離されているような場所。
「すまない、緊急事態だ」
「了解しました、こちらへ」
フィリップの低く小さい呟きに、受け付け内部にいた男性が素早く反応を見せた。予想外に早い反応に、ちょっとびっくりして飛び退きそうになった。なんでかな? 動きが速かったから?
彼がカウンターの下でのスイッチを入れると、カウンターが跳ね上がり通り抜けることができるようになった。
「おいで」
「はいっ!」
何が起こってるのかよくわからないけど、フィリップはここで保護申請をすると言っていた。これからその手続きをするのかな?
カウンターを抜けたさらに先に、赤い絨毯が敷かれた階段が見える。係員と思しき男性が、そっちにフィリップを誘導している。二階で話をするのかな?
13
お気に入りに追加
1,879
あなたにおすすめの小説
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです
青の雀
恋愛
第1話
婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる